第95話 下々の進化
「今日の昼食は何かしら?」
「バーベキュー(和風)だ」
「……何よ、その、和風って?」
「本場のバーベキューではマルクスみたいなヒゲしたデブのおじさん達が数時間かけて肉を柔らかく焼くことに命をかけるのだが、和風はもっとカジュアルで適当なんだよ」
「そう……(無関心)」
んー、今日もフランちゃんはかわいいな!
フランちゃん以外がその対応をしてきたら、文字通り死ぬまでイビリ倒すんだが……、フランちゃんとはほら、気心が知れているって言うのかな?とにかく、仲良しの恋人同士だから!
塩対応も許してあげちゃう!
……そもそも、フランちゃんは定期的に俺のせいで胃壁が削られているからな。ガチで潰れられると困るのは俺なので、それなりに大切にしているぞ。
パワハラはしたいのでするが、それはそれとして、幹部候補生を潰すほどはやらない。
加減は心得ている、人間関係は得意だからな。
いや本当に、俺のような社会不適合者が人間に擬態するのは、基本スペックの高さに物を言わせつつも、更に人間関係というコンテンツをやり込みプレイしなくては不可能なんで……。
この世界に来て俺は、本性を隠さずにやりたい放題やっているが、地球ではちゃんと一流ビジネスマンに擬態していたのだ。できない訳じゃない、人間の振りってのを。
フランちゃんもまあ、割とキツめに扱いてやっているが、壊さないように気をつけてやっている。
人の精神と肉体を壊す実験は、この世界で結構やったのでもう慣れてるし、フランちゃんを壊すことはないと宣言しておこう。
もし壊れたら?ちゃんと修理するか、何かしらにリサイクルするので問題はない。
「ふふふ、ほーら!本場アメリカでやったら顰蹙を買う串焼き肉だぞー!」
「わあい!」
「美味いでござるなー」
「あむあむ……」
はい、下僕に餌やり。
牛肉とパプリカ、或いはししとう、トマトにズッキーニなどを鉄串に刺したものを与える。
これに、バーベキューのタレをつけて食べる、典型的な日本風バーベキューである。
アメリカの豚野郎共……んん、失礼、アメリカの大変恰幅がいい方々は、こんなんじゃ満足しないらしいから、あっちで働いていた前世ではあまりやった経験がないのだが……。
短時間での料理となると、これが一番楽なんだよなあ。
いや、しかし、この女達も食べ盛り。
十代半ばなんて成長期真っ只中、腹一杯食べたい時期だ。
しかもその上、魔導師として、ほぼほぼ軍学校のような学園生活をしているこいつらは……、まあ、食うね。
並の男より食ってるんじゃない?
「ん〜!美味しいわね!タレが甘辛くて良いわ〜」
「野菜が美味いでござるなあ。野菜など、その辺に生えている草であるとばかり……。こんなに美味いものとは……」
「あら?皆さん、お野菜は大切ですよ?穀物、野菜、肉を満遍なく食べることが、健康の秘訣なんですから……。栄養学のe-Learningで習いました!」
「あー、皆さんは貴族ですから、野菜はあまり食べないんですよね?あ、一応言っておきますけど、これはエグザス様が作った野菜だから美味しいのであって、平民の食べる野菜は草同然ですからね?」
おお、下僕共が仲良くしている……!
俺のパワハラを受ける、熟練「被害者の会」なだけあるな。結束だけは一人前だ。そう仕向けているのだが……。
実際、ユキとグレイスはそんなでもないが、高位貴族のフランちゃんはかなり高飛車だからね?
これは俺が圧倒的に強いからペコペコしてるだけで、平民を顎で使うのは当たり前と習って育ってる訳だから、こいつは。
勤務態度の矯正も上司の役目だよな?
「焼くのに飽きてきたわ。エイダ、後頼んだ」
「はい!エグザス様!」
そんな訳で、既に肉と野菜は串に刺して下味をつけてあるので、エイダに焼かせる。
俺も食うか……。
うん、美味いんじゃない?
肉は、牛をベースに様々な改変を加えて作ったデータ塊なので、何肉なのかはもう分からんのだが、少なくとも、味と食感と栄養価は地球のそれに近づけてある。
いや、栄養価は不明か?ただ、肉にあるであろう成分しか入れてないので問題はないと思うが。
「魔力」は「情報」の力で、その魔力を操作することを「魔法」と定義。そうなった時、こうして、魔力を編んで生み出した「情報体」は、現実の物質として活用できる……。
やっぱり、激烈にキモいなこの世界。まあ便利だからあまり突っ込まんが……。
因みに、俺のシンパ達、つまりは新式の魔法使い達も、野営はそれなりに快適に過ごしていた。
「いやー、にしても、ジョセフィーヌの『冷凍箱』は凄いな!これがあれば食材を凍らせて、一月は保たせられる!」
「そうよ!これなら、旅先で固い干し肉じゃなくて、新鮮なシチューが食べられるのよ!」
「『探知』の魔法で鹿を探して、狩ってこよう。解体したら、冷凍箱に入れるんだ」
「『塩生成』の魔法も、こんな旅だと必要だよな。それと、『飲水生成』も……」
「『熱波』も良いぞ!火を熾さずに、食事を温められる!」
「俺、最近生成系の魔法に凝っててさ。良かったら、俺の『葡萄酒生成』で作ったワインを飲むか?」
「おお、良いな!……うん、味はまだまだだけど、ワイン煮込みとかにすれば食える味になるんじゃないか?」
「待ってくれ!このワインを『酸化』の魔法で……、よし、ビネガーになったぞ!これで、野草のサラダを作ろう!」
俺が教えた技術を応用、活用して、暮らしを楽にする魔法を使い始めた……。
俺は学園だけでなく、仕事でも日常でも魔法を使っているし、その様を他人に見られているからな。
俺のシンパでなくとも、「魔法を活用して生活を楽にする」という、概念そのものは知っているだろう……。
だが俺のシンパは、その更に一歩先を行き、「俺の技術の模倣」をする領域まで来ている……。
守破離とはよく言ったものだ。まずは隗より……いや、スクリプトキディより始めよ、ってか?
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