第92話 修学旅行(大遠征実習)
仕事はひと段落ついた。
よく考えれば、CEOどころか役員株主である俺がセコセコ働いていた方がおかしかったな。
いや、もちろん、役員株主が働いていないと言う訳ではないのだが、この世界の下の連中は俺からすると全員無能も良いところなので、ある程度俺が何もしなくても利益が出る「システム構築」に時間がかかってしまったという話だ。
ただ、適切な教導や訓練によって、一定レベルの仕事ができる奴はどんどん増えているんで、この国が滅ぶ頃にはしっかりと「企業」としての独立が可能だと、ある程度のロードマップは作成済みである。
……そんな話はとりあえず置いておくか。
何故、俺が急いで仕事をやったのか?という話からいこう。
まあ、理由は簡単。
学園でそろそろ、実習があるからだ。
この学園は、前も言ったかもしれんが、兵隊を作るような要素が強い。
なので学期末に、試験として実習があるのだ。
例えば、ダンジョンを攻略したり、行軍をしたりなど……、そう言った戦闘に関わるようなものがある。
で……、今回。
二年生最初の実習。
内容は……、「修学旅行」である。
「エグザス、明日から始まる『大行軍演習』の準備はできているか?」
今日もまた、軽く訓練場で汗を流していると、同じ班のゼスという青年が話しかけてきた。
「ん、ああ……、旅行の準備だろ?してないが、できているぞ」
俺は正直に答えた。
「一学期の半分、二ヶ月を丸々かけて、カーレンハイト辺境伯領の大ダンジョン『ヴェジェの山』に行き、モンスターの間引きを伴う訓練だぞ?あまり、舐めない方がいい」
「舐める?これは余裕と言うんだよ、油断ではない」
「そうか……」
「……そう言えば、何故今学期にやるんだ?次の学期でも良くないか?」
「一学期は9月から11月。二学期は1月から3月。流石に、生徒に冬の行軍はやらせられないと言うことだろう」
「一年の二学期は森に行かなかったか?」
「あの時は三月の暮頃、春じゃないか」
んー、まあ、矛盾はないか?
とにかく、まだ暖かいうちに修学旅行するってことか。
「行き先はカーレンハイト辺境伯領だったか?じゃあ山だな。海は去年行ったし、山も悪くない」
「いや……、休む暇はないと思うが……?」
「こういう時でもないと休めないんだよ、お気楽学生のお前らと違ってな……」
いや本当にな。
もう三十連勤くらいしてるぞ俺。
情報化社会ではない故ありとあらゆる業務のレスポンスが遅いんで、バブル期みたいな長時間ダラダラ残業して残業代だけもらっているクソ労働者みたいなムーブメントをしていることは否定しないが……。
それでも、食事をする時間も碌になく、パーティー会場で爆食いをするようなレベルであることは確かだからな。
死ぬことはないが死にそうだ。
そんな訳なので、こうして授業の最中しか休めない。
……もちろん、暇な時間は速攻で作った電話機で指示したりはするが。あと事務作業。
本当になーーー!!!
現地人の馬鹿共がエクセルの一つでもまともに使えるようになってくれればなーーー!!!
電話の使い方を浸透させるのでいっぱいいっぱいだった。
大商人などと持て囃されているような奴が、先進的技術に適応できるか?はまた別の話ってことだな。
そんな風に俺が溜息をついたところ、ゼス、ホルマン、ヘクターの三人の班員達は、いつも通りに胡乱なものを見る目で見てきた。
「まあ……、エグザスなら失敗はしないだろうから良いんじゃないかね?」
「あー、そうだねえ。黙って頭下げときゃおこぼれにあずかれる可能性もあるし、いつも通り放っておこうよ」
うむ、相変わらず信頼がない。
はい、そんな訳で荷造りタイムだ。
一年の頃の学習と、二年に入ってすぐ行われた訓練により、持ち物の良し悪しくらいは皆分かってきたらしい。
行軍でなくとも、任務の時に何を持って行けばいいか?
俺を除いて、この世界には「収納魔法」だとかの便利なものはない。
なので、持ち物は自分や従者が背負える分しか持てないのだ。
それを考えるのも、魔導師としての仕事の一つである。
仮に、ここから落ちぶれて冒険者などという賤業をすることとなったとしても、魔導師ならやることは変わらず、「他者の要請に応じて戦うために遠征」することなのだから、こういうのはその基礎的な部分になってくる。
まず入れ物として背嚢。
リュックではなく、デカい巾着袋のようなものだ。
そこに、替えの服と非常食、清潔な布、通行手形を詰める。
非常食はビスケットと干し果実、ナッツ類などが多い。干し肉は、実は塩っぱくて水が欲しくなるのであまり多くは持たないな。
というのも、基本的には、道中に簡単な獣(ウサギなど)を捕まえて、その場で解体してスープなどにすることが多いからだ。
そんな訳で、味付けのための塩やハーブなども持っていくものだな。
布は包帯とか、手拭いとか、まあ何にでも使う。
通行手形は……、魔導師なら大抵、領主から通行時に引き止められないようにと手形を貰うのが普通なんで、それを持っていく。まあパスポートみたいなもんだな。
それと、あれば嬉しいものとして、ロープ、杖、薬、火打石、松脂など。
で、腰回りなどのベルトに、別でポーチなどを付け、そこに金品やナイフなどを持つ。
それと貴族であるならば、剣なども持ち込む場合が多いな。
魔導師でも、やはりいい剣を帯びていると箔がつく。
後は外套くらいか?
俺は全部その場で用意できるので不要だ。
よし、準備ができたな。
旅行に出発だ。
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