第91話 経済勝利の為に

カーペンター子爵。


芸術及び、それを使ったビジネスに造詣が深い、オカマの巨漢。


それと、様々な商会。


俺の傘下だったり、寄親(と言うことになっている)カーレンハイト辺境伯家の紐付きだったり、カーペンター子爵家の友人だったり。


そんな奴らを集めて俺は、元スラムに建てた館で、会食を始める。


会食と言っても、先方であるカーペンター子爵たっての願いで、立食形式だ。何でも、こちら側の新しい、今までにない形式のパーティーをやって、参考にしたいらしい。


そんな訳で今回は、この世界ではまだない立食形式のパーティー。


絢爛かつ、冷めていても美味しく、或いは冷めにくく工夫されており……、更には立ったままでも食べやすい料理を並べて。


男女双方とも美形なホムンクルスを並べ、給仕をさせる……。


「我が屋敷へようこそ。歓迎しよう、盛大にな」


俺は軽く挨拶して、スピーチを始める……。


「今回は、我がアウロラ団の製品であるゲーム機の、ゲームソフトを本にする『メディアミックス』について話していく……その前に、相互理解の為に会食をしようと思う。あらかじめ言うが、ここにいる我々は、出し抜き合う敵同士ではなく、ステークホルダーと考えてもらいたい。何故ならば、我々は〜……」


と、軽く「喧嘩するなよ」と言ってから、食事だ。


訓練でカロリーを消費してしまったからな、腹が減った。


本来、パーティーは食事がメインではないんだが……、まあいいだろう。


俺は、焼けた鉄板の前で待機している男性型ホムンクルスに命じて、小さめのステーキを焼かせた。


その間、軽くシャンパンを飲みつつ、サラダバーから葉物野菜を摘む。


で、ステーキは鉄板の上でミディアムレアに焼かれて、その後に刃物で一口大にカットされ、醤油と赤ワインをベースにしたソースをかけられる。


んー、美味い。


「なるほど……。料理をあえて客の前でやって、出来立てを食べさせる、と。目の前で肉を焼く香りと視覚効果……ってワケねん?」


アスマン・フォン・カーペンター子爵だ。


青髭のある顎を撫でながら、従僕に今回のパーティーの様子を記録させている。


「カーペンター子爵、久しいな」


「あらぁん!こんにちは、エグザスちゃぁん?お招きいただきありがとうございますぅ」


「礼はいい、仕事の話だからな。今回のパーティーは、俺はいいがお前らが顔を繋ぎ合いたいだろうからと用意した場だ。同じ事業に関わる者同士、仲違いをされると迷惑だからな。これを機に話をしておいてくれ」


「ええ、そのつもりよぉん」


そうやって俺は、食事をしながらも様々な商会と顔を合わせた。


王都でのアウロラ団製品の卸先の一つとして、ビークス商会。


その会長であるバックス。


バックスはどうやら、ショッピングモールに敵わないと見て、自分の店を、完全にうちの傘下として小売をやるだけの店にしたようだ。


要するに、コンビニのようなものだな。


それで、王都でのトップクラスの売り上げにしたのだから恐れ入る。


変なプライドでウチに逆らったところは、もう王都では商売をできないからな。


最初は、王都におけるギルド……まあ、戦国時代の「座」みたいなやつらがちょいちょい文句を言いに来ていたが、俺が貴族の身分を使って、無礼打ちと称して殺しまくってたら文句言われなくなったわ。


そうすると商人達のギルドは当然、ケツ持ちである懇意の貴族などに「どうにかしてくれ!」と訴えたのだが……。


俺に文句を言いに来た貴族には、俺は速攻で決闘を申し込んでいた。


そして殺しまくった。


もちろん、貴族も馬鹿ではないので、自分が死なないように腕利きの冒険者などを代理人として出してくることもあったが……。


その度に代理人を血祭りに上げ、即座にもう一度決闘を申し込み……、本人を殺すまで決闘状を叩きつけ続けるという強いプレイングを見せ続けたところ、俺に逆らう奴は誰もいなくなっていた。


まあ貴族社会的には完全にNGで、決闘制度の悪用であり、恥ずべきことであるのは分かっている。


お陰様で俺には、貴族にはあって当然である貴族同士のコネクションも一切ない。


婚約パーティーだとか、季節のパーティーだとか、そういうものの招待は一度もされていないのだ。王家主導の年一の大きなパーティーでもない限り、社交会には顔を出さない。


貴族としては完全に終わっている状態だな。


その辺の話をすると、貴族というかこの国そのものが終わりに向かっているからセーフだろ、みたいな感覚はあるが。


とにかく、ビークス商会は、うちの傘下として小売店になることで命を繋ぎ……、それどころか前よりも稼げるようになっていた。


店名ももう、「アウロラマート」と変えさせたしな。


他にも、プライドを捨てて頭を下げた中小商会は多い。そういう奴らには俺は寛容だ、アウロラマートの看板を貸してやろうじゃないか。


頭を下げなかった王都の大商会?知らんね、死んだんじゃないの?


そんな最中に開いたパーティーだが……。


ここにいる他領の商人達も、俺とどう付き合えばいいのか分からない様子のようだった。


最初からアウロラマートの看板を受け入れると下手に出る者もいれば、どうにか共存共栄でやっていけないかと提案する者もいる……。


色々な奴がいる。


だが。


「馬鹿な……?!ここは内陸の国だぞ?エビの揚げ物など、何故……!」


「昔、行商で一度だけ口にしたことがある。これは……、南方の果実だ……!」


「見たこともないぞ、こんなもの!」


「調理の技法も、洗練されている……」


「馬鹿な……!この匙は、まさかミスリルか?!」


「こっちの壁飾りはアダマンタイトだぞ!」


俺の圧倒的な財力を見ると、誰もが理解した。


服従か、死か、と。


「エッグい性格してるわよねぇ、エグザスちゃんったらぁん」


そう言いながら、エビのフリッターを口に運ぶカーペンター子爵。


「ウチとしては、貴族なのに商売をやらなきゃ家を保てないような家だもの。今更、誰かの傘下になることなんて恥じゃないわ。けど、ウチと取引している商人達を『折る』のはいただけないわねぇん」


「ここで折れて立ち直れない程度のメンバーは、これからのプロジェクトには不要だ」


「んもぅ、相変わらず怖いんだからぁん……。情ではなく、徹底的に理と利で回す。貴族より商人のやり方なんだけど……、商人より徹底してるわねぇん」


「貴族なんて立場は、そろそろなくなりそうなものだしな」


「ハッ!アナタが『無くす』んでしょう?」


……ふーん?


「やぁねぇ、アタシだって馬鹿じゃないわよ?それくらい、気付く奴は気付くわん。カネにも名誉にも興味のないアナタだけど……、こうして商売はするし、第二王子とも懇意にしてる……。欲しいのは、『影響力』でしょう?」


カーペンター子爵は、そのままシャンパンをイケメンのホムンクルスから受け取り、一口口に含んで味わった。


「今や、アナタのゲームを知らない富裕層は、この国に一人もいないわ。他国ですらそうよん。もしも今後、アナタ以外にもゲームを作れる者が世に出てきたとしても、最初にゲームを出した『娯楽の帝王』の座は、揺るがないでしょうねぇん……」


飲み干したシャンパンのグラスを、イケメンホムンクルスに返す。


「他もそうよ。フランチャイズ……とか言ったかしらん?アナタのやる『コンビニ』の戦略。それに、『家電』……。人心を、民からの支持を集めれば、権力ではなく実益の全てを差配できれば……、実質的に、それは『王』よん。裏で社会を支配する、『影の王』……。あっ、だから秘密結社、ってこと?ふふ、面白いわねぇん」


……なるほど。


「カーペンター子爵。中々どうして、頭が回るようだ。であれば……、どちらについた方が、考えられると思うが……?」


「もちろん。全賭けよん、アナタにね?だから、『次』の社会でも、アタシの立場をよろしくねぇん♡」

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