第90話 訓練と仕事

勘違いしてはならないのだが、魔導師にもある程度のフィジカルと体力は必要だ。


運用方法的には砲兵みたいなもんなので、剣術は必須ではないが……、戦闘を生業とする者に体力が不要な訳はない。


地球の軍隊と同じだ、士官だって体力作りや銃の撃ち方はもちろん学ぶだろう?


この世界でも、魔導師ならば基本的に軍属になるだろうから体力作りくらいはする。


そして剣術は貴族としての嗜みってことで、習うのが一般的。


じゃあ、俺が父親からの訓練を拒否していたのは何故か?剣技と運動能力は重要なのに?


……それには理由がある。


非効率なトレーニングであることと、田舎の実戦剣術(という名の我流剣術)を無理矢理教えてきたことが主だ。


水を飲むなとか休むなとか、そう言うアレ。古代ショーワ文明かな?


が……、純粋に尊敬する要素が1ミリもないクズと関わりたくないという気持ちの問題もあった。と言うかむしろそれがメインかもしれん。


まあ、もう二度と会うこともないだろう人間のことなんて、別に良いだろう。刹那で忘れちゃった。


とにかく俺は、幼少期から効率的な肉体のトレーニングをしつつ、体組織に魔力を馴染ませて存在を根幹から強化して、更に肉体変性も行っており、かなりの力を手にしている。


今やもう、剣で斬られるどころか、対物ライフルの弾丸が頭に直撃しても死なないラインにあるぞ。


いや、実験によると、それをやると衝撃で吹っ飛ばされるし痛くもあるらしいが。エイダで何度も試したからよく分かる。


他にも、高熱には1200℃程度までなら耐えられるし、低温は氷点下100℃程度まで耐えた。エイダが。


電気や高濃度魔力放射、放射線、減圧と一通り試したが、結構耐えられるみたいだ。


いやあ、助かるな。


人体実験の度に、「私の身体で試してください!」と志願してくる、忠実な恋人は。得難い人間関係だ、大切にしよう。


……それはそれとして、裏切ったらワンタッチで殺せるようにしてあるが。


ああ、それで……、何の話だったか。


そう、身体機能の向上に努めているって話だ。


そうやって強化した俺の肉体は、近隣の「剣の名手」と呼ばれる奴らに勝手に取り付けた不可視ドローンから採取した剣術のデータを細分化し再構成した「機械学習流剣術」を最近作ったので、それを俺の脳にアプリとしてインストールしたぞ。


使う時は俺の意思一つで剣豪になれる訳だな。


なので貴族の嗜みである剣技もバッチリだ。


素振り?型稽古?いらんいらん。


俺の脳の圧倒的な演算力で、アプリを走らせて、俺の脳に自動で判断させれば良い。


しかも、AI剣術はプログラムなので、随時情報を集めてディープラーニングにより強化される。


俺の身体を動かすのも、俺の意識ではなく術式。


つまり、俺は寝ていても強くなり、衰えることすらないのだ。


「反則ではないかッ?!!!」


俺に木剣を弾かれるのは、同じ班の知人、ゼス。


「効率的に魔法を使えば可能なことだろう?やらない方がアホなんだよ」


「ならこいつはどうかな?」


背後から蹴りをぶつけてきたのも、知人。ホルマンだ。


「格闘術バージョンを作っていないとでも?」


俺は片手のみを腰の後ろに回して、ホルマンの足首を掴み……。


「え?ちょっと……、うわわ!」


隙を窺っていた知人、ヘクターの方に投げ飛ばした。


「そこまで!」


そこで、教師……クルジェスのジジイによってストップが入る。


「……なんじゃそれは?ハウル家の足運びに、腕の振りはザンゲツ家、手首の返しはウィンソード家で、目付けはクルジェスの実戦剣……。どうやった?」


「さっき説明しただろ。世界各地の剣士にドローンをつけてモーションを収集。細分化及び体系化し、時間を加速させた圧縮仮想空間で五千万程度のアバターを殺し合せ、遺伝的アルゴリズム等を利用し最適化した行動をアプリケーションとしてまとめて、それを利用している」


「何を言っているが微塵も分からんが……、それもお主の術の一つか?」


「そうとも言えるが、アプリケーションとしても規定のアプリとして脳内に保存し常時起動させてあるから、魔法が使えない状況でも使えるようにしてあるな」


「うん……、まあ……、うん。良いじゃろう、認めよう。戦場では使える物は全て使うのが正しいやり方じゃし」


そう言って頷いたジジイをスルーして、俺はこの班のリーダーとして言葉をかけた。


「体術はまあ、こんなものでいいんじゃないか?魔導師の体術はあくまでも嗜みに過ぎないから、そこまで本腰を入れることもないだろう」


「だが、エグザス。魔導師とはいえ、急に攻撃された場合はどうする?」


「魔力によって身体強化をしておけば、半端な奇襲では死なん。心配ならば、防衛魔法のe-Learningを受けろ、マギアパッドで先日配信した」


「……分かった。では、魔法の訓練だが」


「悪いな。俺は一時間後にカーペンター子爵と商会との会食がある。そろそろ失礼するぞ」


「あーうむ、今日の点数は満点をつけておくから、行ってこい。国益が優先じゃ」


流石はジジイ、話が分かる。


「魔法は、マギアパッドにメールで送った訓練プログラムをやっておいてくれればいい。終わったら折り返し連絡くれ、その時はまた何か考える」




学生と商売人、二足の草鞋は大変だ。


俺は正装に着替えつつも洗浄の魔法で汗を消し去り、ホムンクルス達に会食の用意をさせた。


今回は、カーペンター子爵と、その懇意にしている商会らとの会食で、話す内容はゲームのメディアミックス化。


その工程で「活版印刷」や「多色刷り」、「漫画」などと言ったオーパーツがまたこの世界に生み出されることになるが、まあ良いんじゃないの?俺は知らん、儲かればいい。


いや、金も最早意味はないな。


ただ俺はアホほど稼いで世界一の富豪になり、各所に影響力がほしいだけだ。


秘密結社なんだからな。


秘密結社をやろうにも、秘密にする必要があるほど成熟した法も社会もないこのクソバカ世界も、百年二百年と時間が経てばそれなりには文明が進むはず。


その時までに、金、資源、技術を独占しておきたい……。


あーつまりこうだ。


ロックフェラー家はご存知で?


石油王、ジョン・ロックフェラー。


近代、まだ石油の使い道があまり定まっていない時代に、石油の精製所を作って運用して……、そして社会が石油を基盤とする社会になることには、石油関係を一手に握っていたため、大金持ちに……という。


ロックフェラー家は財団として残り、現代でも力、影響力があるな。陰謀論っぽく聞こえるが、これは事実だ。


……俺もそれを目指すと言っている。


新式魔法を始めとする新しい魔法技術、確かな工業力、そして資本と権威。


これらを独占、或いは上手く運用することにより、アウロラ団は後世に影響力を残し続けるのだ!


その為に俺は働いている訳だな。


さあさあ、ビジネスだ、ビジネスの時間だ……。

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