第89話 はい四人組作ってー

俺は基本的に、自分以外の人間を見下している。


だがしかし、侮っている訳ではない。


できるならできると、現実をありのままに評価するつもりだ。


第一、インターネットやSNSのある広い社会で生きておいて、他人の優位性を認められなければ、それは気狂い。頭にアルミホイルを巻いているタイプのイカレポンチだろう。


俺は優れている。


知識も、知能も、精神も、肉体も、外見も。


だが世の中には、絵を描くことだけが異様に上手い気狂いがいる。自分の耳を切り落とした例の人とかもそうだな。


バカだが体力があって単純作業をできる奴もいる。学はなくとも技術はあるブルーカラーは、社会基盤やインフラの担い手であり、見下しても無碍にはできないな。


その辺りの話をすれば、二十一世紀でも、工業機械で再現不能な製品を作り出す職人だっていた。職人もまあ学はないだろうが、その技術は尊敬に値する。


俺は完璧、パーフェクトな存在だが、それはそれとして……、俺が何人もいればドリームチームという訳ではないのだ。


その気になれば俺でもできることや、俺でも訓練すればできることを、世の中の大半の無能や、ちょっと使える奴を、上手く訓練してやって……。


上手く使って、仕事を代行させる。


これこそが社会というものだろう。


「できない」と「できるのにやらない」のでは天と地ほどの差があるとはどこかで聞いたが、本当の上位者は、「できるのにやらない」という行動をあえてやるものなんだよな。


俺ができるからと言ってコーヒーショップの店員をやるか?コンビニバイトをするか?逸失利益がデカ過ぎるだろう、そんなのは。


地球の企業だってそう。


一流企業ならば大抵のことはできるのだろうが、全部を自分でやるのは色々と問題がある。なので、アウトソーシングする……。


多重中抜き構造は良くないが、バイトでもできるような仕事を社員にやらせるのは非効率なんだよ。


……いやまあ、最近は下請けに委託し過ぎて、IT企業なのにITが分からん社員しかいない企業とかもあるらしいけども、まあそれは例外だと信じたい。その方が精神衛生上よろしい。


とにかく、だから俺は今、将来的に社員になれそうな新入生をスカウトしていた……。


「エグザス様、こいつは僕の弟です!取り立ててやってください!」


「私の妹もお願いします!魔導師としての高みに……!」


「僕の従兄弟にも教育を!」


……と思ったが、募集活動をするまでもなく、集まったな。


同学年や上級生の内、秘密結社に入ったガキ共が、身内を紹介してきたから。


確かに、一年だけとは言え俺の教育プログラムと、秘密結社入社による優待制度を受けてしまえば、もうこれなしでは生きていけないだろう。


純粋に、学校で習うよりも先進的で、即物的に考えた場合でも魔法の威力や射程、バリエーションが増大するのだから、やらない手はない。


可愛い身内に、その恩恵を与えてやりたいと思うのも、当然のことだ。


と言うより、最早俺の新式魔法がデファクトスタンダードとなりつつあり、使えない奴は今後困るのが馬鹿でも分かる状況にあるんだよな。


今、俺の新式魔法を使わないのは、王党派の熱心な信奉者か、俺に叩きのめされて怯えて近付かなくなった腑抜けかのどちらかだ。


目端の利く奴は皆、俺に頭を下げに来ている。


貴族の常識ではあり得ないが、それくらいに俺の新式魔法が革新的で価値があるのだろう。


それに、このビッグウェーブに乗り遅れたらお家が終わるとまあ普通の判断力をしていれば分かるだろうしな。


「良いだろう!希望する新入生には全員、魔法学習用のマギアパッドとマギアタブレットを配布する!」


そして今は、こっち側……アウロラ団も、組織への忠誠心よりもとにかく人集め。


利益をばら撒けば、とりあえず集まるからな。


会社の規模ってのは一気には拡大できない、少しずつやらねば……。




そうやって、人を集めて教育を始めたところで……、俺本人も勉強。


最近は、クルジェスのジジイが「いつも同じ部下と連んでいては訓練にならんじゃろ」と言い、フランちゃん達を俺から引き剥がして別の奴と組ませるなどされたので、そいつらと訓練している。


まあ確かに正論だと思うし、俺も天才ではなく凡才を上手く教育して動かす練習がしたいなーと思っていたので受け入れた。


で……、今は、学園の広場というか訓練場で、体力作りや筋トレをしている……。


「エグザス、前から聞きたかったんだが、アウロラ団は全然秘密ではないのに、何故秘密結社を名乗っているんだ?」


井戸から汲んだ水を飲みながら、訓練の熱を冷ましつつ聞いてくるのは、ゼス・ハウル。


茶髪に三白眼の、強面な青年だ。


「ああ、本当は非合法活動をガンガンやろうと思っていたんだが、この国の法律が緩過ぎて、あくどい儲け方をやっても規制されなくてな。名前だけ秘密結社として残ってしまった訳だ」


独占禁止法も労働基準法も、消費者保護法も……、知的財産、個人情報取扱、環境保護もぜーんぶ無視でOK!ってんだから、真面目に法の穴を突く方法を考えてた俺は道化だったよ。


それに、エイダも秘密結社ごっこをやりたがっていたしな。


まあまだまだ若いし、しばらくは遊んでおこう、ということだ。


「そうか……。やはり我が国は、内務に問題を抱えているのだな。武門であることが恨めしい、俺には政治は分からん……」


そう呟いてから、再び、訓練用の木刀にて素振りを始めるゼス。


「はっ、真面目だねえ。ゼスちゃんも結構可愛い顔してるんだから、肩とケツの力を抜けば良いのにな?」


そう言って、ウェイトを挙げての筋トレ中の、ガタイのいい黒髪短髪。


顔の濃いこの男は、ホルマン・カーペンター。


オカマのカーペンター子爵んところの倅だな。


どうやらこいつもゲイらしい。


「悍ましいことを言うな、ホルマン。俺には婚約者がいる」


「俺にだっているさ。こんな性癖でも、貴族として魔導師として次の世代を残さなきゃならんからな」


吐き捨てるホルマンに……。


「ホルマンの婚約者って……、あのゴリエさん?凄いね、アレを抱けるんだ君」


柔軟運動をしながら、そう茶々を入れるのは。


明るい金髪の三枚目、ヘクター・コールランドだ。


「ゴリエは俺が選んだ一番の女だぜ?アレでナニが付いてりゃなあ……!」


「じゃあほぼ男ってことじゃん……。まあ、エグザスも男娼を側に置いてるし同じかな?」


「アランか?あいつはホルモンバランスを弄って……ああ、女の身体に近付く禁呪のようなものを自分にかけ続けているから、女と男の中間のような生き物だぞ」


「それはそれで、なんかヤダね……」


ドン引きするヘクターに、石の塊を抱えながらスクワットするホルマンが答える。


「というより、俺もエグザスもタチ専だ。同性を抱くとしても、俺達はそう言う関係じゃない」


それに、と。


俺がホルマンの次に発言する。


「もっと言えば、俺は女の方が好きだぞ。男でも顔が良けりゃ抱けるってだけだ」


「うへえ……。性行為なんて、あんなの楽しくも何ともないじゃないか」


「「楽しいだろ」」


「いやあ、僕ん家では訓練でやらされてるからねえ……」


ああ、コールランド家は暗部の家系だものな。


そういう訓練や、色に溺れて失敗しないようにする為の教訓などがあるんだろうな。


まあ、とりあえずそれは良いとして。


「お前達!訓練に集中せんか!」


「「「はい!」」」「うーっす」


俺達は、クルジェスのジジイに従い……、肉体の訓練をしていた……。

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