第88話 久々の登校

二年生になった。


今年のアウロラ団としての目標は、幹部陣のリーダー化研修と、構成員達の教育、そして新一年生の勧誘だ。


事業としては、新作のゲームのリリースのみ。


一方で、学園のカリキュラムとしては……。


相変わらず、秋、冬、春の三学期があり、それぞれの学期末にある試験に合格しなければ進級ができない、と。


その基本形はそのまま。


しかし、今後はそこに追加で、軍学や軍隊魔法が入ってくるらしい。


一年の時は、全員が、魔法の才能はあれども素人で、戦力になるレベルに達していなかったのだが……、一年間の授業によって、最低限は戦えるようになっていた。


ゴブリン程度とは言え、初の「殺し」も体験し、魔法で他人を傷つけることもできるようになっており……。


更に、最低一種類とは言え、「中級魔法」を全員が習得していた。


魔法には等級による大まかな分類があるのは、前もどこかで言ったと思う。


おさらいしておくと、魔法を軍事利用できない、戦闘レベルで活用できないレベルの弱い魔力しか持たない者を「魔法使い」とこの世界では呼び、そんな魔法使いでも行使できる程度の術を「初級魔法」と呼ぶ。


これは、指先に火を灯すとか、桶一杯の水を出すとか、その程度のもの。工夫にもよるが、直接的な破壊力は乏しい。


一方で、最低限とは言え殺傷力を持つ術を「下級魔法」と定義する。


下級魔法であっても、行使できればそれなりの戦力にはなるし、戦闘レベルで魔法を行使できる存在……「魔導師」の弱攻撃や牽制技にもなる。


で、「中級魔法」だが。


これは、「魔導師」でなくては行使できない、強力な破壊力を持った攻撃魔法のことを指す。


「魔導師」の使命というか役割は、戦争における「戦車」や「戦闘機」のようなもの。


対敵国でも、対モンスターでも、攻城兵器や狩猟用ライフルのような、ただの人間にはできない破壊力の行使こそが魔導師の役割であるからして……。


この中級魔法というのは、使えないとお話にならない、魔導師の役割を果たす為の技術だ。


具体的に言うならば……、まあ、例えば「火」の魔法があるな。


初級魔法であれば、ライター程度の火を出すもの。


下級魔法なら、人の頭ほどの火の塊を吹きつけて着火する殺人的攻撃。


そして中級魔法ならば、高熱の火の槍を射出して、モンスターの甲殻でも城の門でも抉り焼く……、対戦車砲ほどの威力がある攻撃になる。


魔力によって身体能力を底上げするような兵士はいるが、そうだとしても、プレートアーマーに盾と剣では、この中級魔法は確実に防げない。


城の門も直撃すれば破られるし、人間が勝てないような大型のモンスターにも痛打を与えることができるだろう……。


そんな中級魔法は、魔導師の家系の家伝などの例外を除けば、基本的には国が管理をしている。下級以下の魔法なら、市販されているレベルの本などから学べるんだが、中級は危ないから流石に大っぴらに知識公開はされていないってことだな。


中級魔法を教えるのは、この学園。つまりは、国なのだ。


ケチなこの国が知識をくれるのか?とは思うが、どこの国も魔導師の育成は割とガチでやっている。それに、同じ中級魔法を教えるのは、戦列を揃えることにもなり有効だしな。


寧ろ、強くて効率的な中級魔法を作って、それを自国の魔導師に公開して戦力強化を図る!みたいなのが、この世界の普通の国だ。


とにかく、一年生、いや、今の二年生は、全員がそれぞれの得意とする属性の中級魔法を、最低一つは習得していた。


なので、実情はどうあれ、最低限は「魔導師」としての仕事をこなせるようにはなっているのだ。


だがもちろん、魔法が使えれば、軍人として貴族としてOKです!だなんて、そんな馬鹿な話はない。


これからは、中級魔法が使えることを前提とした、魔導師同士での協調や軍務について叩き込まれていくことになる。


中級魔法の具体的な「使い方」……「運用方法」を学ぶ訳だな。


威力が威力なだけあって、フレンドリーファイアなんてしたら目も当てられない。戦列を組んだ時やチームで動く時などの、皆で揃って魔法を使う時の動き方とか、そういうのをやっていくらしい。


それが、二年生の主題だ。


その後は、学園の騎士クラスの騎士見習い達との協調や、もっと大規模な戦場での動き方を習う軍事演習モドキなど、様々なカリキュラムが三年生四年生と続いていくそうで……。


結構、大変らしいな。


落伍者、落第者も割といるらしく、そんな奴らは退学して実家から勘当されたりして仕方なく冒険者などになり、そこから活躍することもあるらしい。まあ余談だな。


で……、長々考えた上で。


「あれ?今年は学園に通わないとちょっと問題が多いか?」


と、そう思い至った……。




俺は一般人なので、流石に軍学なんてものは知らない。


いやそりゃ、究極的な話をすれば、いつぞやに作ったロボット集団を数揃えて突撃させればどんな国も滅ぼせるが、この世界基準の軍学とかそういうのはちょっとマジで分からないのだ。


一応、学園にある蔵書は全部読んだが、実地での知識は少しも持っていない。


なので、軍学に限っては、授業に出ないと単位が出なさそうなのだった。


それに、定期的にある行軍演習や、部隊指揮の訓練なども、出席しなければ分からない。


そんな訳で俺は、普通に授業に出席した……。




「今年度から始まる『軍学』の教師、バール・クルジェスじゃ。技術や知識だけではなく、魔導師として軍務に当たる者として欠かせぬ心得も教えてゆくぞ。力を持つ者であれば、それ相応の義務があると知るべきじゃからのう」


はい、そんな訳で。


担当教師はいつものジジイ。


戦狂いと渾名される法服貴族のクルジェスだ。


「……お主、何故ここにおる?」


「生徒だぞ俺は。居ておかしいか?」


「……まあよい。好きにせい」


小言を貰ったが、まあこんなものは想定内。


適当に流して授業を聞く。


「……ではまず、指揮や戦闘の技術の前に覚えておかなくてはならないことから覚えてもらう。まず、戦いというものには『私闘(フェーデ)』と『戦争』がある。違いが分かるかの?」


「ああ、ルールがある喧嘩と、話が通じない奴らとの殺し合いってことだろ?」


「まあ、雑に言えばそうなるのう。私闘は、貴族同士の名誉をかけた決闘などを指しており、お互いに戦いの前に勝敗に何を賭けるかの取り決めの上に行われるもの。戦争は、取り決めのない殺し合いじゃ。戦争については、今は小康状態故、私闘における作法についてから教える……」


と、まあ、こんな感じで。


普通に授業を受けている……。

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