第83話 ユキちゃんの里帰り

『どうだ、ユキ。実家の方は?』


「はっ!問題ないでござる!」


『ん?問題ない?ってことは、何かあったのか?』


「はい。家族皆に、エグザス殿に嫁ぐと言ったら反対されて……。まあ、皆半殺しにし、認めさせたので!」


『ふむ……。お前がそれで良いんなら良いけど、一般論として家族とは仲良くした方が良いんじゃないのか?』


「もちろんでござる。しかし、拙者のお家では、意見がぶつかり合うと剣術で決着をつけるのが常!心配はござらん!」


『そうか。まあ、休暇中はしっかり休んでおけよ』


「ははーっ!」


『……エグザス様ぁ♡』『ん、ああ……』


「んん?誰か隣にいるのでござるか?」


『いや、アランが隣にいるんだ』


「……そ、それは、まさか寝室に、でござるか?」


『そうだな』


「寝室に……、美少年が……、居ると。そう言うことで……、ござるか?」


『そうだ』


「それは、美少年とエグザス殿が抱き合って、肌と肌を密着させていた……、ということで、ござるか?そういう認識で良いんでござるか?」


『……それがどうした?』


「エグザス殿が、美少年の儚くも白い肌に手を這わせ優しくねっとりと愛撫し、少年と褥で愛を語り合ったと……、そう言うことで、ござるか?」


『……そうだが、何だ?お前、おかしいぞ?』


「拙者のことはどうでも良いでござる!それより、それより!エグザス殿とアラン少年との絡みを!絡みを聞かせてくれでござる!!!!」


『大丈夫かお前?』




この国の国教である聖教では、同性愛は禁忌でござる。


というか普通に気持ち悪いし、子作りできないのに男同士で絡み合うのは無意味だ!と。


前までは、拙者も、むさ苦しい男同士で絡み合うなど吐き気がする!などと思っていたでござるが……。


エグザス殿!


ため息が出るような美男子!


作り物じみた美形、白過ぎる肌と歯列!輝く黒の御髪に、ムダ毛どころか余分な毛穴すらない美肌!鍛え込まれた高身長な肉体は、青年と少年の美しさを併せ持つ!!!!


精悍ながらも幼さを残す顔つきは、この時期の男子にしか見られない未完成で貴重な美しさでござる!!!!


アラン少年!


中性的な獣人の美少年!


癖のある黒髪に、女のような撫で肩!華奢であるが、男らしい骨の角張った骨格を、きめ細やかな白肌で包む!十三の年頃とは思えぬ、幼なげで未成熟な身体付き!穢れを知らぬ天使のような愛くるしさ!!!!


スラリと耽美な肢体に、甘く蕩けるような美しい顔つき!あどけない柔らかな微笑みを向けられると、何でも与えたくなってしまうような魔性の少年!!!!


この二人の性的な絡みでござるよ?いやー最高でござるな!!!!


美しい青年と、愛くるしい少年の愛!


たまらねぇ……!たまらねぇでござる……!


拙者も、愛人として可愛がっていただけているんでござるが、なんというかこの……。


宗教的禁忌な愛を見ていると、その、こう……。


良い!


良いんでござるよ!!!!


はぁ〜、実家はいつもガチガチに厳しくて、何でもかんでも引き締められて……。


貞淑になれ!と、親兄弟であっても男性とは口を利くことが殆ど許されず、ただ家伝の魔法と剣技を教わり、ずっとずっとひたむきに努力をしてきたのでござるが……。


今の、やりたい勉学をやりつつも、余暇に好きなことをできる環境が、あまりにも!あまりにも良すぎるのでござる!!!


うちの、オーガのような親族一同と比べたら天と地ほどの差がある、キラッキラの美男子!


素敵な美男子にお仕えして、美味しい甘味を楽しみつつ、イチャイチャラブラブちゅっちゅな毎日でござるよ?もう天国なんでござるよね。


いや本当に、うちは武辺者が多く、代々王家などの名家の剣術指南役を担ってきた家系でござるからね。どうしても、厳つくて恐ろしげな巨漢が多くなるんでござるよ。


それに、女は貞淑であれ!と躾けられた為に……、男というものを殆ど知らずに育ち……、いつかは白馬の王子様に!などと、子供じみたことを妄想して生きてきたのでござる。


それが、いや、本当に。


白馬の王子様みたいな美青年の恋人って!


たまげたでござるよ、本気で。


自分で言うのもなんだけど、拙者、男への耐性が微塵もなかったでござるよ。


知っている男も、親族のオーガ男共か、初老の庭師くらいのもの。


幼少期に顔を出した貴族としてのパーティーで、初めて同い年の少年を見たくらいでござったなあ。


こっそり買った美少年の描かれた絵葉書が、理想の男子でござったものよ。


そこで……、そこで、こんな超美青年をぶつけられればね、もうね、狂う……!


もちろん、厳しく育てられたのは窮屈で辛かったのは事実でござるが、今の自分の糧になっている以上、恨んではいないでござる。


しかしやはり、厳しい躾をされていたことをエグザス殿から伝えられ、学園で周りの人々から話を聞いて自覚すると……。


……拙者は、弾けた!


もー、ダメでござる!


堕ちるの楽し過ぎぃ!


美味しいおやつを食べながら、夜更かししてゲームして!


素敵な旦那様に甘えんぼ♡して、旦那様が他の女どころか男と絡み合っているところを見て、快楽に脳を浸して!


今までは家の躾の方針で習えなかったような、菓子作りに刺繍なんかを習って!可愛いぬいぐるみを集めて、ネコチャンを飼い!リボンでフリフリのキャワイイお洋服を着て!


好きなこと、やりたいこと、何でも全部!全部、やらせてもらえるんでござる!!!!




「……なので、拙者の幸せな生活を奪うのであれば、親兄弟であっても構わず斬るでござるから。口出し無用でござる!」


と、まあ。


拙者は、木刀を担いでそう言ったんでござるよね。実家の練兵場のど真ん中で……。


「お、お主、お主なあ……?!」


顔をボコボコにされ、コブだらけの父上が、木刀を杖にしながら立ち上がる。


「何か?」


「たった一年で、よくもそこまで色ボケしたな?!しかも、強くなっているし!一体、どうなっているのだ?!」


どうなっているか?


「そりゃあ、愛すべき旦那様……ご主人たまのエグザス殿に鍛えてもらったんでござるよ。我が家は、高等貴族家への武術指南役で禄を得ているのでござろうが、エグザス殿の『力』からすると、そんなものは児戯だったと言う訳でござるな」


「……噂の、天才魔導師か。よく分からない術式を使い、王家にすら牙を剥くという?」


「牙を剥いているのは王家の方でござるな。楯突くとか牙を剥くだとか、そういうような表現は、弱い方が強い方に向かっていくからするものでござろう?圧倒的に強い方はエグザス殿。ここを間違えると、お家の存続に関わるでござるよ」


そう言いながら拙者は、木刀を投げ捨てて、屋敷の中へと戻ろうとした。


しかし……。


「ま、待て!一族を捨てるのか?!」


と、呼び止められる。


はて、捨てる?


「そんなことは言ってないんでござるが……?一族には、育ててもらった恩がある故、捨てるなどとは思ってないでござる。そう習ったでござるからな」


「では……!」


「しかしながら、こうも習ったでござる。『嫁に入るならば、夫に尽くせ』と……。その通りに、拙者は、エグザス殿に尽くすのみ!こればかりは曲げること、まかりなりませぬ!」


「……女子とは、親も気付かぬうちに、すぐに大人になるのだなあ」


そう、ポツリと溢すと、父上は。


「好きにせよ。しかし、一度口に出したならば、やり通せ!意地を張るなら、貫けよ……!」


絞り出すような声で、仰られた……。


「はいっ、父上!」




「あのさっきから気になってたんだが、その服……リボンでフリフリのドレスは何なんだ?似合ってないぞ……?」


「疾ぃっ!!!」


「ギャーーーッ!!!」






×××××××××××××××


ビルトリア王国偉人伝 抜粋


ユキ・ザンゲツ


ビルトリア王国でも名高い剣術家の家系、「ザンゲツ家」の次女。

魔神エグザスのアウロラ団において、外交や対外交渉役を担った。

並列魔法の達人であり、後の世で流行する魔法による決闘においては百戦無敗を誇る。対外交渉の為に、一人で敵陣とも言える外国等に行くので、身の安全のために個人での戦いを極める必要があったと、後世に言葉が残っている。その戦いぶりから、異教の神の名を取って「阿修羅」と恐れられた。

また、本人は非常に開放的な女性で、当時では考えられないほどに開放的かつキュートなデザインの衣装を身に纏っている写真などが多数現存しており、近年ではそれを旗印に「女性の権利」を訴えかける活動があった。(出典:女性解放の歴史/1巻)

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