第79話 ダンジョン演習

えー、ダンジョン演習。


ごく普通に洞窟があって、その中にモンスター召喚の魔導具(当然ながら禁制品で一般人は所有不可だぞ)が設置されており、そこから湧いたモンスターが徘徊している、人工のダンジョンだな。


それを、生徒達が攻略していく。


まあ学園は五年間のカリキュラムが組まれているから、この最初の一年は基本的に、戦場の雰囲気に慣れることと甘えを削ぎ落とすことが主眼に置かれている。


モンスターを指定数倒すったって、ゴブリンを一人一匹狩ってこいと、一グループに一人の教官がついての演習だ。


万が一とかもないだろう。


俺個人としてはそんなことより、モンスター召喚の魔導具がめっちゃ気になるな。


禁制品故に、手に入れる方法どころか、誰が持っているのかすら分からないレベルのもの。その為、今まで見たことがなかったのだ。


……ん?


あ、そうか。


この人工ダンジョンのモンスター召喚の魔導具を借りれば良いのか。


もちろん、壊したりはしない。


ちょっと調べるだけだ。


そうと決まれば、ダンジョンの最奥を目指すか!




さて、学園の人工ダンジョン。


近所の森の中の洞窟を人工的に削岩して拡張し、光を取り入れるために洞窟の上部を少し削って、更に内部のゴブリンが外に出ないように衛兵を数人配置した、アトラクションのようなもの。


ゴブリンには、残飯や人糞などのゴミを、採光部にもなっている天井の穴から落として食わせているらしい。


そんな訳なので、内部のゴブリンは程よく飢えており、力も弱い。


総じて、雑魚が腕慣らしするにはバッチリのベストプレイスだろう。


先日は、学園の騎士科の生徒達が攻略したそうなのだが、ゴブリンの補充はできているそうだ。ますます、モンスター召喚の魔導具は興味深いな!


で、攻略だが、もちろん、今更こんなことに手古摺る訳はなく、即終わった。


今は、モンスター召喚の魔導具を分解して解析している……。


「何やってるんだい?」


あ、因みに、俺の教官としてついてきたのは、学園長の婆さんだぞ。


「ちょっとこの魔導具を解析してるんだ。終わったら元に戻すから、少し待ってくれ」


「……まあ、坊やならできるさね。仕組みが分かったら、私にも教えとくれ」


そうね、モンスターを召喚する魔導具は、遺跡とかから発掘される古代文明の遺産……所謂、レリックとかそういうものだからね。


それの解析ができたら快挙だし、国力アップにも繋がるだろうから、婆さんが聞きたがるのもおかしくないだろうよ。


んー……、けど……、これは……。


「あー、分かったわ」


「なっ?!消えた?!」


指定のフォルダ(別世界)に移動してみた。


モンスター召喚の魔導具を見た感じでは、モンスターを指定数、「モンスタースポーンエリア」から取り出して、表世界に押し出す感じになっていた。


もうこれは研究で分かっていることなのだが、モンスターはどうやら、魔力の濃度が一定以上の場所でスポーンするのがこの世界のルールらしい。


なので、魔力を操作して凝固させると、何かしらのモンスターが生成されるのだが、それも人の魔力だとダメっぽい。恐らく、魔力の波形の問題だろう。


だから魔力を集積する魔導具を適当に作ってモンスターの生成ができないかなーって思いつきで試したら、モンスターの失敗作みたいなまだら模様の触手塊みたいな悍ましい化け物が生成されてしまい、それを見たフランちゃんがビビって泣いちゃったのは記憶に新しい。


自然な魔力結合では、その地に相応しいモンスターがスポーンするのだが、人工的に魔力を結合させると失敗してしまうのだ。


で……、ここは恐らく、ゴブリンを生成するのに最適な魔力波動に満ちた世界(ワールド)のようだ。


なんか知らないけど緑色と紫色のビカビカしたマーブル模様が広がる謎の気持ち悪い亜空間。


その亜空間から、ゴブリンがポコポコ生まれている……。


キモいなあ。


とりあえず、ゴブリン生成の魔力波動は覚えた、覚えたが……。


他のモンスターの生成方法は分からないままだ。


作ることそのものはできても、決定的な波形が分からんのよな。普通ならプログラムの端の方に//でコメント書いてくれるのが親切さだと思うんだが、この世界を組んだプログラマはその辺を気にしてないらしい。クソかな?


でもまあ、一歩前進ってところかな……。


はい、元の世界に戻った。


「なっ、何をしたんだい?」


「世界転移。ゴブリンの作り方を覚えたが、他のモンスターの作り方は分からなかった」


「ああ、そうかい……」


そんな話をしつつ、修復したモンスター召喚の魔導具を修理して洞窟に再設置し、出ていく……。


もちろん、試験は合格した。




エイダ達、アウロラ団の仲間達も無事に試験を合格して、合格できなかった落ちこぼれも教師のサポートでどうにか合格。流石に、一年で留年は拙いらしい。


その後は、六月から九月までの長い長い夏休みの始まりだ。


……この学園は、アメリカのそれのように、夏休みが長く、夏休み明けから新学期が始まる形式になっている。


三ヶ月もの夏休みは、遠方から来ている貴族家の子供達が帰郷できるようにという配慮だな。


何度も言うが、この世界は馬車でのゆっくり移動しかないから、ちょっと遠くに行くだけで一ヶ月とか余裕でかかるのだ。


「で?お前らどうすんの?」


「「「実家に帰ります」」」


フランシス、ユキ、グレイスの三人が言う。


こいつらはまあ、貴族としての付き合いとかもあるだろうしな。


あまり束縛してもアレだし、親くらいには顔を見せてやれと笑顔で送り出した。


……何故か全員、かなり怪訝な顔をしていた。うーん!信用がない!


一方で、俺とエイダは、実家には帰らない。遠過ぎるし、行ってもやることはないしな。


エイダに至っては、故郷に帰ると嫌な思いしかしないと考えているらしく、「帰りたくないです!」と訴えかけてきた。


かわいいかわいい俺のエイダがそう言うんなら、そうするとも。


そんな訳で俺は、夏休み中、アウロラ団のアジトになっている自宅(元スラムの館)で休暇を楽しむこととした。


いつもはFPSプレイヤーや格ゲーマーみたいにイヤに他人とバチバチバトルする毎日を過ごしているので、バカンスくらいは楽しみたいものだ……。

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