第78話 国崩しの後

「ヨシ!」


「何も!良く!!ない!!!」


音の鳴るオモチャことフランちゃんがまた何かをほざいているが無視して、俺はショッピングモール・アウロラの会議室でホワイトボードを叩いて言った。


「えー、現在、プロキシア共和国の主要な議員達は全員、夜逃げするか自殺するかしました!我々の勝利だ!」


「……ついに、本当に国を一つ壊したわね!イかれてるわよアンタは!」


「ははっ」


「何笑ってんの?!笑う要素あった?!」


「えー、それはさておき、お前らは本当に駄目です。何が駄目かというと、敵地で出された料理を食べて、薬で眠らされるという大ポカをやらかしたからです」


「そ、それは、そうだけど」


「なので全員、今後は幹部として身を守る術を教えます!」


「……本音は?」


「そういう名目で若干イジメちゃおうかなー、みたいな?」


「助けてー!夫に殺されるぅーーー!!!」


ははっ、DV被害者かな?




さて、幹部共を再教育センター送りにし、崩壊したプロキシア共和国王都で後処理を済ませたら……。


おや、もう一年目の三学期が終わりだ。


どうやらテストがあるらしく、俺は学園に戻ることとした……。


学園。


俺が学園に帰ってくると、即座に王宮に召喚され、プロキシア共和国崩壊について訊ねられる。


「もぐもぐ……、だから、プロキシアはムカついたから潰したんだよ。なんか文句あるか?」


「ふ、ふざけているのか?」


王が聞いてくる。


「ごちゃごちゃうるせえぞ?奴らは俺の癪に触ったんだから潰されて当然だろうが。そもそも、お前らだって本当は殺してやりたいが、友人であるギルバート第二王子の面子とかそういうのに配慮して見逃してやっているんだぞ?」


「そ、そうか」


この王もふざけた野郎だ。


少年マンガの主人公みたいなノリで話す猪武者のクソアホ……。


正直な話、こんなふざけた野郎とは顔を合わせるのも嫌なくらいだが、第二王子のギルバートは友人だから、それに配慮して仕方なく許してやっている。


実際、こいつがアホのせいで俺の半生がアレだった訳だからね?


地球のまともな国の政治家と違って、統治どころか中央集権国家にすらできていないのはもう本当にカス……。


流石に力の差は分かり始めたらしく、直接的に手を出してくることはないが……、潜在的な敵みたいなもんである俺が弱ってたらまず間違いなくなんかやってくるだろうし、味方ですらない。


俺が、味方ではない奴をそばに置いているのって、めちゃくちゃレアケースなんだけど。


一応俺にも良心はあるからな、フランちゃんへの配慮とかもあるし……。


……その辺は良いか。


とりあえず、説明しろ!と言われたから、「むしゃくしゃしてやった、反省はしてない」とコメントを返信してから、俺は学園へと戻り試験へと臨んだ……。


えー、で、学園ね。


学園に帰ってくると、反応は基本的に二分。


潜在的な敵国ではあった(まあこの時代の国々に友好関係なんてものはないんだが)プロキシア共和国を崩壊させた英雄を畏怖と共に見つめるのが三割くらい。


残りの七割は、理解不能のバケモノを見る目をしている感じ。


まあいつも通りなので良いとして……。


「何をやってるんだい、エグザス!」


極普通に学園長の婆さんに怒られた。


常識的に考えると、国を滅ぼすのはわるいことなので……。


その点につきましては言い返せないんだが、それはそれとして。


「やめてくれよ婆さん。国一つ崩したくらいで……」


「アンタの癇癪で、何人の人間が死んだと思う?!」


「観測した限りでは五千四百十一人、内男性が64%で、十五歳以下の未成年は千二百二十人死んだな」


「知っててそれかい?!一番タチが悪いねえ……?!」


「だが婆さん、ありゃ敵だぞ?」


「そうさね、敵さ。けどね、子供が手を汚すもんじゃないよ!」


ふーん。


「……坊やが強いのは分かるさ。だけどね、子供のうちは子供をやっておきな。子供ができるのは子供のうちだけさね」


ああ、なるほどね。


言いたいことは何となく分かる。


子供なんだから、子供らしいことをしておいて、情操を育んでおけ!みたいな話でしょ?


教育者の鑑だな、この婆さんは。


この点については婆さんが100%正しいし、俺にも異論はない。


なので素直に謝り、期末試験が終わったらしばらくは子供らしく遊んでおくと答えておいた。


うーん?


俺は結構人間の屑である自覚はあるんだがな?


何故かこうして、気にかけてくれる人が割と多い。


幸せなことだが、俺を更生させるというかまともにさせようとするくらいなら、もっと別なことに時間を使った方が有意義なんじゃないのか?




で、試験。


学園では、学期末の度に試験があり、特に三学期の試験は期末として進級の是非がかかっている。


その内容とは、『ダンジョンの攻略』だ。


この国の高尚なご趣味が「戦争」であることは周知の事実だが、その軍隊に組み込まれる予定の魔導師にダンジョンの訓練?冒険者のやることでは?などと思うかもしれないが……。


実際のところ、戦争も毎日どこでもやっている訳ではなく、平時の魔導師の仕事は基本的に「兵隊さんの手に負えないモンスターの退治」となる訳で。


例えば、「近くの森にオークの群れが住み着いた!」「廃棄された砦にオーガが!」「話の途中で悪いがはぐれワイバーンだ!」とか、そういうのの対処が仕事なんだよな。


毎回言うけど、この世界では、一般的な兵士はマジで地球の一般的な人間と同等の性能しかないからね。


倒すんならゴブリンでやっとやっと、狼とか出たらかなり怪しい感じだ。


狼とか普通に人間じゃ剣持ってても勝てないからね。生物としての基本性能が違い過ぎるもん。常識的に考えるとそうなるよなって感じ。夢はないけど……。


だだ、ある程度鍛えた兵士や騎士ならば、無意識レベルで魔力を身に纏い、身体強化を行える。


そうなってくると、魔力を使いこなせなくても、鍛え込んだ騎士ならば、一対一でオークを倒せるかなー?ってくらいにはなるぞ。


オークはまあ、ヒグマみたいなもんだからな。剣でヒグマを斬り殺せるなら十分に人外だよ。


……で、魔導師は、そんな騎士と同等のオークを簡単に蹴散らせる。


軍用の魔法である「中級魔法」は、モノにもよるが一撃でライフル弾や大砲弾くらいのダメージは普通に与えられるからな。しかも、遠距離から攻撃できる……。


なんで、基本的に魔導師は、この国では「切り札」的な存在として温存されるもの。


この国がいくらアホでも、魔導師に竹槍持たせてバンザイ突撃して死んでこい!とはならないんだわ。


そんな訳で、ダンジョン、つまりモンスターの巣を攻略する経験は必要なんだよ。


だからこれから、学園保有のダンジョンに向かって、指定数のモンスターを倒しに行く訳だ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る