第76話 経済戦争(出来レース)
「マック・クランシー議長、その件ですが……」
このプロキシア共和国の実質的な支配者であるこの儂、マック・クランシーの質問に対して、技術局を任せている局長であるライトマン君が言葉を濁す。
「どうした、ライトマン君?儂の質問に答えられないのかね?儂はただ、『例のマジックアイテム』の解析結果を聞いているだけなのだが……?」
「そ、それが、全く……」
「なにっ?技術局の総力を挙げてもか?!」
「は、はい……。かの『アウロラ団』のマジックアイテムは、どの機種であっても筐体を開いた瞬間に自壊し、砂粒になってしまうのです」
信じられん……!
解析どころではないではないか!
「技術局は、あのアドン魔導国のマジックアイテムである『魔封じの首輪』を解析して量産化することができた有能な組織だと認識しているが、それでも、アウロラ団の製品の解析はできないのかね?」
「……正直な話、一技術者として言わせていただきますと、アウロラ団の製品とアドン魔導国製マジックアイテムは天と地ほどの……いや、それ以上の差があります!」
技術局長の言葉を聞き、議員達は騒めいた。
「馬鹿な!」
「そんなことがあり得るか?!」
「相手は十二歳の若造……いや、餓鬼だぞ?!子供の手遊びに我が国の技術が通用しないとでも言うのかっ?!」
無理もない、儂も同じ気持ちだ。
天才少年、それは分かる。
しかし我々は商人。
ここまでのし上がるのに、知力体力時の運だけでなく、様々な手段と、出自の良さと……と、全てが必要だった。
決して、「才能」ただ一つだけでどうにかなるほど、世の中は甘いものではないと皆知っているのだ。
そして更に、一人の力だけでは、何も成し遂げられないこともまた……。
強大な武力を持つビルトリア王国や、技術を持つアドン魔導国にも、商人の力である、知恵と金と、人との協調があれば対抗できる。それが我々の考えで、国是で、誇りだった。
大勢の前には、どんなに力や才能があっても、個人では無力。これは、生き物として当然のこと。
ところが、この小僧はどうだ?
産まれは卑賤、育ちも悪く、師も大したものではない。特別なものは何も持ち得ずに世に生を受け、他者からも妬まれ、足を引っ張られて、嫌われている……。他の貴族や、王家にすらも排斥されていると聞くぞ?!
その上、儂の孫より歳下の、小僧もいいところの餓鬼ではないか!
それが、それが、何故ここまで……?!
「ほっほほ、皆さん、お待ちください」
む……。
財務大臣のマンソン・ブーバン君か……。
「アウロラ団の技術は、現時点では我々よりも上。それは認めましょう……」
確かに、それはそうだ。
「……しかし、我々は商人です。であれば、商業の力で勝てばよいのです!」
……なるほど?
「では、具体的にどうするのかね?」
「色々と手段はありますな。例えば美食、酒、女……。その少年が欲しがるものを我々は持っているでしょう?それと、彼の技術を交換する……。これが商業というものです」
「応じなければ?」
「それこそ簡単です。いかに天才的な魔導師と言えども、薬で眠らせたり、女に骨抜きにされたりすれば、簡単に操れますよ。経験の少ない子供が相手なのですからね……」
「うむ……!では、マンソン君に、かのアウロラ団の応対を頼もうと思うが……?」
「賛成!」「賛成です!」「賛成!」
その一月後、マンソン君がアウロラ団を我が国に迎えたすぐ次の日。
マンソン君は全てを失い、自害した……。
「馬鹿な」
「あり得ん!」
「野蛮な、気に食わぬからと言って殺すか?!」
「武力による制圧など……!!」
至急、我々は議員を集め、会議を始めた。
こんなことは、あって良いことではない!
名目上とは言え、謝罪の為の使者兼交渉人が、謝罪相手の国の要人を自殺に追い込むなど、許されて良い訳がないだろう?!
何を考えているんだ?!
しかし、会議の途中で……。
「た、大変です!」
我が国の衛兵隊が、血相を変えて、会議場に転がり込んできたではないか!
「何だね?!衛兵が会議場に割り込みなどと!」
儂が怒鳴ると、衛兵は答える。
「外を!外を見てください!」
外……?
《夢の中で待ってる アウロラ
新しい発見と 魅惑のワンダーランド》
《アウロラ 輝きのモール
心躍るショッピングタイム
欲しいもの ここにある
夢中になる楽園》
《一歩足を踏み入れれば
多彩なショップの数々
ファッションやトレンド 感じて
新しい自分に変わろう》
《アウロラ 輝きのモール
心躍るショッピングタイム
欲しいもの ここにある
夢中になる楽園》
《カフェでほっと一息ついて
笑顔で繋がるコミュニティ
友達も増える楽しい日々
アウロラで感じよう》
《アウロラ 輝きのモール
心躍るショッピングタイム
欲しいもの ここにある
夢中になる楽園》
《夢中になる楽園
アウロラ 輝きのモール》
な、何だね、あれは……?!
特大の塔……、伝説で語られる「バブ=イルの塔」のような、天を衝く巨塔!
それが、ふざけた歌を垂れ流しつつ、天辺に虹がかかり、虹が《ショッピングモール・アウロラ、プロキシア共和国支部、開店!》と文字を描いている!
「……ショッピングモール、アウロラ?……奴らの仕業か?!」
ふ、ふざけおって!
奴らはよりにもよって、この国で商売をやるつもりなのか!!!
「い、いかがなさいますか、議長?衛兵隊に命じて、排除なさいますか……?」
「馬鹿者!これは、儂らに対する挑戦なのだぞ?!」
そう、挑戦だ!
「つ、つまり?」
「奴は、儂らが、ビルトリア王国の貴族共を『猪騎士の金蔓』などと馬鹿にしているのを知っているはず。故に、その金蔓の国の貴族がこの国で商店を開き、問うているのだ!」
『金蔓に商売で負けるのか?』とな!
「もしこれで、アウロラの商店に強制解散命令でも出してみろ!そうしたら奴らは、『商業の国プロキシアが、商売で負けるのが怖くて逃げた』と、大々的に喧伝するぞ?!」
この国は商業の国!他の何かで負けていても、唯一、商業で負けることは許されん!
それに、開かれた市場を自称する我々が、商売をする前から「自分より儲けそうな商会なので追い出した」なんてことになってみろ!
多くの商人が損切りして、街の商業活動は萎み、我々は終わりだ!!!
……やるしかない。
「諸君!戦争だ!アウロラ社に、我々の底力を見せてやれ!」
どうにかして商業で勝ち、真正面から奴らを撤退させねば……、我々に未来はない!
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