第73話 トラップ
プロキシア共和国、首都プロキシア。
輝く太陽。
暖かな日差しが、穏やかな海と白い砂浜に反射してキラキラと輝く。
石造りの街並みには、上半身全裸のゴツいおっさん達……漁師達が、魚が満杯になった木カゴを棒に吊るして運び、船着場からは船乗り達が大声で何事かを指示していて、人夫らが大荷物を運んでいる、南洋の情緒。
「わあ……!海って大きいんですね!知識では知ってましたけど、こうして見ると綺麗で感動です!」
無邪気に喜ぶエイダの肩を抱いてやりつつ、俺は軽く街を見て周る。
そうして、一時間程度すると……。
そこに、日に焼けた肌の恰幅がいい男が現れた。
「アウロラ団の方ですかな?」
また、ヒゲの太った中年だ。
どうやら、この国では、太っていて立派なヒゲを生やしていることがモテ男の条件ということらしい。
地球でも、太っている人は裕福さの証明になるのでモテる!なんて国があるらしいので、そういうもんかと納得しておく。
「そうだが、アンタは?」
「これはこれは!申し遅れました、私はこのプロキシア共和国の上院議員、マンソン・ブーバンです!これから、貴方方を屋敷の方へ案内させていただきます!」
ほーん。
「良いだろう、案内しろ」
屋敷。
屋敷は……、まあ、屋敷だ。
建築様式はビルトリアとあまり変わらないが、ただ、海風の侵食に耐えるようにがっちりとした石造りの建物になっているのは見受けられたか。
見栄っ張りで浪費家のビルトリア王国貴族の同じく、豪華な作りでもあるな。
ガーゴイル的な謎の彫刻が門壁にあったり、外壁も塗料で白く塗られていて、金がかかっている印象だ。
そんな屋敷に通されて、俺達はまず問われた。
「それで、ゲーム機の件ですが……」
「ん、ああ。降伏宣言は既に聞いたから良いぞ」
「んん……、困りますな。よろしいのですか?」
「何が?」
「確かに、アウロラ団は豊かな組織なのでしょう。しかしそれでは、いずれ必ず行き詰まります。貴方方の専門は商品を作ることで、売ることではないからです」
「んー、でも、お前らみたいな欲の皮が突っ張ったアホにやらせるくらいなら、苦労するのを承知で俺がやった方がマシだからなあ……」
「……エグザス殿、でしたかな?その言い方は良くありませんな、対等な交渉相手に対してそれでは。お若いですから分からないかもしれませんが、貴方方は我々を最初に害してきたのですよ?つまり、そちらの方が不利なのです」
「うん?何言ってんだ?……対等?お前らこそ口の利き方に気をつけろよ、黒豚。俺が上、お前らが下だ」
「……分かりました!とりあえず、今日のところは食事をして、休みましょう!精一杯歓迎させていただきますので、考えが変わりましたらいつでも仰ってください!」
そんな訳で俺達は、この屋敷で歓待され、海の食材をふんだんに使った料理を食べたのだった……。
……睡眠薬入りの。
「おい、そのガキを起こせ」
「はい、マスター」
さて、そろそろ起きるか。
「よう、黒豚。睡眠薬入りのスープはそこそこだったぞ。後もうひとつまみ塩を増やせとシェフに言っておいてやれ」
分かっているのは、ここは地下室。
灯された蝋燭のみが光源の、薄暗く、澱んだ空気の地下室。明らかに、真っ当な用途で使われる部屋ではないことが分かる。
そこに、まんまと捕まったうちの幹部達が、鎖に繋がれていた。
全く、無警戒に敵地で出された食事をバクバク食って、あまつさえ捕まって地下牢に幽閉?
こいつらはダメだな、後で鍛え直してやらなきゃならん。
俺?俺は全てを承知の上でわざと捕まったに決まってるだろ。
勝ち誇ってる馬鹿をぶん殴って分からせるのは楽しいので……。
「な……?!ふ、ふふふ、起きていたのか、ガキめ。だが、状況が分からん訳でもあるまい?」
ふむ。
俺も現在地下牢に繋がれており、首輪もされているな。
なんかちょっぴり、魔力操作を阻害されてる感があるが問題ない程度だ。
「分かるか?その首輪は、我が国が誇る技術局が開発した『魔封じの首輪』だ!それがある限り、魔導師といえども魔法は使えな」
「『マジックアロー』、ラン」
俺の指先から出た不可視の魔力矢が、上院議員を名乗る黒豚の片耳を吹っ飛ばす。
「ぎゃああああ?!な、何故だ?!魔法は使えないはずではないのかあああ?!!!」
「なあ黒豚さんよ、ちょっとさっきの言葉もう一回言ってくれんか?え?我が国が誇る?ええ?技術局が開発した?!魔法が使えなくなる?!え?!魔法が使えなくなる?!なんだって?!え?!?!?!!」
俺は牢屋の中から黒豚上院議員を煽った。
「ふっ、ふ、ひい……!だ、だが!その牢屋からは出れんぞ!その牢屋に使われている金属は、魔力を通さぬ『破魔鉄』でできている!何をしてもお前はここから」
俺はとりあえず、肉体に魔力を張り巡らせて。純粋なフィジカルで拘束具を破壊して首輪を捩じ切り、牢屋の柵をへし折った。
「えっ?!何?!何だって?!ここから何?!ここから、え?何?!出られ、出られ、出られ〜?何?!聞こえなかったもう一回言ってくれ!え?!」
俺はそう言いながら牢屋から出ると……。
「そこまでです」
横合いから、褐色肌に黒髪の女が、ナイフを俺の首に添えてきた。
確か、食事を配膳してきた使用人の中にいたな、この女。
暗部とかそういうアレってことだろう。
「そっ、そそ、そうだ!動くな!私の部下に首を刎ねられたくなければなっ!!!」
黒豚が調子乗ってんな。
よし、まず俺は、目にも止まらぬ速さで暗殺者女の手を掴んだ。
俺の首の横にある、ナイフを掴んでいる方の手を、だ。
そして俺は、そのままナイフを首に押し付けて……。
……ナイフの方が、馬鹿みたいな魔力で常に強化されている俺の肉体の素の防御力と、常時展開しているバリアフィールドに勝てずに、すぐにへし折れた。
「え?!え?!!えーーーっ?!!!何だって黒豚?!もう一回!もう一回言ってくれよ!何?私の部下が何?!首を何?!首を刎ねる?!?!?!!」
煽る。
全力で。
「がっ、ぎっ、ぐっ、げげげげご〜〜〜ォッ?!?!!!!」
ヤバい顔でブチギレてるな、黒豚。
黒豚じゃなくて、赤豚になりそうだ。
「くっ……!放せっ!!!」
おっと、女暗殺者の鋭いキック。
効きやしないが、一応避ける。
その際に腕を放してやったから、間合いを取られて……。
「マスター!拘束は不可能です、殺します!」
と言いながら、袖口から針のような形状の短剣を出してきた。
「う、うむ!やれ、殺せぇっ!」
……なので、俺は、力場の魔法で暗殺者女を捕まえた。
不可視の力場は、純粋な物理的エネルギーのみを操るので、感知不能の攻撃だった。
やっていることは単純。
力場の円を相手の身体の周りに作って、ループ処理で徐々に円を小さくしていき、円の形が保てなくなる……即ち、人体と強く接触したら、ループ処理を抜ける。
それだけでいい。
それだけでハムのように不可視の紐に縛られた暗殺者女。
俺はこいつに声をかける……。
「拷問の経験はあるか?お嬢さん」
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