第69話 胸がドキドキ
「アメリカで見た」
いやーもうね、すんごいの。
すんごい。
人!!!
人人、人!!!!
確かに、近隣の50キロ圏内に勝手に配置したラジオの魔道具から、ショッピングモールの宣伝をしまくったんだけどね?
まあこんなに来るとはこの孔明の目をもってしても……。いや、分かってたな。
とにかく、ゲーム機発売騒動に次ぐレベルの社会現象をまた起こしてしまった。
今回は、ゲーム機に興味がないような人も一斉に来ているので、騒ぎはもっと大きいかもな。
お陰様でまた、王都の近衛騎士団が集まって集会を解散させようとしてる……あー、この世界は勝手に集会すると解散させられるんだよ。まだそういう時代だ。で、解散させようと騎士団が怒鳴ってんのに、来店者共は聞きやしねえ。
それに来店している奴らの中には、貴族や豪商、その使いの若いのとかが多くて、近衛騎士団も武力で無理やり押さえつけたりはできないっぽいんだよな。
ほら、近衛とはいえ騎士団は単なる騎士でしかないから。
「私は◯◯伯爵サマの使いのなんたらかんたらだぞー!」と凄まれたら、ビビって立ち退くしかないんだよね。
騒動を聞きつけて、お忍びで来ちゃってるお貴族様ら本体も多いからね。迂闊に動けない。
んでまあ、千人くらいは来たかなあ?
モールは王城よりデカいけど、流石に結構混んでなあ。
店内での諍いとか色々あったけど、まあそこんところは従業員のホムンクルスメイドが叩きのめして追い出したから大丈夫だ。
相手が貴族でも俺は怖くないので……。
あ、それと、また国を騒がせたお叱りと事情聴取で王城に呼ばれたが、使者の身体に火をつけて街を走らせたぞ。
そしたら、第二皇子のギルバートが直接来たわ。
んー、腰が低くて大変結構。
俺は毎回言ってるけど、俺より弱くて愚かで民を統べられていないアホ王家に頭を下げる気はこれっぽっちもないからね。
ちゃんと頭を下げに来る第二皇子君は好感度高いわー。
説明を求められたが、人様が店を開いただけで怒られるなんて、おかしいと思いませんか?あなた。と言って追い返す。
まあでも、友人であるギルバート君をそのまま追い返すのも申し訳ないような気がしないでもないので、贈答用の高級クッキーと茶葉を渡してやった。
「じゃあな、ギルバート」
「あ、ああ。帰るよ」
「コラーっ?!!?!皇子をそんな、そんな扱い……?!!」
お、フランちゃんがいつも通りキレてる。
おもしれー女。
「いや、ギルバート君は俺のお友達なので……」
「もうね、もうね、私ね、アンタと一緒にいると心臓止まりそうなのよ!!!」
「恋?」
「恐怖よ!!!!」
んー、可愛い。
フランちゃんを適当にあしらいながら、俺は、再び会議室に幹部を集めていた。
で、監視カメラの映像を、会議室で流す。
そこには当然、客でごった返すショッピングモールの店内動画が映っている。
「はあ……、凄いですね」
グレイスが言う。
こんなに集まるとは思ってなかったらしい。
「よし、じゃあグレイス。メモを開け、どうしてこんなにショッピングモールが話題になっているのか、考えてみろ」
「はいっ!」
お、良いね。
グレイスは教育によって世界を良くしたいウーマンだが、本人もお勉強が大好きなのだ。
教えてやろうじゃないか、『マーケティング』を!
「まず、どんなところが集客になっていると思う?」
「ええと……、事前にラジオで人を呼んだところでしょうか?」
ラジオは、この国の街という街、村という村に、俺が勝手に設置した。
定期的にアウロラのステマと、後は音楽とか流したりしている。
「良いね!宣伝はマーケティングの基本中の基本だ。どんなに良い商品も、まずは客に知ってもらわなきゃ買ってもらえないからな。他はどう思う?」
「テーマソングですね!」
ベティが言った。
監視カメラの音声をオンにすると……。
《夢の中で待ってる アウロラ
新しい発見と 魅惑のワンダーランド》
《アウロラ 輝きのモール
心躍るショッピングタイム
欲しいもの ここにある
夢中になる楽園》
《一歩足を踏み入れれば
多彩なショップの数々
ファッションやトレンド 感じて
新しい自分に変わろう》
《アウロラ 輝きのモール
心躍るショッピングタイム
欲しいもの ここにある
夢中になる楽園》
《カフェでほっと一息ついて
笑顔で繋がるコミュニティ
友達も増える楽しい日々
アウロラで感じよう》
《アウロラ 輝きのモール
心躍るショッピングタイム
欲しいもの ここにある
夢中になる楽園》
《夢中になる楽園
アウロラ 輝きのモール》
謎のコマーシャルソングが流れていた。
そう……、コマーシャルソング!
地球では、最古のコマーシャルソングが十九世紀の「フニクリ・フニクラ」なのは皆知っているだろう。
アレは、「山にケーブルカー引いたから来い!」ということを伝えるための曲だった。
この世界は十三世紀前後くらいのヨーロッパを模したような文明なので、コマーシャルソングは六世紀分早い概念だな!
因みに、作詞作曲は俺。音楽は俺がギターを適当に弾いて、エイダがピアノ(こんなこともあろうかと教えておいた)、ベティとアランが歌を歌い、ドラムをポコポコフランちゃんに叩かせて、ユキには得意だと言った笛を吹かせて、なんかそれっぽい感じにまとめた。
この世界じゃ、音楽を聴くことすらタダじゃできないんだ。
愉快な音楽が流れる場所に、人が寄ってこないはずはない。
「後は明るさでは?僕は他の商会を見て回りましたが、どこも薄暗くて、商品が悪いもののように見えてしまっていると感じました」
そうね。
蛍光灯……は流石に概略くらいしか分からんので、蛍光灯のような波長の光を発するガラス棒型の魔道具を作りまくって配置したぞ。
最近は、ジェネレートマジックを使える魔道具と、術式を物質に書き込む魔道具を作ったからな。工場かな?
「アラン、良い着眼点だ。店の中の明るさは大事だな。他は?」
「やっぱり、商品の質じゃないかしら?」
フランシスが言った。
「そうだな、質は世界一だろう。それで?」
「値段も安いのではないか?」
ユキが言う。
「これまたそうだな、値段も大事。まとめると、他の商店よりたくさん宣伝して、居心地がいい店で、商品が安くて高品質だから。そうだな?」
「「「「はい!」」」」
「つまり、モノを売るのにまず必要なのは分析ってことだ。砂漠で砂を売っても、川で水を売っても売れないだろう?それと同じで、自分の会社が、商品が、周りの世の中や競合他社がどのような状況なのかを分析すること。これがまず第一だ」
「「「「はい!」」」」
「分析の手法も色々あり、3C分析、PEST分析、SWOT分析などが〜……」
こうして俺は、大流行りするショッピングモールを背景に、幹部達にマーケティングについての基礎を話してやった……。
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