第55話 友人ができました
俺は、第二王子に人のいないバルコニーに案内される。
「おいおい、男同士で城のバルコニーなんて最悪だろ、色気がなくて困る。普通はここでお姫様と愛を語り合うもんだ」
「そうかな?」
「ああ。そしてお姫様が魔王のしもべに攫われて、夫である勇者は魔王討伐の旅に出る……ってな」
そして親友の魔導師が裏切ってるんだよ。あの世で俺に詫び続けろ!
「おや?新作のゲーム物語の話かい?斬新で面白そうだ、その際は是非購入させてもらうよ」
さて、と。
そう前置きした第二王子は、寝不足の人特有の、揺らいだ瞳でこちらを見てくる。
「腹を割って話そう、エグザス君」
「腹を割る?よく分からんが、俺はさっきから本音しか言ってないぞ」
「それは羨ましい。私は生まれてこの方、嘘しか言っていないよ」
「と言うと?」
「……私はね、この国が大嫌いなんだ」
あっ、ふーん?
「……良いね、面白い。掴みはばっちりだ。さあ、話を続けてくれよ」
国を愛し、国に殉ずるべき王子様が、言うに事欠いて「国が嫌い」だと?
これは面白い、是非話を聞かせてほしい。
「ご察しの通り、この国はもう限界だ。私も、精神が疲労し過ぎて何日も眠れていない」
「ほう?どうして限界だと?」
「君の言った通り、戦乱と混迷の最中にあるにも関わらず、戦争ごっこという名のお遊戯会に夢中な糞のような王侯貴族共。無知無学で、現状を変えようとしない、それどころか古い慣習を賛美する民。全ての人々の怠慢のせいだ」
「おやおや、王子がクソだとは。いけませんなあ?」
「茶化さないでくれ、君も同感だろう?知っているはずだ。重税による民への負担を、貴族の怠慢を。政情の不安、拡大する戦禍、徴兵された若者の戦死による労働人口の減少……。挙げればキリがない」
確かにそうだな。
そんな状況なのに、王侯貴族も、それどころか民も、現状を変えようとはしていない……。
自分の代さえ良ければなんでもいいとして、次代にツケを押し付け続ける……。
つまりは、まあ、クソだ。
「今までのように、何も考えずに贅を凝らした生活をして、華々しく戦場で杖を振るう。教会の言っている通りに質素に暮らす。それでは駄目なのだ。もうじき、そんな時代は終わる」
「そうだな、それで?つまるところ何が言いたい?」
「国がどうなろうと私はどうでも良い……。だが、私だけは幸せになりたいんだ」
ふむ。
「父や兄弟が死んでも構わない。国がなくなっても良い。けれど、私だけは助かりたい……」
「命乞いか?」
「いや?最早、その辺りはどうでも良い。私はただ、解放されたいだけだ」
解放?
「……君の故郷について、私は色々と調べさせてもらったよ。なんでも、酷く貧しいところだったそうじゃないか」
「それがどうした?」
「人は生まれを選べない。もし、君が私の立場なら、圧倒的な知恵と力でこの国を壊し、建て直し、世界を統べる王になっていたかもしれない……」
ふむ、可能性としてはあり得るな。
王族でスタートしたなら、無能な兄弟暗殺からの、王様が病気(仕込み)で倒れ、少年王様誕生だせぇー!とかやっていたと思う。
「私は、こんな時代の、こんな国の、こんな立場で生まれたくはなかった。私はね、本当は、学者になりたかったんだよ。鳥に興味があってね、鳥を観察して、南国のオウムという鳥を飼い、観察日記を書いたりして過ごしたかった……」
ははあ、なるほどね。
戦国武将の家に文系陰キャが生まれちゃった!みたいな話なのね。
「で?解放されて学者になりたい!それは理解した。結局、具体的には何が言いたいんだ?」
「交渉だよ、エグザス君。いや、交渉にもならない、糞のような話だ」
ハ、良いね。
「言ってみろ」
「まず、君のメリットから。私の提案を飲んでくれるのならば、私は、今の立場を全て使って、ありとあらゆる場面で君の味方をしよう」
「そりゃあいい。それで、提案とは?」
「……私を飼ってくれないか?」
「………………は?」
え?
はい?
どう言うアレだ?
「ああ、いや、誤解しないでほしい。そういう倒錯的なアレではない。私にそう言う趣味はない」
「俺はまあ、美少年なら抱いてもいいが、アンタはちょっと無理かなあ」
「そ、そうか。……エグザス君。君は恐らく、いつかどこかで国と対立したり、王家を滅ぼしたりするだろう?」
「かもな」
まあ、俺がやらなくても、この世代には崩壊しそうな感じはするが……、引き金となるのは多分俺だろう。
国家崩壊の原因の最有力候補だ!
面白いね。
「その時に、私だけは助けてほしいんだ。そして、君の……いや、今は弟さんのだったかな?とにかく、田舎の領地に押し込めて、働かずに食わせてほしい」
「………………は?」
「もちろん、侍女をつけろとまでは言わない。少しの小遣いをくれて、食事を出してくれればそれでいいんだ。欲を言えば、定期的に本を届けてほしいが……。それと、オウムを飼いたくて……」
「は、ははは!はははははは!」
面白いな、こいつ!
「つ、つまりアレか?お前は、全ての義務を放り投げて、『早期退職』して、田舎で静かに暮らしたいってか?!」
「『早期退職』……!良い響きだ、理想的な言葉だ。今後の標語にさせてもらうよ」
なるほどね、なるほどなるほど。
「あー……、面白え!良いよ!王族でも国でも、皆殺しにしたとしても、お前だけは逃してやる!それどころか、弟の領地で学者でもなんでも好きなことをやらせてやるよ!」
「感謝を……」
イケメンフェイスで「感謝を」とか言ってるけど、このガキ、歳の頃十五そこらにして、将来の夢が早期退職して田舎でスローライフなんだよね。
クソ面白えわ……。
「ってか、俺に断られたらどうするつもりだったんだ?」
「今ここで自殺して、君に王族殺しの罪をかけて、クソみたいな人生を終わらせていたよ」
なるほどねえ……。
まるで現代人だ。
漠然と死にたいけど、自殺するほどじゃない。けど、嫌のことの許容量を超えれば、自殺した方がマシと言うことで死ぬ……。
面白い、親近感が湧く。
「だが、死んだら幸せになれないだろ?」
「うーん、少し違う。今の状態は『負債』だ。死ねば『無』になる。だから結果的には『利益』だ」
「なるほどな。できれば最終的な幸福度が『利益(プラス)』になれば、『負債(マイナス)』の現状も耐えられるが……」
「『利益』の希望が潰えるなら、君にも、周りにも、『負債』を振り撒いて消えてやるさ。私だけ『無』で早あがりだ」
「はっはっは!良いね!論理的だ!」
俺は、ジェネレートマジックを発動させる。
「ほらよ」
「……これは?」
「睡眠薬だ。床に入る前に一錠、噛まずに飲み込む。不眠症も抑えられるはずだ」
「助かるよ、エグザス君。君に恩を売られるのは少し怖いけれど……」
「いや、良いさ。俺は『友人』には親切なんだ。無償で動いてやるとも、『友人』の為ならな」
「……分かった。『友人』として、君の活動を後援するよ」
俺と第二王子……、ギルバートは、硬く手を繋いだ。
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第二王子ギルバート
大魔導師エグザスを支えた、聡明なる王子にして、ビルトリア最後の王。
エグザスの才を見抜き、父である王や兄を宥めつつもエグザスを押し上げた調整役であり、王にして王佐の才を持つ賢者だった。
公私共に魔神エグザスと良好な関係を築き、晩年はレイヴァン領にて鳥類研究家として過ごした。
彼が宣言した「君臨すれども統治せず」「実務政治は議会に任せる」という形式は、現在のビルトランド立憲君主国にも受け継がれている。
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才能なしの魔法プログラマは穏やか学園ライフを送りたい ~読むだけでゲームプログラミング学習!(誇大広告)~
https://kakuyomu.jp/works/16818023213538534610
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Twitterで知り合った広路なゆる先生の作品です。宣伝して♡って言われたので宣伝します。カクヨムにはそういう文化があるらしいので。
自作よりまともにプログラマやってる主人公の物語みたいですし、自作のような人格がアレな人が読む作品ばかりではなく、たまにはまともな作品を読むべきだと思いますよ。
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