第53話 王権神授説の壊し方

いや、他にも来てたんだよ?


ユキの親父とか、グレイスの親父とか。


カーレンハイト辺境伯も来てる。


けど、みんな無難な話しかしてこなかったな。


下手に大物な貴族となると、保守的な考え方をするから、劇物そのものの俺みたいなのとは深く付き合わない気でいるんだろう。


具体的な商談とか契約とかは、今のところ仕掛けてこなかった。


それと、グレイスの親父にはめちゃくちゃ嫌味言われたけど、「文句あんならかかってこい!」と言ったら逃げていった。


面白いね。


俺んとこに顔出しにくるのは、基本的に、何かしらの問題がある中小貴族だな。


一発逆転したい系の人ら。


その中でも使えそうな奴を選別して、無能は切る。


んー、責任がない人事部!楽し過ぎて困る!




「エグザスの坊や、何故、ここの料理は小分けにしたのかね?これでは、一度に一口分しか食べられないのう」


「あー?カーレンハイトの爺さんよお、あんた、気持ちは若者でも、もう胃はジジイなんだぞ?そんな量食えねえだろ?だったら、美味しいものを少しずつ、たくさんの種類を食えた方がお得だろ?」


「ふぉっふぉっふぉっ、こりゃ参った。その通りだのう……。今度、儂の領地でやるパーティーで、この形式を真似ても良いかのう?」


「ここで見せた以上、誰かしらがどこかしらで真似するわい。好きにしろや」


「ふぉっふぉっふぉっ、感謝するぞい」


初めて会ったけど、カーレンハイト辺境伯ってこんな優しそうな爺さんなんだなー。


「いや〜、本当に惜しいわい。こんなに使える子なら、あんな領地から引き剥がしてもらっておけばよかったのう」


そう言って、レイヴァン領の特産品(ということにした)ミードネクターを舐めるように飲む爺さん。


「ふうむ……、惜しいのう、惜しいのう……。今からでもうちの家臣にならんか?ほれ、ガードナーのところのマーガレットちゃんをやるぞい?」


はえー、ナチュラルに自分とこの部下売ろうとしてくんの笑えるなー。


「へえ!俺に女をあてがう?!良いねぇ〜!……因みに俺、割とリョナが好きでさ。街のど真ん中で両手両足を落とした女をゴブリンに犯させるなんてやってみたいと思ってたんだ!」


「ふぉっふぉっふぉっ、人格歪んどるの〜。まあ別にええよ?お主を味方にできるなら、家臣一人を切るくらい構わんて」


あっ、ふーん。


そういうタイプか、このジジイ。


「爺さん。俺は基本的に、自分以外の人間を舐め腐って見下してるナルシストだが……」


「うむ、そうじゃのう。分かっとるよ」


「……それでも、他人が嫌いな訳じゃないんだよ。アンタには好感が持てるな?意見が合いそうでよ」


「ふぉっふぉっふぉっ、それはそれは。光栄だのう」


このジジイ、マジで領主してる領主だ。


私心とか一切捨てて、利益のためになるプレイングに徹する奴だな。


「ってか、アンタみてーなのをよく辺境伯にしたなあ、あの脳筋アホ王も!アンタ、都合が悪くなりゃ敵国に寝返るくらいはやるだろ?」


「失礼だの〜?儂はただ、己を慕ってついてきてくれる臣下や民草を第一に考えておるだけよ」


ははっ!裏切らないとは言ってない!


しかも、今さっき、忠実な臣下を俺に売り渡そうとしたその口でこのセリフを言うのかよ!


おもしれーな、こりゃ今後もよろしくだわ!




そうやって、ジジイやらおっさんやらと色気のない話をしていると……。


「エグザス様、ここにいらしたのですね」


と、お姫様がやってきた。


「おっ、ドリルちゃんじゃん。今日もドリってんねえ!」


「……褒められているんですの?」


「いや、どうでも良いなと思ってるよ」


「……なるほど!では、どうすれば、わたくしとも楽しくおしゃべりしてくださいますか?」


「えぇ……?知らんよ、テメーで考えろ」


「あ、それと、わたくしはエリザベスと言いますの。エリーと呼んでくださいな?」


「分かったよドリルちゃん」


「むぅ……!」


頬を膨らますドリルちゃん。


「お前まだ十二歳だからそれが許されてるけど、段々そのキャラはキツくなってくるぞ?三十超えてもぶりっ子キャラやろうとするババアはこの世の闇で世界の歪みだからな?」


さて……。


「で?何の用だ?」


「はい!エグザス様!わたくしとお友達になってくださいまし!」


「やだよバーーーカ」


「そんな、酷い……」


えっ?


これ、はいって言うまで無限ループする系?


殺す?殺しちゃう?


「き、貴様あ!先ほどから聞いていれば!姫様に無礼ではなぴゅっ」


なんか横からカットインしてきたアホがいるが、残念ながらこの世界はレスバロボアニメじゃない。速攻でキネティックマジックでぶっ飛ばす。俺は天パじゃなくてサラサラストレートだ。


むしろ、どっちかって言うと雰囲気は「撃っていいのは撃たれる覚悟がある奴だけ」の世界じゃない?


ってかそうであってくれ。


お禿様のチョイスしたクソ女をドバーッと浴びせかけられたら、流石の俺もストレスで発狂して死ぬ自信がある。


やっぱ紫髪ロングの少尉ちゃんなんだよな……。


まともな女はブスで美人はメンヘラだからなあの世界。


「エ、エグザス様……、やり過ぎですわ」


顔面を引き攣らせたドリルちゃんがそう言ってくるが、スルーしてドーナツを食う。


やっぱりフレンチクルーラーがナンバーワン!


「俺の周りにいるなら、こんなことは日常茶飯事だぞ。少なくとも、これに慣れなきゃ俺の隣にいる資格はねぇ」


そう言って俺は、紅茶にミルクを溶かした。


「ってか、ちょっと真面目な話するけどさ。この国って封建制だろ?絶対王政じゃなくて。で、王家ってのは、一番偉くて強い貴族でしかない訳だ」


紅茶に角砂糖を一つ。


「じゃあさ、別に無理して王家を立ててやる必要なくない?みんなそれぞれが、それぞれで好き勝手すりゃ良いじゃん」


紅茶を一口、口にする。


「で、ですがそれでは正当性がありませんわ。王家は、神によって王権を授けられた正当な支配者なのです。ですから、支配者たる権限がない諸侯がそれぞれ独立することは……」


ドリルがなんぞか言ってるが、知らんね。


「そりゃ、表向きの話だろ?有名なレスバおじさんのセリフを借りるが、『なんかそういうデータあるんですか?』って話だ。いるかどうかも分からんカミサマにもらった権利?意味不明だぜオイ」


「か、神はおわするでしょう?!」


「いや、だからさ、なんかそう言うデータあんの?神様に会ったことは?俺に神の天罰はいつ下る?」


「そ、それは……」


「例えばさ、俺はこんなことができるんだけどさ」


そう言って、光り輝く神っぽい幻影を出して、俺を祝福しているっぽい動作をさせる。


「こ、これは……?幻を見せる魔法、ですか……?」


「そうだよ、幻だよ。けどこれを大規模にやって、『俺は神から祝福されたんだ!』って言い張れば、見破る手段ないでしょお前ら」


「そ、そうなり、ますわ、ね」


「そうなりゃもう、言ったもん勝ちだよね。王権、崩し放題じゃん。だから、王家に価値なんてねーなって俺は言ってんのよ」


「で、ですがっ!教会なら!」


「そしたら、教会の直轄領に適当な神っぽい幻影を出して、『教会は神の意に反したので天罰を下す!』とか言って、教会を崩すレベルの禁術ぶっ放せばもうこっちの勝ちよ」


顔を青くするドリル。


自分の立場がそんな程度のモンだと知って、絶望でもなさったのかね?


ま、どーでも良いがな。


「では……、では、貴方様は、どうしたいのですか?」


振り絞るような声で訊ねてくるドリル。


どうしたいか?


「別にどーも?ただ、無意味な王家、無意味な教会。そういうのを無視して、好き勝手やるつもりだ。逆に、みんな何でそうしないのか疑問だなーって話」


「む、無意味……?わたくし達が今まで築き上げてきたものが……?」


「うん。無意味だろ?あんなどうしようもないアホ王が真面目に政治やってるとは思えんし……。ってか、いつ気付くんだ?王がいなくても、そこそこまともな官僚組織さえあれば、国なんていくらでも動くってさ」


絶大な権力を持つ王!天才政治家!そんなん要らんのよな。


平均レベルの高い官僚組織があれば、ワンマン社長みたいな政治家は要らん。


ってか、社会は、とても有能な独裁者が一人いれば万事解決するようなモンじゃねーのよ。


そこそこ有能な奴がたくさんいるのが、一番良い形だ。


権威とか何だとか、そんなん、時代の価値観によっていくらでも変わるじゃん?


そんなことより、いつの時代でも変わらない実務能力をさあ……。


「血の尊さよりも、能力が全てだと?」


「むしろ、そうしなかったから、今この国はどうしようもない状態になっているんだろうが」


血統主義の結果、しょーもないアホが王になってんだもんなあ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る