第52話 パーティーの一幕
「あらぁん……、まあ!これ、とってもカワイイわぁ……。何の道具なのかしら?」
悍ましいオカマに話しかけられる。
フレディー・マーキュリーみたいなヒゲに短髪の親父が、くねくねしながら女言葉を発しているのだ。
普通に化け物だが、まあアメリカにはこういうのがLGBTと称してたくさんいたので、恐れるほどのものではない。
「カトラリーだな。食器の類だ」
「そうなの!この、先が丸いナイフは品があって良いわねん。……っと、失礼。アタシは、アスマン・フォン・カーペンター子爵よん。よろしくねん」
「よろしくするかどうかは金次第かなあ」
「あはん、良いわ。分かりやすい基準ね、商人みたいで交渉が楽ねん」
「デイモン・フォン・ハウルだ。よろしく頼む」
アスリートみたいなおっさんに話しかけられる。
「はいはい」
「貴公が編み出した魔法……、『音届け(サウンドムーブ)』だが、我が息子を経由して知り、こちらでも検証した。その結果、軍団の指揮がより素早くなった」
「ああ、そう」
「貴公の魔法は有力だ。良ければ、他にも御教示願えんだろうか。無論、対価は払う」
「暇な時にな」
「コナン・フォン・コールランド伯爵です。よろしくお願いしますね、ザナドゥ殿」
男だが女だか分からん人が来た。
いや、多分男だなこれ。
声が低い。
「うぃーっす」
「私は、少し難しい仕事をしているんだけど……、最近は君のおかげでとても助かっていてね。個人的にお礼がしたかったんだ」
ふーん?
まあ、見るからに間者とかそういう感じの技能持ってるよなあ、この人。
メイクがやたらと上手いのと、声音が平坦で印象が薄い。足音も極限まで低減してる。
「うーん、暗殺ギルドの件か?あんた、そっち系だろ」
「……驚いた。一眼見てバレるなんて初めてだよ。……まあ、詳しくは言えないけれど、その筋の仕事を家伝しているね。とにかく、君のおかげで、邪魔な暗殺ギルドや盗賊ギルドがなくなった。これは本当に感謝しているよ」
「あっそう」
何が嬉しくておっさんと会話せにゃならんのじゃ。
適当におっさん共を受け流しながら、飯をバクバク食う。
あー美味い。
魔力とは情報の力。
失った魔力は、魔力を吸ってでしか回復できない。
そして、食品に含まれた魔力など、高が知れている。
つまり、魔導師は食事量を増やさねばならんのだ。
……一方で、魔法で『魔力そのもの』を生成できる俺は、既に飲食は不要である。
が、飯は食いたいので食う。
「にしても、これ本当に美味しいわねぇ〜!どこの料理?」
オカマ子爵が訊ねてくる。
「あー、そりゃ、うちの地元の料理にした」
「……した?したって、どういうことぉ?」
「俺がガキの頃、暇潰しに世界を旅してな。遠くの大陸で見つけた作物を、実家の森を切り開いて増やして、新たな調理法を考えて、郷土料理にして弟に押し付けてきた」
「……え?エグザスちゃん、開墾もできちゃうの?そんな類の魔法ある?」
「単純に、生えてる木とそこにいるモンスターを消し飛ばして、土を変質させ、種蒔いただけだがな」
「それね、簡単に言ってるけど、全貴族が欲しい技能よん……?」
「畑っつってもそう大きいもんじゃねえよ。この城三つ分くらいだ」
「ワーオ、大穀蔵地帯……」
そうでもないがなあ……。
ジャガイモやらトウモロコシやらは、あくまでも自家消費分しか作ってないし……。
「ただ、村人の主食を新しい作物であるジャガイモやトウモロコシに変換すれば、麦を100%商用作物として売り捌けるから、単純に利益は数倍になるってだけで大したことはしてないぞ」
「ハ!それで『大した』ことじゃないの?他には何やったのよん?」
「いや、他も大したことはしてないぞ?単に、油分が搾り取れる商用作物や、成長率が極めて高い樹木、蜂蜜の安定供給法の発明に砂糖が得られる作物を作らせているだけだ。いや本当に大したことはやってない」
「……アナタ、それ、分かって言ってるわよね?」
「さあーて?何のことやら?」
まさか!
まさか俺が!
愛する弟と領地のことを、下僕グループその1だとか!そんなことを思っている訳がぁー、ないじゃないですか!
弟とその領地というカードを、いつでも使える便利カードとしてキープしているなんて認識、ある訳がぁー、ないじゃないですか!!!
いやぁ〜、でも?
でもね?
俺がここで弟に向けて「〇〇さんに協力してあげなさい」と手紙を認めて送りつければ、〇〇さんにクソデカ恩義を売れる!ってぇのは事実なんだよなあ〜?
弟はちゃんと洗脳してあるので、俺の言うことはちゃんと聞くしなあ!
……俺が単なる善意オンリーで、身内だからなんて理由で誰かに優しくする訳ないじゃん?
「ンモー、誰よ?話や駆け引きのできない気狂いって噂した馬鹿は……。並の商人よりよっぽど強かじゃない……」
そう言ってオカマ子爵は、ケツアゴの顎鬚を撫で付ける……。
「うーん、弟君への紹介状!金貨三百枚!」
「おっと、聞き捨てならんな。我が領地の利益になる話なら、俺も前向きに検討する」
「あの、すいません。私も良いですか?領民を食わせる必要はやはりあるので……。裏の仕事は最近軽視されがちですし……」
「えー????どうしよっかなー????」
いっやぁ……、相手がおっさんでも、下手に出られるとやっぱ気持ちいいわあ……。
「ええ!じゃあ、金貨三百五十枚と、うちの領地の芸術家達への紹介状で契約成立ねん!」
「ああ、そうだな」
「にしても、芸術に興味が?確かに、アナタのゲームというものもかなり芸術的だけど……」
「あーその辺はメディアミックスでやってこうかなって」
「メディアミックス……?また新しい商売の話ぃ?聞かせてちょうだいな?」
「いや単に、ゲームのストーリーを、本や演劇にしたり、ゲーム関係のファングッズを……」
「えっえっえっ?!何それ?!何それすごいわよん!絶対稼げるやつでしょそれ?!一枚噛ませて!一枚噛ませてぇーん!」
「えぇー????どーしよっかなー????」
このようにして、俺は、パーティーをそれなりに楽しんだ。
……え?
同世代の子供達との顔合わせ?
いやー、だりぃーっす。
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