第48話 転売ヤー抹殺
真面目な話。
学も何もない、孤児のガキを使い物になるまで付きっきりで教育など、するつもりはない。
ではどうするか?
俺がゲーム機を作った理由、お分かりでない?
「つまりは、情報の拡散だよ」
文字も読めない、住む国も人種も違う、頭の出来も、性別も、年齢も異なる。
でも、ゲームは、皆が面白いと思うはずだ。
価値観の操作、世論の形成。
それこそが、俺の考えなんだよ。
俺がただ、「面白いゲームでみんなを笑顔にしたいんだ!」みたいな、青臭えガキの理想論みたいな話をしていると思うか?
違うんだよなあ。
金を稼ぐため?それはサブクエストだろうに。金と権力、知名度とかそう言ったものは、第一目標の助けになるものでしかない。そこに執着はしていない。
ゲームに、俺の考えや意図を紛れ込ませて、世論を操作しようってのが俺の策なんだよ。
まだ、初期ロットのゲームソフトは、ゲーム機そのものの知名度を上げる為に、アクの少ない王道ストーリーだが。
これに慣れて、ストーリーの奥深さを人々が考えられるようになった頃に……、俺の思想を含むゲームを世に放つ!
無論、つまらないゲームにはしない。
ただ、「王侯貴族の無様さ」や、「秘密結社はかっこいい!」とか、そう言う類の情報をそれとなく刷り込むつもりなだけだ。
んー、気分は正にロン毛のきったねえ教祖だな!
アニメにサブリミナル効果で教団思想をぶち込んで、洗脳だ!みたいな?笑える。
まあ何にせよ、ゲーム機というハードは既にある。
これに、「ゲームで分かる文字の読み書き!」とか、「ゲームで分かる算数!」とか、その手の教育プログラムをぶち込んで、ガキ共を画一的に教育するのだ。
で、定期的にペーパーテストをやって、赤点が続く馬鹿なガキは処分。完璧!
「流石はエグザス様です!」
隣で、エイダが俺を囃し立てる。
良いねえ!
エイダは的確な合いの手を入れて、俺のプレイングを美しく彩ってくれる。
美少女に持て囃されるとか、最高なんだよな!
うはー!気持ちいい〜!
そんな感じで、ガキを元スラムの館に集めて勉強させている間、他の仕事をする。
即ち。
「転売ヤー死すべし!慈悲はない!」
「グワーッ!!!」
転売ヤーの抹殺だ。
俺は、ビークス商会とその傘下以外に、ゲーム機の販売を認めていない。
王都ではなくここ、カーレンハイト辺境伯領では、まだ販売許可を出していないのに、ゲーム機が出回っているぅ……?
許さん、殺す。
そんな訳で、いくつかの商店を爆破。
店長は、『ゲーム機の不正取引の罪により抹殺』と張り紙をして、晒し首。
殺すほどのことではない?
ふむ、正しいな。
だが、ここは地球じゃない。
私刑を許される中世世界だ。
寧ろ、法律の拘束力が高くないから、被害者側が力尽くで潰さなきゃ危ない。
ちょっと前までは日本もこんな感じだったらしいと聞くぞ?
太平洋戦争前後くらいの頃は、『特許権』というシステムもあるにはあったが、登録すると逆にパクリまくられるとか……。
警察も特許侵害やらでは動いてくれんから、被害者側が自分で起訴するしかないのだが、それをやると結局起訴の費用で大赤字……みたいな話も多かったらしい。
そうやって歴史の闇に葬られた発明品はどれだけあったのやら……。
少なくとも、俺の魔導具はそうはさせない。
……この商人、自分で開発した!とか言ってたからな。これはもう殺すしかない。
そうしていると、丁度、王都から来たビークス商会の手の者が俺に挨拶をしに来た。
「こ、これはこれは!エグザス様、何故ここに?!」
商人らしい、太鼓腹のおっさんだ。
禿頭に髭が鬱陶しい。
「ああ、転売ヤーを抹殺してた」
「は、はあ。意味は分かりかねますが、とにかく我が『ピジョン商会』へどうぞ。お茶くらいは飲んでいってくださいませ」
「いや結構。俺は不味い茶は飲みたくない。……ん?いや、嫌味とかじゃないぞ?高品質な茶を飲み慣れているんで、他の茶を飲みたくないだけだ。気持ちは嬉しいとも」
あ、これは本心な。
失礼なことを言っている自覚はあるが、俺はこの世界の飲食物を基本的に口にしない。
何故か?
衛生面がクソだからだ。
そして、味もクソだ。
街のその辺で売っている食品とか、魔法で分析すると、何割かは食中毒必至レベル。
肉類とかはかなりヤバい。半分腐ってるのとか平気で売ってるからな。
そもそもその元となる肉も、道端で放し飼いされている豚が、クソやら生ゴミやらを食って育って潰されたもの。
食物連鎖の話などをすればまあその辺はアレなんだが、少なくとも俺は気分的に嫌だね。
気持ち悪過ぎて口にできない。
無論、そう言う誘いを断るのは失礼だと思うし、こう言うタイプの無礼はやっても面白くないんで気持ち良くもない。
その辺は俺も、ちゃんと頭を下げる。
「そ、そうですか……?ああ、それと、今後はこのカーレンハイト辺境伯領でも、ゲーム機の発売の方を……」
「ああ、それなんだがな、辺境伯には特別な大画面モデルを売りつけてきて欲しいんだよ」
「ふむ、それはそうですな。承りました」
あ、それと……。
「これも頼む。カーレンハイト辺境伯の部下の魔導師、マーガレットに」
俺はそう言って、マーガレット師匠に特別モデルを渡すように言いつける。
善意とかではない。
マーガレット先生からは、隠しきれないオタクの香りがしていた。
恐らく、ゲーム機にどハマりし、じゃんじゃん金を落としてくれることは想像に難くないからな。
会話した感じ、想像力や詩的表現もできるし、プレイさせたゲームのスピンオフ小説とか書かせたい……。
娯楽小説が書けるほどの文化的資本と柔軟さを兼ね備えた人間は、この世界には極めて少ないのだ。
マーガレット先生なら多分やってくれるはず……!
さて、残りの転売ヤーを抹殺したら、王都に帰るかー。
え?キネティックマジックで作った力場で、音速でかっ飛んでるだけだぞ?
数時間で辺境から王都までひとっ飛びだぜ!
背後から、晒し首の死体に気付いて悲鳴を上げるピジョン商会のおじさんをスルーして、新たなターゲットをサーチする……。
……そのはずだが、転売ヤーの一人が面白いものを持っていた。
「むー!むーっ!」
簀巻きにされた美少女である!
ナイス!おもしろイベント!
縄を切って、話しかけてみる……。
「ふう、助かりましたわ!その……、ここはどこですの?」
「カーレンハイト辺境伯領だ」
「まあっ!そんな遠くにまで?!……っと、申し訳ありませんわ。助けてくださってありがとうございます、エグザス・レイヴァン様」
んー?
「俺を知っているのか?」
「ご冗談を!今、王都でエグザス様のことを知らない者はおりませんわ!」
「ふーん?」
そうなのかね?
「それに……、わたくし達、同級生ですわよ?」
あ、そうなんだ。
「すまん、有象無象の諸君には興味がないから……」
「う、有象無象?わ、わたくしが?」
「うん」
「そ、そうですか……、こんな扱いは初めてですわ……。なんだか、逆に愉快ですわね」
そうですか。
「それで……、その、よろしければ、王都まで送っていただけませんこと?」
ふむ。
まあ、この気品からして貴族は確実。
なら、身代金って訳じゃないが、礼金をもらって、『秘密結社アウロラ』の活動資金にするか。
ガキ共も下僕にしたしな、入り用なのだ。
ついでに、領地持ちの貴族のガキなら、その領地にゲーム機を流して販路拡大だ!
「よし、行くぞ。顔のいいモブ女」
「え?あ、はい」
俺は、女を抱えて空を飛び、王都に降り立った……。
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