第47話 ハートの心

「ククク……、少し魔法が達者な程度で図に乗るなよ?我々は暗殺ギルド、『闇の———ぷぎっ」


「き、貴様あ!この暗殺ギルドを舐めるなよ!我々はケシ汁の秘薬により、死の恐怖を感じなぽげぇ」


「こ、殺せーーーっ!!!全員でかかぎゃあ」


なんか、カス共がどんどん出てきて笑える。


アリの巣に熱湯かけたみたいな感じだ。


俺は、デリートマジックの不可視の抹消フィールドを張りながら、スラム街の出口付近でアフタヌーンティーを楽しんでいる。


「わあ……、どんどん死んでいきますねえ」


そう言って、死んでいくカス共を眺めるエイダ。


「ん?こういうのは嫌か?」


「いえ?エグザス様がすることは、絶対に正しいので」


「エイダ、良いんだぞ?俺にもちゃんと意見してくれ。俺だって間違えることくらいある」


「ですが、今回は正しいことをしているじゃないですか。スラム街だかなんだか知りませんけれど、土地の不法占拠は違法です」


「いやぁ、ほらそこは、道徳?って理論でゴリ押しするとかさ」


「道徳論の話をすれば、潰すべきはこれだけ大きなスラム街を放置する政府なのでは?」


「正論で草」


そんな話をしながら、目の前で死んでいく馬鹿共を眺めつつ、紅茶カップを傾ける……。


うーん、やはり、まだガキの舌だなあ。


アールグレイよりも、アッサムのミルクティーの方が美味い。


まあこの世界にはグレイさんもインドもないんだが。


あくまでも、俺の記憶を基にした再現物質なので、この味が本物かどうかは不明だ。


そんなことを考えつつ、秋の寒空で熱々のミルクティーをチビチビ飲む。


幸せだなあ……。


「ま、待ってくれ!俺達はここから追い出されたら、他に行く場所なんてねえんだ!」


乞食の中には、こんな奴もいる。


片足のない男だ。


他にも、老人やら何やらがワラワラと出てくる。


「ほーう?行く場所がない?」


「ああ、そうだ!俺は戦争で戦ったのに、足を失って……」


ふーん、あっそ。


「なんで戦争なんかに出たんだ?」


「お、俺は農村の三男坊で、他に食っていく手段が……」


「なかったのか?街で、下働きでも良いので働かせてくださいと頭を下げたか?冒険者はどうだ?」


「い、いや、それは……。だって俺は、学なんてないし、力もないし」


「学や力をつける努力はしたのか?」


「の、農村出が努力なんてしても無駄だから……」


「なるほどなるほど!つまりお前は、『なんの努力もせずに、流されてただ兵士になり、おめおめと負けて帰ってきた無能のおっさんを助けろ!』と、そう言う訳だな!」


あー嫌だ嫌だ。


気持ち悪いくらいに厚顔無恥だ。


この世界の底辺層である冒険者……、あれだって、仕事をしながらギルドの講習で文字や計算を習い、それなりの仕事を始める奴だっているんだぞ?


生まれが悪かった!確かにそれはそうだろう。


だったら、生まれの悪さを埋められるくらい努力をせにゃならんだろうに。


「お、おお、お前は!お前は恵まれているんだろう?!生まれた時から!貴族だから!俺達平民から搾り取った金で贅沢して、苦労なんて何一つしてこなかったんだろう?!だったら、俺達に!俺達に慈悲を一欠片くらい!」


はーーーーー????


なーーーに言ってんだこのカス????


俺の幼少期が、『貴族様らしいゴージャス生活』だったとでも?


舐めてんねぇ〜!


こりゃパワハラの刑だ。


「なーるほど!よく理解できた!つまり、恵まれた奴は恵まれない奴に慈悲をかけなきゃならんのだな!」


「そ、そうだ!」


俺は、その辺にいる乞食の両手両足を斬り飛ばした。


「ほら、片足だけのないお前と違って、両手両足がない人だぞ。どうした?さっさと面倒見てやれよ?慈悲をかけてやれよ?」


「ひっ!こ、この、外道め……!」


はーーー?


「舐めてんじゃねえぞボケナスが」


俺は、男の頭を蹴り飛ばす。


「俺がよぉ、知らねえとでも思ったか?お前ら乞食は、更に弱い立場の孤児から搾取してたじゃねえかよ。何が慈悲だ、笑わせる」


そう、そうなのだ。


乞食共は、更に弱い孤児達からカツアゲをしたり、犯罪をさせたりして金を稼いでいる。


子供は捕まってもボコボコにされるだけで犯罪にはならないからって、子供達に窃盗などを強要しているのだ。


その他にも、暗殺ギルドやら盗賊ギルドみたいな非合法な活動をする奴らに仕事をもらったり、情報を流したりなど、犯罪行為にも加担している。


同じ底辺でも、冒険者の方がまだ真っ当に働いている分だけマシだ。


ここにいるのは、冒険者になって命懸けで戦うのが嫌だから、楽な方へ楽な方へと逃げてきたカス共なのだ。


だからこそ、スラムの人間には市民権がないとか、殺しても罪にはならないとか、そう言うシステムができている。


まともなのにスラム落ちしちゃった可哀想な人?


そんな人らは、俺に絡まないでとっとと逃げたよ。


そう、だから……。


「お前らみたいなカスに、どうしてこの俺が斟酌してやらにゃならんのだ?アホ抜かすな」


『《マジックミサイル》 ラン』




しばらく待つと、今度はゾロゾロとガキが出てきた。


百人くらいだろうか?中には幼児もいる。


「おおーお?どおーしたんだい、ガキ共?」


俺はわざとらしく聞いてやった。


探知の魔法で知っているからな、さっきから物陰からこちらを見てきていたのを。


すると、二人。


黒髪の猫獣人と、鳶色髪の犬獣人の二人のガキが前に出て、跪く……。


「「貴方に従う。なんでもするから、養って」」


ほーーー?


「……いいね」


前も言ったが、ビジネスで一番大事なのは、「チャンスを掴む」ことだ。


チャンスを掴みにくる奴は、俺は大好きだ。


手を伸ばしてきたのなら、掴んでやろう。


「名前は?」


「アラン」「ベティ」


「良いだろう。お前らは全員、今日から俺の下僕だ」




まずは、ガキ共の汚れを魔法で落とす。


そうしたら、まともな服を着せて、飯を食わせる。


エイダと、孤児のまとめ役を自称する、アランとベティという二人のガキに、大鍋のスープを配膳させるのだ。


具を小さく刻んで火の通りを早くしたスープに、作り置き創造のロールパン。それとカマンベールチーズ的なサムシングを好きなだけ食わせてやる。


「おいしいね、おいしいねえ……」


「ありがとうございます!ありがとうございます!」


「こんなパン、ふわふわで、おれ、はじめてだ……」


泣きながらパンを頬張るガキ共。


いやー、感動的だな。


それを他所に、俺は、『デリートマジック』の《ティルトウェイト》を使って、建物をどんどん消していく。


『デリートマジック』には、《マジックアロー》《マジックミサイル》《ティルトウェイト》の三種類しかない。


《マジックアロー》は、射線に触れた物質の、触れた部分を消去する。


《マジックミサイル》は、触れたものを問答無用で消滅させる爆風を出すミサイルを飛ばす。


《ティルトウェイト》は、指定範囲を抹消する。


分かりにくい?それぞれ、単体、複数、全体と、攻撃の範囲が違うだけだ。


なんにせよ、これだけ強力な威力があれば、三つで攻撃手段はもう充分。


『消滅』という、コスパ最高の破壊手段があるのに、なんで「隕石落とし!」とか「核熱攻撃!」とかアホなことせにゃならん?


武器や兵器に必要なのは、見栄えやオシャレさじゃなくって効率だけだ。


さて、そんな感じで、俺がスラム街を更地にした頃には、ガキ共は腹一杯で眠りこけていた。


とりあえず、『ジェネレートマジック』の3DCGビジョンで設計した館をポンと出す。


で、念力魔法……、『キネティックマジック』による力で、寝てるガキを館に放り込む。


もう十一月だ、外で寝るのは拙い。


困ったことがあったらなんでも言うと良い、君達は大事な労働力なんだ。

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