第37話 絶頂のスピーチ

んっんー、必要な時に必要な分だけリソースを注ぐ。それが万物の要訣。


素晴らしいな。


この辺を理解している人が学園長なら、学園での生活は楽になりそうだ。


マジな話、分かってない奴が多過ぎる。


魔法ってのは本当は高燃費で、情報を削除するマジックアローは、初級魔法ほどのコストで人間を充分に殺せる。


なのにそれを、無駄に火だの風だのに変換するから、ロスが生まれて殺傷力が減るんだよ。


考えてみてほしい。


人一人を壊すのに、大量の水を放水!だの、大量の火を放射!だの、アホらしいと思わないか?


人の骨が折れるくらいの勢いと量の水で倒す!って……、その時点でおかしいと気付けるだろ。


そんな無駄なことせんでも、ほんの少しの水を相手の鼻と喉に流し込んだまま停滞させれば、窒息死させられるはずだ。


なんなら、顔の部分を覆う水球を維持し続けるだけでもいい。


そうすれば、ほんの少しの魔力で簡単に人間を殺せるのだ。


火だの風だの土だのも同じ。


無駄が多過ぎる。


第一、この世界はプログラムでできているんだぞ?


存在を削除すれば消えるものを、わざわざ別のプログラム(魔法)で消し飛ばそうとするなんて、非効率極まりなくないか?


簡単に説明しよう。


10の力を持つ存在を消したいとする。この存在の変数をxとしよう。


その時に、この世界の魔導師達は、10の力を消し飛ばすために、20や30の魔力を込めた術式を走らせるのだ。10から20や30を差し引いて0にしようってことだな。


だが俺のデリートマジックは、存在の根幹から消している。つまり、10の力が入ったxという箱そのものを消しているのだ。


xを……、そうだな、ホルダーに装着された10mのトイレットペーパーと例えよう。


そうすると、この世界の魔導師達は、10mのトイレットペーパーを消すのに、わざわざトイレットペーパーを20m分引っ張っているような感じだ。


一方で俺は、トイレットペーパーを芯ごとホルダーから直接外して捨てている。


存在の根幹を消しているのだ。


それをするのに、莫大な魔力はいらない。ほんの2や3もあれば、xを直接消せる……。


どっちが楽か?それは自明だよな。


どいつもこいつも無駄ばかりだ。俺はそう思っている。


だから、俺の魔法の簡潔さを評価してもらえたのは、シンプルに嬉しい。


だが……。


「あんなの、何も凄くないだろ」


「地味だな」


「俺の方が上だ!」


「無詠唱なんて、嘘に決まってる!」


「裏口入学じゃないのか?本当は魔法が使えないんだろうな」


殆どの奴らは……、魔導師科の連中も、見物に来ている騎士科の連中も、俺の魔法の利点を理解していなかった。


カスだなこいつら。


まあ別にどうでも良いよ。


使えない奴は切るだけだ。


それがアメリカ流。


……いや本当に凄いからね?日本みたいに、窓際なんちゃらみたいなノリで会社に飼ってもらえるとかそんなんないから。


無能はマジで一瞬で切られるから。


クッソ怖いぞアメリカは。


俺のいた部署でも、ちょいと動きが悪い奴とかはすぐに、荷物まとめた段ボール押し付けられて、「明日から来なくて良いよ」だもん。


ドラマみたいだけど、あれマジだからね。




まあその辺は良いでしょう。


学校には無事入学できたし。


ぶっちゃけ、この様子だと学ぶもんなんてなさそうだしな。


強いて言えば、学園長の婆さんから話を聞きたいくらいかな?


俺も、学園長が物凄い英雄であることは事前に聞いていたからな。


英雄の戦場でのお話とか、プレミアムじゃん?


まあ、とりあえず、この三年間は商売に費やそう。


やはり資本パワー……、資本パワーは全てを解決する……!


で、学校のシステムだが……。


「大学じゃん」


ほぼ大学。


今ちょうど、入学説明会みたいなのがあったんだが、そこで学校のシステムを説明されたんだよね。


そしたらまあ、ほぼ大学かなーって。


即ち、必修とそうでない科目を既定の単位数分選んで、自分で時間割を組んで好きに学ぶって形式。


単位が足りてりゃいつでも卒業可能、足りなきゃ留年。


まあ、評価方式が異なるから、どうやれば合格みたいな明確な基準がないのが地球の大学とは異なる点か。


はえー、じゃあなんか面白そうな授業あれば取りますかー。


っと……、そういや、首席だからスピーチを頼まれてたんだった。


これから始まる入学式でちょっと話すかー。




まー、長いね。


歳食うと人間はお喋りになるんだ。


……もうすぐ喋れなくなる老耄だもんな、そりゃたくさん喋るか。


肩書きだけは偉そうな老害共のスピーチを流し聞きしながら、プログラムを書いていると……。


「では、新入生代表、エグザス・レイヴァン」


と、お呼ばれした。


「うーっす」


さて……、何を話すか……。


カンペも何も持たずに壇上に上がった俺はおかしいらしく、来場者全員が困惑している。


先ほどまで偉そうにスピーチしていたお偉方も、生徒も教師も全員がだ。


うーん、よし、決めた。


「首席のエグザスだ。まず、貴様らクズ共は、何故俺が首席なのかが分からないと、そんな反応をしていたと思う」


「なっ……?!」


「な、なにを?!」


「こ、こいつ!」


外野の声を無視しつつ、続ける。


「いや、それはしょうがない。諸君らはドン引きするほどに魔法に無知なだけで、知能に問題はないはずだ」


で、あー、そうね。


「俺は俺の理論を証明すると共に、俺に従う下僕を揃えて、秘密結社の一つでも作ろうと思う。まあ、現段階でもこの国を消し飛ばすくらい訳ないのだが、下僕は多い方が賑やかで嬉しいからな」


最早絶句するオーディエンス。


あーーー、気持ち良くなってきた。


凄い、凄く良い。


上から目線で偉そうに振る舞うのは最高のオーガズムだぁ……。


「俺に従う奴は、下僕としておこぼれに与るくらいは許可してやろう。それ以外の蒙昧なゴミ共は、俺が栄光への道を歩む姿を見て嫉妬でもしていれば良い」


そう言って俺は、壇上から降りた。




いやー……、ほぼイキかけました。

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