第35話 凡夫と天才
んっん、失礼。
カスばかり!は言い過ぎかもしれん。
これからこの王立学園で魔法を習い、卒業する頃には、精鋭騎士が足元にも及ばない存在に成長する予定なんだろう。
だが、現段階では申し訳ないがカスばかりと評価せざるを得ない。
もちろん、光るものがあるやつもいる。
「六十四番!前へ!」
「ええ!」
おや、フランシスの番だ。
「『ポップ 《メタルバスター》 アウトプット フロント』」
短縮詠唱、そして、目の前に生成された鋼鉄の球体……、それも人間の心臓ほどもある大きな鉄球が、音速でぶっ飛んだ。
なるほど、要するに、『カノン砲』を魔法で再現しているのか。
標的の木人がこれを受けて無事でいるはずもなく、ド派手に木屑をばら撒きながら破砕された。
そりゃそうだ、攻城兵器を人型標的に向けて撃つようなジャンヌダルク的無法をすれば、こうもなろう。
試験会場は唖然としたよ。
既にもう、教師も教えることがないレベルなんだろうな。
方々から「流石はクライン侯爵家だ!」という畏怖混じりの称賛の声。
それを聞いたフランシスは、真っ平らな胸を張って威張っている。
かわいいね。
もちろん、見どころのある奴は他にもいた。
まず、聖女様などと周りから呼ばれている青髪の美少女。
この女はどうやら神官関係のアレらしく、攻撃の魔法ではなく、世にも珍しい水属性の治癒の魔法を使うらしい。
……観察したところ、肉を液化して接合する魔法だった。水ってそう言うこと?それ、アリなの?
次に目立っていたのは、黒髪をポニテにしたアジア人風の女。
何故か、魔導師の癖に帯刀している。
しかもこの国のショートソードではなく刀を。
「……『ポップ 《シップウ》 アウトプット トレースウェポン』!」
そう言って、風を纏う刀を振り抜くと、標的の木人が切断された。
……おやおや?
俺はさっき、「風で人体は斬れない」とか言ったのに、この女はできているなあ?
おかしいね。
……答えは簡単。
これ、風じゃないんだよね!
緑色の粒子が集まって、空中で固体化して、物質を斬り裂いていた。
どの辺が疾風なの?
むしろ土では?
マジで分からんな……。
気になる奴はこれくらいだな。
チラホラと、まあまあかなー?ってのはいたが。
最後はエイダと俺だ。
「では、二百十三番!前へ!」
「はいっ!」
さて……。
エイダがどんな魔法を使うか?だが。
エイダは元々、俺の実験動物だったんだよな。
だから、危険な術式を覚えさせている。
危険ってのの意味はまあ……、自他共にってことだ。
「『ポップ 《ヒートチャージャー》 アウトプット ビハインド』」
六枚の炎の羽。
これは、熱量リソースを蓄える熱バッテリーだ。
更に……。
「『ポップ 《ヒートリムーバー》 アウトプット アトモスフィア』」
周囲から熱量リソースを奪う。
当然、周囲は極寒に。
急冷された空気は縮んで、暴風が振り撒かれる。
蓄えられた熱量はエイダの背中の翼になるのだが、これは蓄えた熱量を可視化した魔力粒子による半仮想ヴィジョンである。
つまり、翼の大きさと熱量の高さは正比例しない。
むしろ、この空間にある少しの熱量を吸っただけで、六枚もの羽ができている辺り、火山一つ吸い尽くせば数千数万の羽が生えるだろう。
「『ポップ 《プラズマシューター》 アウトプット フロント』」
そして、集めに集めた熱量を、放射する。
木人?消し炭かな。
静まり返る試験会場。
そして……、誰かが言った。
「すごい」
その一言が、耳鳴りがするほどに静かな会場に響いた。
それを皮切りに……。
「すごい!」
「なんだあれ!」
「天使みたい!」
今までで一番の喝采が、エイダに浴びせられたのであった……。
「ごほん!最後、二百十四番!前へ!」
あ、俺の番だ。
俺は指を弾いた。
木人の脳幹と心臓の位置に、五百円玉くらいの穴が空いた。
終わり。
「……どうした?早くしろ」
「いや、終わったよ」
「何を言ってるんだ?詠唱すらしていないだろう?!」
「木人を見てみろ」
「ん……?なんだこれは?穴……?不良品……、ではないよな……?」
「俺がやったんだ」
「は……?何を言っている?詠唱もせずにどうやって!」
うーん……。
あんまり、派手な魔法は作ってないからなあ……。
だって、存在を根底から消し去る『デリートマジック』を上回る威力の魔法は、理論上存在しないからね。
炎がばーん!水がどーん!とかそう言うのは作ってないんだよ。
困ったな……。
と、そこに。
「おやめ!」
何かこう……、古典的魔法使い的なババアが出てきた。
鷲鼻の白髪で皺くちゃの老婆。
だがしかし、下手な若者よりも背筋が真っ直ぐで、声のハリも素晴らしい。
良い老い方をした婆さんだった。
「が、学園長?!」
へえ、この婆さん、学園長なのか。
「坊や、あんたが、マギー嬢の言っていたエグザスかい?」
マギー嬢?
ああ、マーガレット先生か。
「マギー嬢ってのが、マーガレット・ガードナーのことならば、その通りだ」
「ククク……、なるほどねぇ……」
ニヤリと笑う婆さん。
良い顔だ、老いてなおこの笑顔ができる人間は素晴らしい。
「が、学園長、何でしょうか……?」
俺と婆さんが対面する、その時。
おずおずと、試験官の男が切り出した。
申し訳なさそうというか、怯えているかのように。
「学園の教師の質も落ちたものだねぇ……、これが理解できないのかい?」
「こ、これとは?」
「『無詠唱』だよ」
なるほど、気付いたか。
「む、無詠唱?!それは、エルフの秘技という、あの?!」
「ああそうさね、目に見えるものばかりを追うから気付けないのさ。魔力を見れば見えるだろうに」
「魔力を……?ああっ!『魔力閉じ』……?!」
「そうさね、魔導師の秘技たる『魔力閉じ』さ。坊や、もう一度だけ術を使ってもらえるかい?」
婆さんに言われた。
「おう、良いぞ。今度は見える速度で使ってやる」
俺はそう言って、ゆっくりした速度で、魔力を見えやすくした状態で、マジックアローを放ってやった。
「……ククク、クハハハハ!よく分かったよ坊や!首席はあんただ!」
へえ……!
この婆さん、凄いな。
デリートマジックの価値に気付くとは。
「が、学園長!そんな勝手に……!」
試験官の教師が何かを言うが……。
「五月蝿いよ、坊主。あれの価値が分からないのかい?」
「価値は……、まあ、確かに未知の術式ですが、こんなものよりひとつ前の二百十三番の方が……!」
そこで、婆さんはこう言ったのだ。
その言葉は、歴戦の魔導師にして、学徒の言葉だった……。
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