第34話 入学試験
「……エグザス様」
「何だ?」
「ウチで働きませんか?魔導師じゃなかったとしても、支店長の席を用意しますよ」
「そのつもりはない」
「そうですか……。正直、貴族をやるよりも、こちらの方が向いていらっしゃる……、と言えば侮辱になりますかな?」
そう言ってネチャっとした笑みを見せるバックス。
「いや、光栄だ」
笑みを返す俺。
「今回のお話、大変に素晴らしかったです。商品の素晴らしさもさることながら、採算性の取れた長期的な計画まで提示していただけるとは……。ここまでできるのは、商人でもそう多くはありません」
「そうか」
「商品の方ですが、入荷を確認次第、すぐにでも発売させていただきます。発売までには輸送などがありますので一週間ほどお待ちになってもらうことになりますが……」
「良いだろう。では、よろしく頼む」
「ははっ、こちらこそ」
仕事も終わったので、暫くは観光兼地理把握に努める。
とは言え、特に見どころなどないが。
暇なので、新作ゲームの開発をしながら待ち……。
そうこうしているうちに、入学試験の日がやって来た。
学園!
王都の少し外れた辺りにある、巨大な館とグラウンド!
館は、この世界の貴族が好むゴシック調に似たデザインとは違い、装飾をある程度廃した、質実剛健なデザイン。
それも、一つや二つではない。
地球の大学のように、複数の棟が建ち並んでいる。体育館だか、ホールだかを含めて十棟ほどか?
早速、番号札が配られ、試験が始まった……。
え?ペーパーテスト?
まず、ペーパーがないぞこの世界。
羊皮紙しかない。
なので、試験となると基本的に実技と面接だ。
無論、文字の読み書きも習うが、それは蝋版に書いて覚える感じだな。羊皮紙はお高いので。
で、今回は実技だな。
魔法の学校なんだから、魔法が使えりゃ良いだろってのは、まあそれはそうだねって感じ。
そんな訳で、百人以上の子供が集められて、試験を受けることに。
色々と学科があって、この会場では魔導師の試験をやるらしい。
まあそりゃそうか……。
魔導師と騎士を同じ科に纏めたら、騎士が惨め過ぎる。
魔導師は、どんなに弱くとも精鋭騎士よりも強いからなあ。
もちろん、間合いの近さとか前提条件によっては負けることもあるだろうが、それは「ライフルを持った人とナイフを持った人、どっちが強い?」という一般論の答えと同じだ。
どう考えてもライフルの方が強いだろ?
当然、ナイフ持ちが近くから、銃を構える前に襲い掛かってきたら?!みたいなことを言われれば違うかもしれんが、一般論ではライフルを持った人間にはナイフ持ちが武術の達人だろうと無力だろ。
それくらいの戦力差があるってことだ。
だから、魔導師科と騎士科は別々。
とは言え、どちらも軍務方なので、授業内容は似通ったものがあるし、一緒に実習したりもするそうだ。
他にも、神学と法務、芸能の学科がある。
経済……?知らない子ですね……。
噂によると、海洋貿易国のプロキシア共和国の学校には経済学部があるらしいが。
基本的にこの国では、金は賤しい!って価値観だ。終わってるね!
さてさて、試験。
この場には、二百人ほどの魔導師が集まっている。
恐らく、国内の同年代の魔導師ほぼ全てだろう。
一つの世代につき二百人程度しかいない存在だから、それを一箇所に纏めて画一的かつ高等な教育をしよう!ってのは理に適っているな。
魔導師の行き着く先はどう考えても戦闘者だしな、軍に組み込むための画一的な教育は必須でしょ。
え?個性を伸ばす?
アホか?
よく、学校は子供の個性を削って社会の歯車にしている!などという言説があるが、学校に通った程度で削られる個性なら、どの道社会で通用しないんだよ。
それなら、歯車に加工された方がまだ食っていける可能性がある。
事実、俺も学校に通っていたが、個性は削られずに世界的に有名なプログラマになっただろう?
と言うか、地球の現代社会で活躍している個性的なスポーツ選手や芸能人が学校に通ってなかったとでも言うのか?
この世界も同じだ。
俺くらいに全てを破壊するほど強いなら個性を伸ばし続ければそれでいい。
しかし、ここにいる大多数の凡人魔導師にとっては、個性を伸ばすよりも大人しく軍隊での振る舞い方を習って、歯車の一つにでもなった方が将来的に為になるのだ。
フランシスくらいのレベルになってようやく、個性を伸ばすみたいな選択肢が出てくる感じ?
……俺が強過ぎて力の差とかよく分からん?まあ、それについてはこれを見れば分かる。
「十二番!前へ!」
「はい!」
前に出た魔導師のガキ。
この中では平均的な魔力を感じる。
そいつが詠唱する!
「行きますっ!『ポップ ウィンド マナアド ワン ポップ ブラスト マナアド ワン アウトプット フロント』!!!」
……結果?
標的用に用意された木人が倒れたよ。
まあ、瞬間風速30mってとこ?人くらいなら吹っ飛ばせるんじゃない?
……そう!これくらいの魔法が平均的な威力なのである!
え?風属性なら真空の刃がー?
何を言ってるんだねチミは。
気体でどうやって肉体を傷つけるのかね?
仮に、風の刃とやらで攻撃できるんなら、そのリソースは別の使い方をした方がより効率的に人体を破壊せしめると思いますよ。
それくらい、風で攻撃するとは難しいんだ。
……まあ、俺は出来るけどね!
他も見てみようか。
「次!十三番!」
「はい!『ポップ ウォーター マナアド ワン ポップ ショット マナアド ワン アウトプット フロント』!」
次は水の使い手だ。
どんなもんかな?
水の塊が放水車くらいの速さでぶちかまされる訳だ。
まあ、人体にヒットすれば吹っ飛ぶんじゃない?
けど、殺傷力はまあ……。
護身術くらいのもん?
つまりこう言うことだ。
魔導師もカスばかり!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます