第32話 審美眼の話

「そういや、俺達の服はどうなんだ?貴族のセンス的に」


移動の最中、俺はフランシスと会話をしていた。


こういう旅というか移動の最中は暇だから、フランシスとしても歓迎だったらしい。


なので、なんとなく服飾の話をしてみた。


「え?そうね……、まあ、分かる人には分かるって感じかしら?」


「ふむ?」


「まず、見たところウールの生地みたいだけど、とんでもなく高品質ね。こんなにきめ細やかで肌触りのいい、そして光沢を放つまで綺麗に織られた生地は見たことないわ」


「おお、分かるのか」


流石はお貴族様と言うべきか?


まあ、俺もそこそこに詳しいから言えるが、ビジネスマンはスーツの良し悪しで大体分かるからな。


吊るしのスーツを着てるような奴は、大抵碌な会社に勤めてない。高等……と言うのはアレかもしれんが、上層のビジネスマンならばスーツはオーダーメイドが基本だ。ブランドがイタリアだのフランスだので格付けしているのは貧乏人で、金持ちはブランドではなく、その服が着る人に相応しいかどうかで決める。


今時ギラギラのロレックスとかつけてる奴も引いちゃうかな。時計も高ければ良いってものじゃなく、その場の雰囲気に相応しいものを選ぶセンスを要求される。


実際、一流のビジネスマンは、タイピンのセンス一つとっても違うぞ。現代の貴族だからな、礼法やマナーに身繕い……、そう言うところで貧乏人共と差をつけていくのだ。


「私は侯爵家の娘よ?舐めないでよね。でも、物を知らない貴族だと、見た目が地味だから舐められるかもね」


「なるほどな」


えぇ……。


貴族なのにこのスーツの良さを見抜けない奴いるんだ……。


いや、この時代ならそうなのか?


「それと……、私の見間違いじゃなければ、その服も小物も全部、魔導具よね?」


「そうだぞ」


「うわー……、凄いわね……。多分、その服一式で屋敷が建つんじゃないかしら?それくらいの逸品よ。尤も、魔導師貴族しか気付けないでしょうけど」


「へぇ、そうなのか」


これはそうだな。


魔導具と見抜けるのは、魔導師だけだ。


「あとそれ!オリハルコンのネックレス!これも王都の一等地に屋敷が建つわ!」


「ああ、これってやっぱりオリハルコンだったのか」


「……なんで自分の服の価値も知らないのよ?!」


「作ったのが俺だからだ」


「……?!?!!?!!」


そんな話をフランシスとしながら、馬車に揺られて一ヶ月。


やっと王都に辿り着いた!


「「着いたー!」」


「ちょっ……、ちょっと待ちなさい!さっきの話!さっきの話ィ!!!」


喚くフランシスを抱え、ノリノリのエイダと手を繋ぎながら入門。


因みに、俺は十二歳九ヶ月にして、身長165cmとかなりデカい。


一方で、エイダは155cmと結構大きめなのだが、フランシスは133cmとびっくりするほどチビ。


栄養状況とか関係あるんじゃないかな?俺とエイダはガキの頃から高栄養な食事と運動を欠かさなかったからな。


なので、チビロリのフランシスを抱えて歩けるんですね。




さてさて、クライン家の権威パワーにより、行列を抜かして門に入れた俺達。


寄親のカーレンハイト辺境伯家の王都での館に挨拶……、はせずに、クライン家の王都での館に転がり込んだ。


だって、フランシスが良いって言うんだもん。


そもそも、カーレンハイト辺境伯家には、先生に六千万円相当の魔石を渡してあるんだから、その対価として学園への推薦と学費を払わせることになったはず。


学園の学費は三年間で二千万円ほど。カーレンハイト辺境伯家への礼金が三千万円、先生個人への心付けが残りの千万円くらいだとすれば、余分過ぎるほどに金は払った。


頭まで下げに行く必要はないと判断する。


さて、クライン家の館に向かおう。


まず、門は……、まあ、中世クオリティとだけ。


おっと……、中世じゃわからん人も多いだろう。


中世と近世の違いがわからん奴は多いからな。


ちゃんと言っておこうか。


ボロい。


以上。


そして道!


道も別に石畳とかじゃないぞお。


石畳とかそう言うのは、王都でも城の前とか重要地点のみだ。


人口も、労働者もそう多くないし、技術力も機械もないのだから、こんなもんだろう。


ただ、人の賑わいは中々のものだ。


十万単位での人がいるだろう。


そして、王都の中心部である貴族街へ。


その中でも、一等地と言えるようなところに、クライン家の館はあった。


「流石は貴族街だな、無駄に煌びやかで、おまけに酷い匂いだ。正に、この国の貴族そのものって感じ」


上下水道が未発達なのかな?いや、横着して道にゴミを捨てたりしてるからだろうな。生ゴミの腐った酷い匂いが漂っている。


今はまだ八月。夏の暑さで腐った生ゴミの匂いは劇烈の一言。


俺とエイダは、空気洗浄のアクセサリをつけた。


「アンタねぇ……。それ、うちの人の前で言わないでよ?」


「言うぞ」


「まあ……、でしょうね」


フランシスの話によると、王都の館には、今は使用人しかいないらしい。


数年前までは、王都に法服貴族(土地なし貴族)として滞在している親戚がいたそうだが、少し前に引退して、クライン領の離れに隠居したんだとか。


「ようこそお越しくださいました、お嬢様!」


中に入ると、笑顔の従僕達がフランシスを迎え入れる。


よく訓練が行き届いた良い従僕だ。


「ご苦労様。こちらは、私の友人よ。学園が始まるまで館に泊まるから、丁重に扱いなさい」


「はっ!」


従僕に指示をしたフランシス。


その風格は十二歳のチビロリのものではない。


流石貴族と言うべきか。俺には遊ばれているが、従僕相手にはきちんと上位者として応対できるようだな。


従僕達は、クライン家の馬車からフランシスの荷物らしき鞄を運んでいく。


俺達?


俺達は荷物を全部zipにして別空間に保管しているから……。


さて、今日はもう休もうか。


旅の疲れがあるからな。

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