第27話 秘密結社の構想
そういえば、あっさりモンスターを殺しているけど、何で俺はこんなことができるんだろうか?
元々、他人を殺す気で攻撃できるタイプだったのは確かだが……。
……いや、そうか。
幼い頃の極限の空腹の最中で、その辺にいる家畜や獣が、完全に食べ物にしか見えなかったのが始まりか。
いやー、本当にね。
人間、腹減ってると頭おかしくなるよね。
あの頃は、その辺のウサギが美味しそうなフライドチキンに見えていた。
極限の減量中のプロボクサーが、干してあるグローブが肉に見えて、気付けばグローブを齧っていた……、なんて話を聞いたことがある。
俺もそれと同じで、腹が減り過ぎて獣が食い物にしか見えなくなってたんだろうな。
そうして、獣を解体して食べることをガキの頃からやっていたせいで、今では人間をバラバラにしても何とも思わなくなっていた……。
血に慣れた訳だ。
いや、流石に俺も、殺されそうになった時に相手に発砲するくらいはできるが、刃物で動物を解体したりは、前世の感覚ではできなかった。
この、生物を殺す技能と精神は、魔法以外にこの世界で得られた数少ない利点の一つだ。
……いや、利点なのかこれ?
まあその辺はどうでもいいよ。
移動だ移動。
魔法を使えば何十倍もの速さで移動できるが、王都の位置を知らないからなあ。
カーレンハイト辺境伯領は、物を売りによく行っていたんだけど……。
あ、そうだ。
次は人工衛星作ろうか。
そうすればGPSが使えるようになるはず……。
それは後々か。
とりあえず今は、使い魔作りに時間をかけよう。
「エイダ」
「はい?」
「お前、好きな動物は?」
「そうですねえ……、大きな犬が好きです」
「そうか」
俺は、馬車の中に狼の死骸を取り出して、心臓部に魔石を埋め込み、術式を書き込んだ。
ついでに、外見も白くして、目玉をエイダと同じ翠色にしてやる。
使い魔の完成だ。
「ほら、犬だ。やるよ」
「えっ、狼……」
「狼を家畜化したのが犬だからな、何もおかしくないな」
「は、はい」
エイダより確実にデカい白狼が、エイダに傅く。
「ええと……」
「まずはユーザー登録……、あー、契約だ。やり方は……」
「『《ファミリア・ヴィジョン》 ラン』……、わあっ!凄い!これ、片目がスフレの目になってるんですね!」
とりあえず分かったことは、エイダがペットに好きなケーキの名前をつけるようなスイーツちゃんだったと言うことか。
俺?俺は使い魔に黒いフクロウを用意したが、こいつにはメビウスと名付けた。
何故かって?最近、エイダにメビウス関数を教えていてだな……。
正直適当だ。もしかしたら、バーゼルやケージーになっていたかもしれない。
次に名付けるならヴィエトとかマクローリンとかフェルマーとかになるんじゃないの?
にしても、黒いフクロウを連れた魔法使いとか、完全に悪役だよなあ……。
「いてててて」
うおお、猛禽!
そういや、フクロウも猛禽だったな。
普通の服では、爪が身体に食い込んで痛えわ。
よし、服も作っちゃおう。
どうせなら、付与魔法ビンビンで。
魔石に術式が書き込めると分かれば、魔石を他の物質と融合させれば良いだけだしね。
そういえば過去に、銀を弄ってたら青白い銀になり、こりゃミスリルなんじゃねえの?みたいなことを言っていた記憶がある……。
……なるほど!魔石と融合した銀がミスリルだった訳か!
ミスリルと同じように、布と魔石を融合させれば……。
おおっ!術式が書き込める!
ほらなー、魔石に書き込みができるって事実に気づかなければ、かなり迷走してたんだよ。
ありがてえなあ……、やっぱり、「この世界から学ぶことなど何もない!」みたいな偉そうな姿勢は駄目だ。
見下せるようなクズばかりだが、それはそれとして、良いところは盗まねば。
「エイダ」
「はい?」
「服を作ってやる、どんなのがいい?」
「そうですねえ、やっぱり、動きやすい服が良いかなと……」
「わあっ!可愛いですー!」
とりあえず分かったことは、エイダも色気付いてきて、服にあれこれ注文してきたことだ。
ついでに言えば、デザイン力が俺より高いから、俺の服のデザインもお願いした。
服装?
俺はビジネスマンらしくスリーピーススーツとかどう?と提案したぞ。
そしたらエイダが、ファンタジー風にちょいとアレンジした。
俺も、オフィスではおしゃれ番長として通っていたが、所詮はエンジニア。
エンジニアにはやっぱりおしゃれパワー足りてないな!
異世界の小娘の方がセンスいいとか……。
悲しいね。
いや、多分違うな。
俺のセンスはまあそこそこだ。
エイダのセンスが良過ぎるんだ。
隠れた才能ってことか……。
あとなんか、メビウスの輪のシンボルがついたネックレスとかも作らされた。オリハルコンで。
スリーピーススーツだけどノーネクタイで、このネックレスをつけるらしい。
「なんで?」
「フリーメイソンっていうの、やりたいです!」
あーーー?
そういや、そんな話もしたな。
外国の話ですよみたいな体で、フリーメイソンの話を何となくしたわ。
えっ、何?
秘密結社作れってこと?
あー……?
いや、それは……。
「アリじゃないか?」
俺の目的がそもそも、俺が選んだ存在に俺の魔法の論理を教え込み、シンクタンクと言うか組織を作って、国家にすら服属しない魔導師集団を作ることだからな……。
そりゃ、確かに秘密結社だ。
「やりましょう!」
「やるっかぁ……」
まず、組織概要を作らなきゃ駄目だな。
ええと、どうするか……。
「組織の名前は……、やっぱり、魔法の秘密結社だしゴールデンドーンとか?」
「それはやっぱり、エグザス様に決めてもらわないと……」
「んー……、じゃあ、『アウロラ』ってのはどうだ?夜明けという意味だ」
「良いですね!アウロラ団とか、黎明派とか呼ぶんですね!では、組織の合言葉は?」
「あー?そうだな、アルキメデスの……、『エウレカ、エウレカ!』としようか」
「どういう意味なんですか?」
「あーっと、まあ、発見万歳!みたいな?」
「いいと思います!カッコいいです!理念はどうなりますか?」
「じゃあ、科学と魔法の信仰……、『叡智』と、王権や神からの解放……、『自由』と、本人の能力によって立ち位置が決まる『平等』なんてどうだ?」
「良いですね!それと……、組織の階級は?」
「それは……、ハッカーの階級から取るか。上から、グル、デミゴッド、ウィザード、ハッカー、プログラマ、ニュービー、ラマー、スクリプトキディ、ワナビーだ。そういや、誰でも魔法使いになれる魔導具の構想があったな……」
グルは俺だな。
俺は実際、地球でもグルと呼ばれていたし……。
ラマーから下には、まだ構想中だが、誰でも魔法使いになれる魔導具を配布した雑兵としよう。
ワナビーは……、まあ、構成員が膨れ上がった時に、非魔法使いをメンバーに入れなきゃならないとなった時に、ここに当てはめる。
「面白くなってきましたね!導師(グル)!」
「よせよせ、こういうのを考えるのは楽しいが、まだ何も始まってないんだからな」
「はーい」
まあ、エイダもこの辺は子供だな。
秘密結社ごっこ遊びがしたいだけだろう。
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アウロラ魔導師団
現在、世界をほぼ支配している秘密結社。『結社』『黎明派』『明星魔法団』『魔神教』などと呼ばれる。
その組織の結成は近年で、後年の調査によると、最高位の導師(グル)たるエグザスと、次席(デミゴッド)たるエイダが、故郷から出た時に組織図の概要を作ったと、『エイダ日記』にある。
また、初期メンバーは以下の通りである。
エグザス・レイヴァン
エイダ・レイビス
フランシス・クライン
ユキ・ザンゲツ
グレイス・アークライト
アラン・タロン
ベティ・ルビィ
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