第25話 師との別れ

馬車での移動は時間がかかる。


十二歳になった春、四月頃に村を出たが、王都までは馬車で四ヶ月くらいかかるらしい。


一ヵ月くらいは、学園の入学試験や準備に時間がかかるようだ。


つまり、学園が始まるのは九月からだ。


アメリカの学校と同じ感じのタイムスケジュールで動いてるっぽいな。


休日は少し多めで、これは、遠方から来る貴族に配慮してのことらしい。


で……、驚いたのは、入学試験の順位順によって、クラス分けされると言うこと。


俺はてっきり、ファンタジーの世界なので、かぶるとクラス分けしてくれる帽子とかでもあるんじゃないかと思っていたのだが。


いや、そんなんはないらしいけどね。何度も言うが、魔法は戦闘技術の面がかなり強い。生活に役立つ魔導具なんてものはほぼないのだ。


で……、成績順なの?


マジで?


貴族の権威とか大丈夫なの?


例えば、王族が最下位のクラスになったら、権威ガタ落ちでは?


と、俺が先生に言ったところ、公爵家と王家は試験なしで入学可能で、順位もつけられないのだとか。


つまり、旧日本軍で言えば、軍学校の宮様みたいなもんってことか。


まあ王族なので間違ってないか?


いやそれでも、侯爵家以下、貴族を順位分けとかしてええんか……。


と、俺が言ったら。


「あの……、流石にそれは貴族を侮り過ぎかと。貴族には確かに権威がありますが、必要な時にはその権威を捨てることもできるのです。彼らにも、それだけの度量と理性はあります」


と先生が言った。


「ふむ?」


「国益を考えると、爵位の順序程度で貴族よりも貴重な魔導師の評価をしっかりとできないこと……。その方が問題です」


なるほどな。


聞けば、過去に、爵位の順序により有能なのに力を見せるのを控えていた魔導師がいたり、逆に、爵位は高いのに雑魚の魔導師がいたりして、戦いの前線が混乱したことがあったらしい。


そういう過去の出来事から、現在では、学園では爵位関係なしに実力で評価することとなっているそうだ。


「つまり、学園では完全に実力主義なのね」


「はい。もちろん、学園を出た後は貴族としての柵に囚われることになりますが……、学園の中では、実力が第一です」


なーるほど。


やりやすくて助かるわ。


あとは……、そうだな。


「じゃあ、生意気なやつをボコボコにしても怒られないのか?」


と、俺は冗談半分で聞いてみた。


「正当な決闘の結果であれば、問題ないですよ?」


え?マジで?


「貴族とは戦う者なのですから、武力が第一です。正々堂々戦って負けたならば、それは仕方ありません」


あー……。


まさに戦国武将とおんなじだわ。


そういやそうだったな、マーガレット先生は知識がある人だから忘れてたけど、この国の貴族達ってアホだったな。


外国に借金してまで戦争ごっこして遊び、その戦争ごっこで目立つとそれを『名誉!』とか言って喜んでるアホ。


であれば、正々堂々戦って負けるならまだしも、卑怯なことをしたりして汚名を負うのだけは絶対に避けたい……、と言う思考か?


実力主義!ってのも、もしかしたら、負けたことを誤魔化すのはカッコワルイ!ってことなのかもな。


確かに、こういう世界じゃ名誉は重要なのは理解している。


現代社会では、殺人者の汚名を負っても、しっかりと服役すれば、最低限の仕事とは言え与えられて社会で生活できる。名より実って言うか、そこまで名誉は気にされない。


だが、この世界の貴族は、何より名誉を汚されるのを嫌う……、ってことか。


そう言えば、うちの村にも農奴や小作人がいたが、その扱いは酷いものだった。


名誉イコール人権みたいなもんなんだろう。


今まで不思議だったんだけど、この国の歴史では、どうみても勝てない貴族が体制に歯向かってから臣従するケースが結構あったが……。


あれは、戦って「我々は恐れずに戦った名誉ある戦士だぞ!」と示すためだったのか。


現代人からすれば、勝てない相手と無駄に殺し合うなんて不可解な話だが、この「名誉第一主義」の世界では、勝敗よりも「宗教的価値観における名誉ある者かどうか」こそが評価されるってことだな。


なるほどな、それならかえって扱いやすいくらいだ。


俺は、先生に礼を言った。


「……まあ、それでも、学園内ではそうだと言うだけで、貴族になればまた違いますが」


「と言うと?」


「人という生き物は、理屈じゃないんですよ。正当な決闘に敗れても逆恨みしてきたりする人は、やっぱりいますからね」


ははあ、やっぱりそうか。


「私も、学園ではかなり優秀だったんですけどね……。けれど、こうして社会に出ると、かなり疎まれていて……」


学生の頃はエセ実力主義で、社会に出ればコネが全て……。


なるほど、『社会』って感じだな!


そんな話をしつつも、馬車に揺られ……。




「では、私はここで……」


カーレンハイト辺境伯の領地で、先生と別れた。


俺とエイダは、このまま、カーレンハイト辺境伯家から手配された馬車で王都の学園へ向かう。


「先生、今までありがとな、助かったよ」


「いえ、こちらこそ!多量の心付けと、ゲーム機も下さりましたエグザス様には、私が感謝したいくらいです!私も、エグザス様のお話が聞けて、とても勉強になりましたし……。ありがとうございました!」


そう言って、家庭教師のマーガレット先生と別れた。


うーん、エロい展開とかも一切なかったな。


そういえば最近俺も精通したんだけど、特に先生にはそんな感じのアレにはならなかった。


エイダにはまあそこそこ……?


抱いていいと言われれば抱くかなあ?


何かこうね……、いかに、精通直後の少年の肉体といえども、この世界のきったねぇ女には欲情しないのよね。


先生もまあマシな方だけど……、俺の中では先生は芸人枠だから……。


エイダは、身体を綺麗にする魔法を教えてあるし、しかも、毎日一緒に入浴もしてた。


それに、ちゃんと定期的に餌やりもしていたから、肉付きも良く、肌や髪も綺麗なんだ。


一方、この世界の女は、栄養失調でガリガリボロボロ、更にクソ不衛生。


女どころか人間とすら思えないね。


まあそんな訳なんで……。


うーん、娼館とかも衛生観の不一致で無理そうだなあ。


性病とかも持ってそうだし。


やっぱり、弟子兼愛人を、どこかから拾ってきて育てるしかねぇな!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る