第19話 カネカネキンコ

大体分かった。


魔法ってのは基本的に戦闘のための技術。


魔法には格があり、『初級』『下級』と定義されるものは、魔法の入門書にも書かれている。


『中級』魔法ともなると、魔法使いではなく魔導師の為の区分となり、中級魔法を学ぶには、国の学園や名家や軍などの特別な本を読むか、優れた家庭教師に教えてもらうしかない。


『上級』魔法からは、一つでも使えれば上流魔導師の仲間入り。『秘伝』と呼ばれるその術式は、その殆どが国家の管理下にあるか、魔導師や貴族の上の方の人達の一子相伝の技術になっている。


『特級』魔法は、『秘伝』の中でも特に素晴らしい力を持つもの。あってないような区分で、「うちの『秘伝』は『特級』の魔法だぞ!」と威張るためにあるようなものだそうだ。


そして、更にその上にあるのが、『禁術』って訳だ。


『禁術』は、使えるかどうかはさておいて、使った場合に甚大な被害が出るものを指す。『特級』までは、使っても精々、城一つを落とせる程度なのだが、『禁術』は街一つとかそういう大規模な破壊をもたらすものらしい。


その名の通り禁じられていて、術式は国家の中枢に封印されているとか。


また、禁術の保有数は、国家同士の抑止力として働くので、強い国家は大抵禁術を持っているらしい。


うちのこの国、ビルトリア王国が持つ禁術が、巨大隕石を落として街を吹っ飛ばす『メテオスウォーム』というものなんだとか。


他にもいくつかあるらしいが、見せ札としてはこれが一番有名だそうだ。


それを聞いて……。


「……いや、しょぼくねーか?」


と俺は思わずツッコんでしまった。


いやだってさ、この応用性抜群の魔法というシステムをしっかり扱えば、世界なんて速攻で滅ぼせるじゃん。


街一つ吹っ飛ばす程度で『禁術!!!』って……。


そんなん言ったら俺なんかいますぐこの星を……、大陸を割れるぞ?そんで世界を滅ぼせる。


と、俺がそう言ったら……。


「じょ、冗談です、よね?」


と、先生が顔を真っ青にしていた。


「いやマジだって。単純に、マントルからマグマを引っ張りながらプレートをズラしたら良いだけじゃん」


「す、するとどうなるんですか?」


「うーん、火山の噴火って見たことある?」


「ないですけど、意味は分かります……」


「あれが大陸中で起きて、マグマ……、あー、泥のような炎?がその辺を焼き尽くして、海が焼けて、後は永遠に雨が降るだけの世界になるんじゃない?」


「勘弁してくださいよぉ……」


そんなん言われてもできるもんはできるんだししゃーないでしょ。


「まあ、そんな非効率なことしなくても、疫病を魔法で作ってばら撒いた方が楽かもな。あとは原子核を崩壊させたり、重力歪めたり、反物質ばらまいたり」


「勘弁してくださいよぉーーーっ!!!」


いやそんなん言われましても。




だがまあ、為になる知識はいくらでもあるものだ。


都会の物価、貴族の人間関係、芸術の流行……。


聞くことはいくらでもある。


更にこの先生、貴重な本もくれるとまでは言わないが、取り寄せて貸してくれるとのこと。


非常に助かるね。


そんな感じで、十歳になるまで、じっくり話を聞いた。


あと、飯と風呂の面倒は俺が見てやった。


流石に、実家の黒パンと豆のスープを食わせるのは忍びないってかこう……、ね?


まあ、三食食事と風呂は、家庭教師の代金ということで……。


どうやら親父、「困ったら寄親が何とかしてくれる」みたいな不透明な計画性で家庭教師を呼び寄せちゃったらしく、報酬とか何も用意してないっぽいのよね。


いやまあ、建前上は、才能ある子息を持つ寄子の家に、家庭教師を派遣するのは、寄親がやるべきことではあるんだよ。人脈形成的にね?


でも、実際のところは、家庭教師に対して心付けくらいは用意しておくのが礼儀ってもんなんだよね。


うーん……。


思った以上に、親父はカスだな。


盗賊騒ぎの時に、早朝にもかかわらずいち早く武装して飛び出していき、配下にも指示を出していたその武の方面は、田舎騎士にしては確かに上等だろう。


だが、それ以外の部分が酷い。


それもまた、壊滅的な酷さなら、それを理由に地位を失うんだろうが、そこまでではないんだよね。


実際、先生がうちに初めて来た日の晩餐には、焼いたウサギの肉が出ていたから、全く配慮しなかった訳ではないと窺えはする。歓待のつもりだったのだろう。


ただ、肝心のその配慮が全く足りていないが。


うーん……。


思ったんだが、この親父。


この無能さ加減からして、一つボタンをかけ間違えば終わってたよな。


終わられたら終わられたで、面倒なことになりそうなんだが、それはいいとして。


俺はこれから、十二歳になったら、学園で魔導師として名を上げて、なんとかして金を稼いで、派閥を作って魔導師の傭兵?テック?集団のようなものを作ろうと思っている。


この世界で生きてきた感想だが、「やはり暴力!暴力は全てを解決する!」ってことだけなんだよね。


だから、世界最高の暴力と技術を持つ組織を作って、それで何者にも縛られることなく暮らそうと言う魂胆だ。


だが……、もしこの親父が、なんか致命的な失敗をしたら?


そうしたら、確実に俺を頼るはずだ。


だって、その頃には、俺の名も国に知れ渡ってるだろうしね。大きく動くつもりだし。


そうなってきた時、俺の知らないところで、俺の名を勝手に使ったりするかもしれない。


それで面倒ごとになったらと思うと……、ヤベェ、寒気がしてきやがったぜ!


そんな訳で……。


「対策として、君達を厳しく鍛え上げることとした」


「「は、はいっ!」」


弟、シリウス、八歳。


妹、セシリー、七歳。


この二人をビシバシ鍛える。


既にこの歳にして、小学校レベルの数学と文法を叩き込んであり、そこに更に工作や自然科学も詰め込んである。


あとは、この世界にないか、もしくは未発達な産業を先生から聞き出して、色々とテコ入れする。


最近は今までの気候などから、シミュレータを作ったのもあり、現実世界で試さなくてもどうなるかをある程度予想できるのもあるので、その結果を元に様々な工業製品も作っていく。


それと、魔法で世界を飛び回って色々な植物や家畜を集める。


あ、因みに、北の方にあったちょっとした島に行ったところ、ワイバーン的なのに襲われたから返り討ちにしたぞ。


解体したら、なんか心臓からデカい緋色の石が出てきて笑った。


綺麗なので多分価値はあるはずだし、先生に家庭教師のお礼として渡したところ、先生はぶったまげて倒れた。


なんでも、強いモンスターの体内のみにある『魔石』と言うものらしい。


ワイバーンからは大人の男の握り拳くらいの大きさのものが取れたのだが、これだけで金貨五百枚はいくそうだ。


金貨一枚は日本円に直すと十二万円くらいじゃないかな?


銀貨は一枚で一万円。


銅貨は一枚で二千五百円。


青銅貨は一枚で五百円。


ビタ銭だと価値が下がる感じで、結局はこの値からマイナス20%くらいは下がることがままあるそうだ。


まあでも、ワイバーンの魔石は、新品の金貨五百枚はする。


つまり、六千万円だな。


心付けにしてはかなり多い額を得られた先生は、ここにきてから一番いい笑顔で礼を言ってきた。


正直でよろしい。


え?ワイバーンとの戦い?


そんなん、『デリートマジック』で一発よ。


飛行中にいきなり頭が無くなったから、慣性に従って撃墜されただけ。


そのペシャンコ死体から魔石を引っ張り出したんだな。


折角なので、ワイバーンは何体か仕留めて、魔石は何個かストックしている。


ああ、魔石の使い道は、宝石以外には魔導具の材料や魔道師の杖の材料、大規模魔法の触媒などになるそうだ。

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