第16話 教師と書いて人身御供と読む
とりあえず、魔の森に連れて行き、周囲の半径百メートルほどを消し飛ばしてやったら、家庭教師の女は華麗な土下座をキメてきた。
「申し訳ありません、お力を見誤っておりました。何卒、命だけは……!」
うーん、音速の命乞い!
気持ちがいいぞぉ!
他人の命乞いを聞くのはこんなに気持ちいいものなのか。
しかも、薄汚い男の見るに耐えない訴えかけとかそう言うんじゃなくて、眉目麗しい美少女が、失禁しながら土下座するシーンは目に優しい。
俺はほら……、逃げる女を後ろから撃って笑えるタイプの人間だからなあ。
ああいや、もちろん、美女を殺したりはしないがね。
逆に言えば、殺さない程度に痛めつけたりするのは気持ちがいいので喜んでやるが。
「いやいや、頭を上げてくれよ、センセェよお。何もいきなりぶっ殺そうとは思ってねぇんだわ」
「は、はい……」
「たださあ、舐められてムカついちゃってさ?ちゃんとお利口にしてくれんなら、俺もキレねぇよ?」
「あ、ありがとうございます……」
「ま、センセェは、持っている知識を全部吐いてくれたらそれで良いから。余計なことをしたら……、分かるな?」
「ひいいっ!分かってます!何もしませんっ!」
完全に怯えているどころか、失禁までしている先生を立たせて、服を乾かしてやる。
「無詠唱……」
ボソリとなんか面白そうなことを呟いたのも忘れない。
さて、じゃあ……。
俺は笑顔の仮面を再装着して、と。
「ではマーガレット先生!僕に勉強を教えてください!これからよろしくお願いしますネっ!」
と言い放ってやった。
「は、ははは、はい……」
半泣きの先生から、一通りのことを学んだ。
うん、大まかな歴史とか国際関係は、俺の知るものと相違ない。ちょこちょこ調べてたものと大体一緒だ。
また、この世界の学問はどうやら、十一世紀ヨーロッパの『スコラ学』みたいなもんらしい。
即ち、聖書を中心に、聖書の実証と解釈から、世の中の真理を探ろうね!みたいなアレだ。
具体的には、文法、修辞学、弁証学、算術、天文学、幾何学。
そこに、芸術や魔法学、古代語学なども入るらしい。
因みに錬金術は賤しいカウント。
文法については完全に日本語なので、特に問題はない。
修辞学や弁証学……、この世界ではいわゆる、扇動術や演説術なのだが、これも特に問題はない。社会人は口がうまいのだ。
俺は育ちだけは良いからなマジで……、ガキの頃に英語での弁論コンテストとかに出てて助かった……。
天文学は……、まあ、そう言えば、星の並びは地球のそれと変わらないように思えるが、詳しい訳でもないので学びたい。
算術?幾何学?専門分野だよね。数学できないやつがどうやってプログラム組むの?
音楽や絵画……、まあ、手習程度にやってたけど。バイオリンとピアノなら弾けるけど、この世界にあるの?絵画もまあ、描けるといえば描けるけど、この世界の流行は知らんし。
古代語学……、これ英語なんだよなあ。何でなんだろうか?まあ、読める。
魔法学は、俺独自の分析結果によりM言語を作り出したが、普通の魔法使いがどんな感じなのか知らんから学びたい。
……俺はすっかり、この世界のダメな部分ばかり見てしまい、辟易していたが、だからと言ってこの世界に学ぶべきところが皆無である訳ではないのだ。
俺は確かに、人よりも多くのことを知っているが、全てのことを知っている神ではないからな。
この、若き魔導師先生からも、学べることは山ほどあるはずだ……。
半年後。
ごめん、前言撤回だ。
学べることは殆どなかった。
数学や自然科学の分野においては、俺の方が上回っているのは仕方ない。
俺は、ここより遥かに文明化された世界である、地球という世界にいた人間だからな。
知識の巨人の肩の上に乗る俺が、この世界の迷信だらけの科学観を上回るのは当然だった。
何せ、モンスターだの魔法だのと、トンデモな要素があれども、基本的な物理法則は地球と同じだからだ。
水は摂氏百度で沸騰し、零度で凍結する。
重力加速度は9.80665 m / s^2で、万有引力の法則も、相対性理論も成り立つ。
我々の肉体にはデオキシリボ核酸の二重螺旋で仕様書を書かれているし、生物の習性も概ねは同じ。
故に、この世界の人々に自然科学を習うべきことは特になかった。
精々、どのような考え方をするのか?という、この世界の人々の一般的な思考力と、何が異端に当たるのかの常識的思考に関する知見を得られたのみ。新たな事実はない。
学ぶべきだと息巻いた天文学も、趣味程度に読んでいた地球の天文学についての読本以上の知見はないようで。
それもそのはず、この世界の主流は天動説。更に言えば、観測のための望遠鏡なども特になく、魔法によって高精度な遠視ができる俺の方が星々に詳しいくらいだった。
天測による遠洋航海とかもやってるのかと思えば、クロノメーター(精密時計)が未開発だったりで、船は浅瀬でちゃぷちゃぷしているのみらしい。
マジ?新大陸も見つけてないの?
……まあ戦争ごっこに忙しくて、重商主義からの植民地を求めて開拓開拓!なんて遠い未来の話か。
音楽や絵画に関しては、少しでもできればかなり尊ばれるらしい。
楽譜とか、小さなテクニックとかもないからな。
職人芸みたいな、「見て盗め!」スタイル故に、平均レベルがクソみたいに低いのだ。
試しに、魔法で創造したバイオリンでトルコ行進曲を弾いたところ、それで食っていけると太鼓判を押されてしまった。結構音外してたと思うんだけどな……、良いのかな……?
そして、最悪なのは魔法だ。
どうやら、詠唱は『神への祈り』らしく、内容の精査はされていないらしい。
つまり、この世界の魔法使い達は、自分達が唱えている呪文の意味が、殆ど分かっていないのだ。
ただ、簡単な魔法の詠唱文は本に書かれたりしてそこそこ知れ渡っているのは確かで、詠唱文の研究をしている魔導師も少しはいるそうだが……。
教会の方が、「神の与えたもうた神秘の力たる魔法を解析しようなどと不敬だ!」などという派閥がいたり……。
そもそも上級以上とされている魔法は、基本的に『秘術』などと指定されて、一子相伝にされていたりして、解析はまるで進まないらしい。
あと、ついでに知ったのだが、魔法使いには『属性』とか言うのがあるらしくて、一人一つの属性しか使えないとか。
属性は、火水風土の四大元素とか。
うーん、頭が痛くなってきたぞ。
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