第15話 家庭教師
盗賊退治から半年が過ぎた。
その後は、親父も、剣術よりも魔法の訓練をしろ、後ついでにエイダに求婚しろと俺を放置した。
なので、毎日エイダと会っている。
エイダは、態度を豹変させた周りの人間を怖がり、最近は、前にも増して俺について回るようになった。
彼女は、年齢の割に聡い子ではあるのだが……。
利益になるのであれば、普段散々こき下ろしていた相手に媚びる薄汚い「人間」という生き物が、相当に悍ましく思えてしまったらしい。
あれからと言うものの、村人どころか家族と顔を合わせるのすら嫌がる始末だ。
その態度の豹変、手のひら返しを理解できるくらいには頭が回るが、精神面はそれに追いついていない。
頭では理解しても、心の中は人間に対する嫌悪感でいっぱいになってしまっているみたいだ。
よって俺は、いつの間にか増えている弟や妹をあしらいつつ、魔法の開発に時間をかけていた。
え?エイダのケア?
知らんよそんなん。
人間が汚い生き物なんだ!なんてことは周知の事実だろ?
その辺の折り合いをどうつけていくかは、エイダ個人の問題だからな。
まあ、人間の醜さに辟易して、アクシズを地球に落とす!とか言い始めたら注意というか助言でもしてやろうとは思うが、今のところは問題ないんじゃないの?
で、だ。
最近はやっと、『ジェネレートマジック』のアプリを使いこなせるようになってきたんだよ。
ジェネレートマジックというのは、俺が作ったアプリで、その実態はほぼ3DCADだ。
多分、機械系の人は大抵お世話になったことがあるんじゃないかな?
要するに、パソコン上で3DCGの設計図を書いて、それを創り出すような魔法アプリだ。
……だが、工業製品っぽいものの生成は上手くいくが、次は『生命の創造』に挑戦したいのだ。
その為には、『ジェネレートマジック』は、少しお堅いと言うか……、あまり向いてない。
生体の創造を可能とするアプリケーションの作成が今後の課題だな。
ジェネレートマジックはCADのパクリだから割と簡単に作れたが、生命をデザインして創造するプログラムなんて、作るのは初めてだ。
作業に何年かはかかるだろうな。
それと並行して別のプロジェクトも同時に進行する。
そう……、アレだ。
時間旅行。
いや、そう言うお伽噺的な話ではない。ガルウィングのアメ車とかそういうのでもない。
ただ、もしも、『過去へ戻って邪魔者を幼いうちに殺す』とかを魔法でできるやつがいたらどうしよう?と思ってだな。
誰だって、過去に殺人サイボーグを派遣されて、生まれる前の自分を殺されたら困るだろ?
うちのお袋はマシンガン振り回して暴れる女傑じゃあないからな。
冗談はさておき、様々な難点はあれど、技術的なブレイクスルーがいくらか起きれば、時間旅行の魔法は理論上は存在しうる……、と俺は見ている。
なので、『時間超越攻撃に対する防護策』も、数年がかりのプロジェクトとして進めていきたい。
それと後はこれよ。
『不老不死の実現』……。
前の世界で、「さあここからだ!」と言うところで死んだのを結構引き摺ってるんだよね。
だから、長生きがしたい。
これも、数年研究すれば実現しそうなんだよね。
しかもこれは、一部実験に成功しているから、割と早く実現しそうでもある。
……実験?
もちろん、愛するモルモットであるエイダちゃんがやってくれたぞ!
失敗したら脳が破壊される実験と、失敗したら肉体が朽ちる実験だったが、どちらもクリアしてくれた。
……なんか、俺が外道のように見えるな。
いや、事実その通りなんだけどね。
だが俺はあらかじめ、動物実験や、充分な理論の検証を行なった末に、最後の最後、どうしても足りないピースを埋める為に人体実験をしているんだ。
いきなり、三割の確率で死にます!みたいな意味のわからんことはやらせてないよ。
100%ダイジョーブです!とは言わんが(むしろその方が怪しいよなあ)、ワクチンのアナフィキラシーショックくらいの確率まで、危険性は下げていると言う自負がある。
それに、もし問題が起きたとしたら、それをどうにかできるのは俺しかいないんだから、エイダにモルモットになってもらうしかあるまいよ。
重ねて言うが、俺はエイダのことが好きだぞ?
まだ精通してないので、性欲はよく分からないのだが、女性的にも人格的にも好ましい。
第一、この世界の普通の人間は、知識量の差と考え方の違いからか、なんとなく好きになれないのだ。
俺がガキの頃から色々地球の学問を教え込んでいるエイダは、この世界の人の中では価値観が俺に近い。
可能な限りは守ってやるつもりでもいる。
それはそれとして実験はまだまだ継続するが。
それからもう少しの時が過ぎ、九歳になった。
誕生日制ではなく、年が明けると年齢が一つ加算される形式だから、八歳でも九歳になったことになる。
その、春が始まる少し前。
いきなり、親父が家庭教師なるものを連れてきた。
我が家、レイヴァン騎士爵家の寄親の、カーレンハイト辺境伯家から、魔導師が派遣されてきたのだ。
そいつは、ほんの十五歳ほどの少女で、マーガレット・ガードナーと名乗った。
少女と言っても、このクソ田舎の女達と比べると遥かに垢抜けているし、確かな学を積んだような知性ある態度をしている。
栗毛を長く伸ばした小柄な美少女で、目がぱっちりと見開いた元気な人だ。
「お初にお目にかかります、レイヴァン騎士爵様。わたくしは、カーレンハイト辺境伯家の直臣を代々務めております、ガードナー家の次女、マーガレットと申します」
「あ、ああ!」
「先日、辺境伯様は、レイヴァン騎士爵様のお手紙を拝見なさり、大変に驚かれていらっしゃいました。こちらが、盗賊退治を成した魔導師の嫡男殿でございますか?」
「ん、そ、そうだ!俺の息子は魔導師なんだ!」
「なるほど……。では、嫡男殿に魔導師としての教育を、とのことですので、わたくしが騎士爵様の領地にしばらく滞在することになります。ご許可は頂けますか?」
「うむ!良いだろう!」
「ありがとうございます。では、嫡男殿の方をお借りしますね」
「うむ!よろしく頼んだぞ!」
うーん、流石親父。
直臣……、つまり、直属の部下みたいなもんなんだけど、辺境伯の直臣にタメ口とは。
社長秘書にタメ口する係長みたいなもんだな。
普通に最悪だ。
学がないってやーね。
はあ、家庭教師ねえ……。
そんなん要らないんだけどなあ。
余計なお節介だわ。
……ん?
いやでも、世の中の魔法使いがどんなレベルなのかを知るには良い機会かな?
俺の予想では、隕石落としたり、地割れに巻き込んだり、人体の内部で圧縮空気を生み出して爆散させたりするくらいのやつはいるとは思っている。
なので、それらに対する対策もバッチリだ。
よしよし、ちょうどいいな。
話を聞いてやろう。
「お初にお目にかかります、レイヴァン騎士爵嫡男のエグザスです。何分、ここいらは鄙でありますから、ガードナー家については存じ上げないのですが……、先の慇懃な挨拶から察するところ、聡明なお方であると確信しました。浅学非才の身でありますが、何卒良しなにお願いします」
仮面の笑顔、アーンド、丁寧な態度ー。
まっ、適当に煽て、情報を搾り取ったらポイって感じでいいかなー。
「……なるほど、口は達者のようですね」
ん?
「結構いるんですよ。たまたま魔法が少し使えた程度で親が騒ぎ立てるけれど、その実、大した魔法使いではない、なんて子供が」
あっ、ふーん。
予定変更だわ。
凹ましてやる、クソガキ。
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