第14話 盗賊団壊滅後

「まっ、魔導師だああっ?!!」


「にっ、逃げろおおおおっ!!!」


「うわああああっ!!!」


『ポップ 《プラズマシューター》 アウトプット フロント!!!』


あーあーあー。


プラズマシューターは対人で使って良いような魔法じゃねえんだがなあ……。


その名の通り、超高温のプラズマで攻撃する魔法だ。


うん、おかしいよね。


プラズマなら、空気中だとエネルギーを放出してしまうのでは?と、当然思うはずだ。


俺も思った。


だがこれは、プラズマ化した気体を放出する魔法じゃなくって、『指定した空域をプラズマで満たす』魔法なんだよね。


だから、使うと、見た感じでは『エイダが指差した方向から三十メートルほど光線が出る』ように見える。


実際は、『指先から太さ半径十センチ、長さ十メートルほどのプラズマが発生する』みたいな魔法なんだよ。


おっと、俺も戦わなきゃな。


え?人殺しの罪悪感?


そんなんないよ。


アメリカでは護身用に銃を持ち歩いていたし、銃乱射をする奴に対して反撃で発砲した経験もある。


殺しにきた奴を殺し返して何が悪いんだ?


そんな訳で始末始末っと。


『ポップ 《ファイアアロー》 アウトプット フロント』


火の矢で、盗賊達を火だるまにしていく。


「か、敵わねえ!」


「うわあああっ!」


「助けてくれぇ!」


はい、始末始末。




いーーーやーーー。


やったのは俺ですよ?


俺がやったんです。


俺が盗賊団を潰したんです。


けどめんどくせぇ……!!!


まだちょっと俺……、魔導師の価値を舐めてたかもしれんね。


まず親。


親は、人殺しをしてしまった俺のケアとか以前に、まず褒めてきた。


いや、それは良いよ?中世じみた世界観なんだもん、命の値段が安いことは身に染みている。


でもさあ……、普段大して褒めないくせに、魔導師と分かった瞬間にここぞとばかりに褒めるのはどうなの?


お袋は良いよ?


あの人は、控えめで自己主張をしない人だから。


そう躾けられてきたんだろうね。男尊女卑の風潮がやべーもん、「女が出しゃばるな!」と育てられたんだろう。


俺としては、時として、嫌われるような行為であっても相手のためにするのが本当の善人だと思うのだが。


実際の話、お袋はこの領地の詰んでる感とか理解している節がある。


……なのに、なんも言わないんだよねこの人。


そう躾けられた以上に、本人が臆病なのだろう。


まあ、だから、お袋はどうでも良いよ。


普通に褒められただけだ。


だがムカつくのはこのクソ親父ですよ。


散々俺の時間を奪い続けたコイツ!


いや、分かってるよ?良かれと思って!ってのは。


でも本人の為にならないお節介は嫌がらせと同義なんじゃボケナスが。


で、この親父。


普段は俺を全然褒めんのだ。


歳の割に良い子にしてやってる俺も、弟達も褒めん。


なんかそれが硬派でいい事だと思ってるっぽいんだけど、人材育成という面から見ればクソ同然なんですね。


それが今回は、いきなり、「お前は俺の誇りだ!」とか言い始めた。ぶっちゃけキモい。


更に言えば、エイダと会っていることも気に食わないらしく、常々、「お前の嫁はもっと良いのを見繕ってやる」とか言ってたのに……。


今度はいきなり、手のひら返して、「エイダを嫁にしろ!」と命令してくる始末。


マジでクソだなこいつ。


いや、貴族としては何一つとして間違ったことはしてないけどさ。


いやそうでしょ、貴族は、この国の宗教である『聖教』の教えに従うのが基本で、その教えの内容に「清貧であれ」だの「謙虚であれ」だのとあるからね。


だからそれに従って、身内を過剰に持ち上げないのはマナーみたいなもんだ。


それに、結婚相手は親が選ぶのが当然だし、貴族の結婚は、血族のネットワーク形成のためにあると言っても過言じゃない。


で、能力が遺伝する魔導師は、積極的に血族に取り込むのは当たり前の価値観だ。


更に言えば、子供の結婚相手を親が決めるのも当然。


腐っても貴族だからな、貴族同士での婚姻はもちろんだし……、うちのように力のない貴族なら、平民の中で力ある存在を家に取り入れるのは何もおかしくない思考だ。


……あ、ついでに言っておくが、農民も同じだぞ。農民も、他の有力な家に人身御供が如く娘を送り込んだりとか普通にやる。


婚姻は家と家との繋ぎ合いだからな。恋愛なんてもんは基本的にこの世界に存在しないと言っても過言ではないだろう。


まあ、存在しないからこそ、フィクションとして尊ばれるんだけどな。


恋愛小説が貴族のご婦人方に大ウケなさっているのも納得できるよなあ?何せ、彼女達の殆どは、家の都合で好きでもない男に嫁がされているんだから。恋愛に憧れるのは当然だ。


で……、そう。


親父の考え方は、この世界では間違ってない。


だが、俺は嫌だと言っている。


郷に入っては郷に従え、などという言葉があるが、程度の問題ってのがあるだろう?


じゃあお前はガチホモのおっさんに毎日ケツを掘られるのが当たり前の世界に生まれ変わったら、テメェのケツの穴をおっ広げるのか?と俺は問いたい。


世界がどうとかじゃなく、俺の価値観ではこの親はカスで見捨てたいって言ってるんだよ。


そして、村の連中も酷いもんだ。


普段は、余所者の領主のガキとして侮っていた癖に、魔導師だと分かった瞬間手のひら返し。


ムカつくぜ〜。


もちろん、エイダもその被害を受けているそうだ。


普段エイダは、パン屋のガキとして、領主の手下だと散々下に見られてきた。


それに、普段から変わり者で乱暴者と噂される俺について回っているんで、かなり差別的な視線を向けられていたらしい。


嫁の行き先がないんじゃないかと、エイダの親は泣いていたくらいだそうだ。


それが今はどうだ?


村中の男が求婚してきやがる。


いかに農民が早婚だとは言え、嫁入りするのは十二、三歳くらい頃からだ。


なのに、村の未婚の男達は全員、是非嫁に欲しいと八歳児のエイダに迫ってきやがるそうだ。


あの、例の俺が昔ボコった村長のガキも、どの面を下げてやってんのか分からんのだが、エイダに求婚してきているらしい。


要するにアレだよ、宝くじに高額当選しちゃった感じになってる。


もうマジで気分悪いよね。

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