第8話 ムラ社会
六歳になった。
アプリケーションはいくつか開発できたが、実戦経験が足りないので、最近は魔の森の奥で戦っている。
……とは言え、開発した魔法が強過ぎて鎧袖一触なんだよなあ。
醜い小人である『ゴブリン』や、邪悪な蛮族『オーク』などが浅い領域では出ていたが、どれもカス同然。
うちの親父くらいの、「ちょっと腕に覚えがある剣士」くらいでもある程度は対処可能な存在ばかりだった。
やはり魔法が強過ぎるな……。
俺の素の身体能力では、ゴブリン一体も倒せないだろう。
ところが、魔法をちょっと使えれば、村の中では「出会ったら終わり」的ななんかホラー漫画とかに出てきそうな怪異みたいな扱いをされている『オーガ』とか『オウルベア』とかを一瞬で殺せるんだから。
他人に感謝!感謝の気持ち!みたいな、やっすいラーメン屋の便所に書いてある標語のような精神は持ち合わせていないのだが、魔法の存在には本当に感謝しているよ。
……魔法が急に使えなくなっても良いように、人体改造もしておきたいな。
原始人のように剣だのなんだのの棒振りで戦うような真似はしたくないが、魔法がなきゃそれしかない。
俺は知的労働者だからなあ、できればそんなことはしたくないのだが。
まあエイダにやった人体実験でデータは得られているから、俺にも安全そうな改造は少しずつ施している。
……もしかしたら。
俺が知らないだけで、都会では凄い魔法がバンバン使われているかもしれない。
魔法を封じる魔法とか、あるかもしれない。
油断は駄目だな、油断は。
そう、それと、行商人との取引なんてのも始めた。買い物の練習だ。
馬鹿にするなよ?『定価』と言うものが存在しないこの世界では、値下げの為に交渉するのは必須だ。
市場調査の意味も込めて、行商人にウサギやリスの皮だったりを売り始めた……。
ぶっちゃけ、その気になればレアアースとか、砂糖とか、いくらでも売れそうなもんは思い浮かぶが、それをやったら面倒ごと一直線だ。
いずれはやる。
だが、まだやらない。
まだその時ではない。
さて……、六歳。
五百人程度の村落だが、基本的に、大人と老人の数と子供の数はトントンくらいだ。
この世界の子供は、大人になるまでに半分以上は死ぬ。
その理由は、不衛生で貧しい環境からくる病気や餓死だったり、モンスターや野盗などが湧いて出るが故にであったり、酷いところだと宗教儀式の生贄にされたり……。
とにかく、死が身近なんだよ。
それと純粋に成人年齢が低いというか、十二歳くらいにはもう一人の人間と見做されて働く必要がある。子供だから〜の範囲がクソ狭いのだ。
そんな訳で、村人の三分の一は子供だ。
昨今の少子高齢化が叫ばれる日本では考えられんなマジで。
で、六歳。
六歳……、六歳ともなってくると、自我は明確だろう。
小学一年生だぜ?今時の小学生達は、親より達者にスマートフォンを使いこなしているだろう?つまりは、賢いんだよ。
そんな中、四歳の頃から森の中を歩く体力と、明瞭な会話ができる知性を兼ね備えるエイダは、恐らくは天才……。
それも、頭に『不世出の』だとか『百年に一人の』とかの枕詞が付くほどの。
だが、そろそろ、周りの子供達もそれに追いついてきた。
少し前までは、立って歩く赤ん坊くらいのものだったのが、芽生えた自我で思い思いに行動をし始めたのである。
するとどうなるか?
「おまえら、いつも二人で、なにやってんだ?!」
「おんななんかといっしょとか!」
「村の子どもは、みんなおれの子分にするんだ!おまえらも来い!いうこと聞かないと、なぐるぞ!」
こんなのが湧いて出る。
滲み出ている感情は、子供らしい「仲間外れを叩こう!」くらいのものならまだ良いのだが、そこに「男尊女卑」と「ムラ社会の格差」が追加されているのがキツイね。
男尊女卑はまあ、こういう世界なら仕方ない。
魔導師なら女でも高い立場になれるそうだが、基本的には女は格下、卑しいもの、穢れみたいな思想がある。
あ、そういうのが好きな人には申し訳ないが、女は卑しいが男同士ならOK!とかそんなんではないし、むしろ男色や獣姦は重罪だぞ!宗教ってやつだな!
まあ、村の教会で読ませてもらった聖書の記述を見るには、「女は卑しい!(なので、弱い女を保護してあげましょう)」「女は穢れている!(経血などは感染症の源泉となりますよ)」みたいな感じだったが。
恐らく、聖書の解釈とかそういう話になるんで、その辺はまあどうでも……。
そしてこれだよ、ムラ社会!
んもー、最悪だね!
どういうことか?
簡単に言えば職業差別だ。
例えば、エイダは食料供給先のパン屋であるが故に、カーストは上の方。しかし、パン屋は、パンを焼く時にその金を領主に納めるので、領主の部下みたいな扱いで微妙な立場。
で、この絡んできたガキ共は、親が代々続く自由農民の富農や鍛冶屋、村長など。つまり、上のランクな訳。
そして笑えるのが、うちの家……、レイヴァン騎士爵家は先代が成り上がって騎士になった『余所者』なのよ。
余所者領主はまあ……、うん、目の敵ってほどでもないが、良い顔はされないよね!
そんな訳で、このクソガキ共は上から目線なのよ。
うーん、殺すか?
いや、流石に拙いよなあ。
目撃者も多いし。
ぶっちゃけもう一人で生活できる自信はあるが、六歳児で野に放たれるのはなあ。
確か、王都にある学園には十二歳で入学できるらしいし、それまではこの村で大人しくしておきたい……。
結果、無視が一番。
俺は、立ち塞がるガキ共を避けて家に帰ろうとする。
「おい!まてよ!」
面倒だな……。
掴みかかってくるのを避ける。
まあ、所詮はただのガキ。
転んで泥だらけになる。
「おまえっ!!!」
一際身体の大きい、村長のガキだと名乗ったやつが、握り拳を固めて殴りかかってきた。
やってらんねーわ、逃げよ。
「エイダ、『身体強化』を使って良いぞ」
「う、うん」
走って逃げた。
こんなクソ田舎の無価値な領地を継ぐ気は一ミクロンもないと何度も言っているが、更に継ぐ気を削いでくれる素晴らしい出来事だったな。
子供だから絵面はまだマシだが、これ、要するに、チンピラが「従わないと潰すぞ!」と押しかけてきたようなもんだからね?
子供だから許されてる感あるけど、普通に恐喝だからねアレ。
いくら有能な人材だとしても、根拠のないカースト思想から来る差別意識を持って他者を隷属させようとしてくる存在とは付き合えないよね。
拾ってやる必要なし。
そもそも、領地は出ていくので、領内の人間との人間関係形成の必要性もまたなし。
結論。
これからも、エイダに適当な魔法を仕込みつつ、アプリ開発と、成長のための飲食に注力する。
そうして俺は、秘密基地にてエイダと魔法訓練に時間を費やし、村のガキ共に構うことはなくなっていった……。
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