第9話 他人をやり込めるのは最高の快楽

夏のある日のことである。


俺とエイダは、この村の次代を担うとされている子供同士の付き合いを無視して、森の中の秘密基地に篭っていた。


だが、今日は何か秘密基地の様子がおかしい。


「……なるほど」


荒らされているのだ。


木の上の天幕が破られていることを察するに、獣やモンスターの仕業ではない。


獣やモンスターに荒らされたことは何度かあるが、そういった自然の生き物には悪意はないからな。


こんな壊し方や汚し方はしないのだ。


まあ、魔法で一瞬で直せるが……、傍で大泣きするエイダを見て、良い大義名分になると思った俺は、即座に行動を開始する。




村長のガキだとか言うのの溜まり場に来た。


ガキ共は、ニヤついていた。


「やったのはお前らだな?」


「へへへ!そうだよ!おまえらのあそび場をこわしてやった!」


「なるほど」


俺は、村長のガキの丸い腹に蹴りを入れた。


「〜〜〜ッッッ?!!!お、オゲえええっ!!!」


蹲って大量に嘔吐するガキの頭を踏み締めて、吐瀉物を顔面に擦り付けてやる。


取り巻きのガキ共は、ビビって声も出せない。


「謝れ」


俺は、ガキの頭を踏み締めた。


「謝れ」


踏む。


「謝れ」


踏む。


「やべでぇええ!!!ごめんなじゃぃいぃ!!!」


謝った。


「誠意が足りない。謝れ」


踏む。


「ぎぃいいっ?!!!あやばっだでじょおぉお!!!」


「謝れ」


踏む。


「謝れ」


踏む。


「謝れ」


踏む。


「ごめっ、ごめんなじゃい!ごべんなじゃい!ごべんなじゃい!!!」


泥まみれのガキは必死に謝るが……。


「誠意が足りない」




とりあえず、ガキが言葉を喋れなくなるまで暴行した俺は、周りのガキ共も半殺しにして土下座させて帰った。


弱い奴を鍛え上げた能力で捻り潰すのは最高の快楽だなあ。


気持ち良くなってしまったぞ。


で、帰宅。


そして……。


「エグザスッ!!!」


当然のように怒られた。


普通に殴られる。


うわ、体罰じゃん。


ですがこの世界では普通なんですね。


子供は叩いて教える、家畜も叩いて躾ける。これがこの世界の基本らしいんですよ。


そして、できなかったり、自分に気に食わないことがあると怒鳴り散らすのも当たり前。


俺が生きた現代の地球では、どちらも違法だし、科学的に非効率であることも証明されていた。


怒鳴られると、怒鳴られた人間は萎縮して能力を発揮できなくなるし、同じチームのメンバーも能力が下がる。


体罰なんて以ての外だ。


やれやれ、非論理的で困るね。


まあでも、これでもマシな方なんだそうだが。


奴隷の子供とか俺と同い年なのに働かされてるらしいよ。


うちの村にも農奴はいるが、ガチで牛馬と同じ扱いだからな。


六歳くらいの子供が、乗馬用の鞭でバチバチに引っ叩かれて働かされてた。


だから、こうして育てられてる分有情なんじゃね?


でも俺は、地球で素晴らしい両親にジャブジャブ金使ってもらってたからな。


やっぱり、この世界の親に感謝はできねえなあ。


悲しいね。


っと、『お説教』の始まりだ。


姿勢を正して聞いて差し上げよう。


「お前、村長のところの子供を殴ったそうだな!」


「ええ、そうですね」


こっそりと、俺を殴った手をさすりながら怒鳴りつけた父親。


俺は殴られようといつも通りの魔力でノーダメだが、一般人に過ぎない父親は、ラバーを巻かれた鉄の塊を殴ったような感触だっただろう。


そもそも、魔力が高過ぎて、素の身体能力が結構高いぞ。


意識して魔法を使わなくても、身体に漲る自然な魔力放射だけで、この父親を片手で捻り潰せるくらいの力を得てしまっている。


面白いね。


「俺は……、騎士として恥ずかしい!息子が騎士道の精神に反するとは!いきなり人を殴るなんて、まるで物狂いだぞ?!」


ほーーーん?


なんかそう言うことになってるんだ。


へー、なるほどー。


「分かりました!では次からは父上の言う騎士道の通りに、泣いている女性には手を差し伸べず、領地を荒らされても笑顔で見逃しますね!」


と、いつもの笑顔で伝えてやる。


「………………何?」


「素晴らしいです、父上!父上の騎士道は、貧者に分け与えることの大切さを表しているのですね!聖書の通りに、自らの身を削ってでも他者に施そうだなんて……!正に聖者ですネッ!!!」


いっっっやぁ〜〜〜!


他人に嫌味言うの、きんもちいいわぁーーー!!!


ビジネスマン時代はできなかったからね。いや、社内規定とかそれ以前に人として。


この世界では、地球ではやりたかったが人道に反してできなかったことをやっちゃおうと思う。


その方が気持ちいいからな!


他人を痛めつけたり、やり込めたりして見下すのは、最高のエクスタシーだぜ!


「ど、どういう……、ことだ?」


「え……?ですから、自分の土地を……」


とぼけてやろーっと!


「自分の土地とは?何のことだ?」


「ええ?それは、僕とエイダの秘密基地です」


「秘密基地?秘密基地がどうしたんだ?」


「はい!四歳の頃から二人で作っていた秘密基地が、ボロボロに荒らされていたんです!」


「……村長のところの子供が荒らしたのか?」


「はい!問い質したところ、お前の遊び場を壊してやったと自慢げでしたよ!遊び友達のエイダという女の子は、荒らされた秘密基地を見て大泣きしていました!」


胸を張ってそう言ってやった。


いやー、気持ちいい……。


癖になりそうだ……。


「お前は……、女の為に戦いに行ったのか?」


「はい!ですが、父上はそれが悪いことだと仰るようですので、これからは泣いている女を明け渡して、領地も他人にあげることにします!それが父上の正義なんですよネッ!!!」


「もういい!……俺が悪かった。殴ってすまない、エグザス」


はい勝ちーーー!!!!




その後、親父は事実確認の為、村長のガキを問い質したところ……。


「だ、だって!だって!そいつがおれの子分にならないのがおかしいんだ!父ちゃんもなんか言ってよ!いつも、『村にむかしからいるうちのほうが、よそ者のりょーしゅよりえらい!』って言ってただろ!!!」


と溢したそうだ。


オッ!おもしれー展開!


村長は、「子供の言うことだから!」みたいな感じで誤魔化したそうだが、親父は半ギレで「次はないぞ」と警告したらしい。


ぶっちゃけ、村長の家を切ろうにも、村の運営のノウハウがある家系はここしかないから、切るに切れないんですねぇ。


げに恨むべきは人材不足ってか?


ほらぁ、人民に教育を施しておかないからさー。


ってかこの世界、なんだか、教育をやる気がないよね。


なんかこう……、お貴族様は、人民が知恵をつけると反乱する!とか思ってる節がある。


あーもう駄目です、その考え方が駄目です。


いやー、全く。


悲しいね。


まあそんな感じで、村長の失言を、俺が村長のガキをボコったことで相殺された感じになったらしいね。


村長の失言を聞かなかったことにしてやるので、ガキによく言い聞かせておけよ!と。


良いんじゃないのそれで?


正味、どうでも良い……。


ガキを殴って謝らせたところと、親父を言い負かして謝らせたところで、俺は充分にエクスタシーを感じられたからね。


ほら……、セックスと同じだよ!


出した後って、なんか色々とどうでも良くなるじゃん?


もう充分気持ち良くなったから、後のことはどうでも良いんだよねー。

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