第7話 M言語

五歳になった。


この一年をかけて、この世界の魔法について「完全に理解した」ぞ。


本当はもっと長いんだけど、例えば……。


00010011


これで丸い火の玉が出るとするじゃん?


そうすると、


0001の部分が火であることを表して、0011が形を表している……、みたいな感じだった。


もちろん、何もないところに火だけが生まれることは科学的にあり得ないので、火の関数ならば可燃性のガスと火花を同時に出しているっぽいが、それは良いとしておこう。


で……、物質にはそれぞれ、固有の番号が割り振られており、それを入力するとそれを生み出せる……、みたいな感じっぽいね。


基本的に、情報量を増やすと、魔力の消費量が増えるってのもあるみたいだが……。


俺は、訓練の結果、信じられないほどの魔力量があるので、その辺は特に問題ない。


あと、現実には存在しないような金属を無理矢理作ったら、何故か崩壊せずに残ったパターンがある。


銀を改変して作った『青白い銀』、金を改変して作った『輝く金』、鉄を改変して作った『黒い鉄』などがある。


多分、ミスリルとかオリハルコンとかアダマンタイトとかなんかそういうのだと思う。


その辺の物質の研究はまたいつか。


とりあえず今は、最後の仕上げだ……。


『……ストア 《M言語》 プログラム ラン』


その瞬間、俺の眼前に半透明のウインドウが表示された。


《M言語 Hello World !》


「っっっできったあああっ!!!!」


苦節三年!


やっとここまで来たか!


完成したのは、魔法プログラムエディタの『M言語』……。


C++というプログラミング言語をモデルとした、オブジェクト指向魔法言語だ。


これからは、魔法を『アプリケーション』という形でモジュール(部品)化し、アプリケーションを起動するだけで誰もが簡単に様々な魔法が使えるようになる……。


このM言語は、アプリケーション開発のための基幹プログラム言語なのだ!


俺が使いやすいようにチューンアップとかは敢えてやっておらず、一般人でも使いこなせるようになっている。


よーし、アプリケーションを作っていくぞー!




「……あの、エグザスさま?」


あ、エイダを放置していたな。


危険な実験は大体終わったから、エイダをほっぽり出してM言語の制作にリソースを割り振っていたんだよな。


いやあ、凄いねこの子。


全身を炎の塊に変える魔法とか使わせたけど、無事に生き残ったんだもん。


どうやら、全身を炎に変えても、魔力がなくならない限りは肉体が崩壊しないようだ。


エイダには、短縮詠唱(マクロ魔法)までは教えてあるが、M言語は教えていない。


もし、エイダが、この村を捨ててまで俺についてくると言うなら惜しみなく教えるが。


知識を拡散したいのは確かだが、俺の優位性が崩れるのは嫌だからな。


知識を伝達する相手はよく吟味しなくては。


とにもかくにも、礼は言っておこうか。


システムの完成は、エイダの協力のお陰でもあるからな。


「ありがとう、エイダ」


「ふぇ?なんで?」


「いや、こっちがひと段落ついたからな」


「そうなの……?」


「そうだな」


「よかったね?」


「ああ」


思えば、俺の『秘密基地』も良い感じになってるな。


ここは、村から『魔の森』方面へ1.5kmほど歩いたところ。


住みよくするために多少手は加えているが、概ねは「子供でも作れる程度」に抑えている。


本当に見つかっては拙いような魔法の産物(鍋とか)は、更に500mほど離れた先にある木のうろに隠してある。


また別の場所には、魔法で地下室を作って、食料保管庫にしてある。


冬の飯は保存食ばかりで貧相でなあ……、この保管庫がなければおかしくなっていたかもしれない。


まあ、それももう不要なんだよね。


物質を魔力に戻して格納し、任意のタイミングで復元する『zip魔法』を作ったから。


今後はここに全部保管します。


で、秘密基地だが。


その辺の木枝を使って、木組細工にして組み立てた骨組みに、散々仕留めたウサギの革で小規模な天幕を張ったものだ。


革には、蜜蝋を塗ってある。


それと、倒木を加工した椅子と、石でできた薪台。


森に落ちていた……、ということになっている魔法で作ったナイフと、磨いた石の斧を、さも「これ使って工作しましたよ」みたいな感じで置いてある。


実際、魔法なしでできるかと言ったら微妙なところだな。ボーイスカウトも子供の頃やっていたけど、そんな記憶は遥か彼方だし。


まあ……、そんな感じで、作り上げた秘密基地で、魔法で作った美味いものを食いながら、魔法の練習をしているのだ。


この辺はあんまり雪とかも降らないし、エイダとはほぼ毎日会っていたぞ。


週に二回くらいは村を巡回して、大人達から情報収集をしているが、秘密基地がバレた様子はない。


ま、その辺は良いだろう。


「今日はお祝いだ」


「おいわい?」


「ああ、完成したからな」


「なにが……?」


「それは秘密だが……、とにかく完成したんだよ。だからお祝いだぞー」


「う、うん、わかった!」


俺は、『圧縮』していた小麦粉などを『解凍』する。


小麦粉は、小麦粒を農家から貰ってきて、それを魔法で解析し複製したものだ。


これを、牛乳で練って、メレンゲと混ぜて、フライパンで焼く。


焼き上がったスフレパンケーキに、蜂蜜とベリーのジャムをかけて食べる。


この世界じゃ上等なご馳走だ。


「わあい!ケーキだー!」


あ、因みに、甘い匂いでバレないように、エイダには歯磨きを徹底させているぞ。

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