第18話 オオカミの群れの討伐
へろへろになったカーラちゃんを見送り、傭兵組合へ報告に向かう。
受け取った報酬はなんと四銅貨。俺たちは二人でやったので、割ると二銅貨。組合提携の宿屋の大部屋一泊分にしかならない。
こんなふうに言いたくはないけど
人気がないのも頷ける依頼だ。他に目的がないなら俺も受けたいとは思わない。シードとスプラウトは兼業でやってる人が多いと説明されたが、これはつまり専業では生活できないってことだったか。
「あ、アルたちだ」
組合の酒場で昼間から一杯やりながらカーラちゃんに貸す銃を考えていたら、依頼を受けているアルたち四人の姿が見えた。
喉にエールを流し込み、お代を置いて四人に近付く。
「おっす、みんな。おはよう」
「あ、アキトさん。おはようございます」
険しい顔をしていた四人はみんな俺に振り返り、律儀に頭を下げて挨拶してくれた。
傭兵二日目の新米の俺が、年下とはいえ先輩相手にこんな態度取ってるのはおかしいかもと思わなくもない。
「なんかあったのか? 難しい顔してたみたいだけど」
「それがですね……牧場でオオカミが数頭目撃されていて、討伐依頼が出ているんですけど……」
「オオカミの討伐依頼……そういうのもあるんだな。それで?」
「戦いになれば問題はないと思うのだけど……探すことができないのよ」
困り眉を作ってオリアナさんがため息をこぼした。
隣にいるエマちゃんは充血した目を床に落としている。
そうか。イアンくんがいなくなってしまった影響がもう出ている、ということか。
イアンくんの役割はスカウトと言っていた。スカウトがなんなのかよくわかってないが、索敵系のポジションだったみたいだ。
「なら、ひとまずは俺が参加してもいいか?」
「アキト様、いいんですか?」
「『様』はいらないけど、いいよ。午後の予定が空いたところだったし」
「あら、アキトさんは朝から動いていたのかしら?」
「ああ。カーラちゃんと見回りの依頼から帰ってきてゆっくりしてたとこだっ……そういえばカーラちゃんが傭兵になった話って……」
話に出してから、アルを除いた三人にカーラちゃんが傭兵になった話をしていないことに気が付いた。
「アキトさん。そのあたりは今日の朝に集まって話していた時に、僕から説明しておきました」
「あ、そうなんだ」
疲れた様子でアルが言う。午後から組合にきたのは、これまでパーティ内で話し合いをしていたからか。
「私としては、カーラちゃんのことを止めてほしかったけれどね」
オリアナさんは腕を組みながら怖い笑顔を浮かべていた。あぁ、アルは話し合い大変だっただろうな。
「かなり脅しはかけたのに意思は固かったし、そもそも俺に止める権利はないしな」
「わたしもカーラちゃんが傭兵をするのは不安だなって思いましたけど、アキト様がついていてくださるそうなので安心しました」
「まぁ、脅しはかけたけど背中も押しちゃったとこあるからね。責任は取らないとな。んで、今の依頼の話だけど、俺もついてっていいか?」
「アキト殿に付き添ってもらえるのなら心強い」
「それじゃあ、いいですか? アキトさん」
「いいですかは俺のセリフなんだけどな。よろしく頼むわ」
俺では受けられない討伐系依頼だが、アルのパーティにヘルプとして加わることで一緒に受けられる。
達成できれば今回の依頼も評価として加えてもらえるようだ。なるべく早くに昇格しておきたいし、評価をもらえるのはありがたい。
今回の依頼は牧場周辺に住み着いたオオカミの群れの討伐だ。
牧場周辺でスプラウト等級の傭兵の見回りを増やしていたようだが、森の中にまでは踏み込めないので駆除には至っていなかった。
だが牧場で飼育されている牛や豚に被害が出始めたことで、オオカミの数が増えることを危惧してウィード等級以上のパーティに依頼がなされた。
町から近いところに牧場があるから、すぐに終わらせられたら今日のうちに帰られる。
カーラちゃんが明日動けるレベルに復活してるかはわからないけど、動けるようなら体力作りや戦闘訓練もしたい。なるべくなら今日一日で終わらせたいところだ。
牧場で働く人から情報の聞き取りをしてオオカミをよく見かける方角を教えてもらい、森に足を踏み入れていく。
「……視界が通らないのはなかなか困るな」
「……そうですね。草むらの影で伏せて待ってるんじゃないかと考えると、かなり緊張します」
「そこらへんの草むらも怖くなってくるよな。でも音は取れてるから心配いらねぇぞ。待ち伏せはおそらくないから、アルとウィリアムくんで陣形だけ気にしててくれ」
「わかりました」
「了解しました、アキト殿」
森の中では俺が先頭で『
待ち伏せだけは俺のアビリティで防げるが、速度を活かした急襲をされたら音を拾っても脅威になる。
オオカミは最低でも四頭は同時に確認されているが、合計の数はわかっていないのだ。対処が遅れて後衛が崩れると全員が危なくなる。急襲を受けても必ず前衛で止めるという意識が必要だ。
「こ、こんなに、ぐいぐい進んでも大丈夫なんです……?」
「大丈夫だよ、エマちゃん。俺は耳がいいから、本気出せば生き物の息遣いまで聴き取れる」
「……それは耳がいいなんてものではないと思うわよ」
音に気を付けて、目でも地面や草むらなどに痕跡がないか注意する。
「……木の幹に……っ! 上だっ!」
数メートル先にある木の幹に爪痕を発見し、注意喚起する。
タイミングの悪いことに『ハイパーアキューシス』はクールダウン中だった。
いや、それよりも俺がオオカミを舐めてかかっていたことがいけなかった。イヌ科のオオカミが木登りできるだんて思わなかった。いまだに元の世界の常識に縛られている。
「前衛は体張ってでも止めろ!」
まるで俺の言葉に反応したように、樹上の木の葉ががさりと揺れた。
「上からっ!?」
「なんと……っ」
「わ、わたしはっ……」
「エマ離れないで!」
「後衛は前衛から離れすぎんなよ! すぐ後ろにいないと守りきれねぇぞ!」
寸前に気付けたおかげで奇襲はされてない。間一髪だが対応は間に合った。
樹上から飛びかかってきたオオカミの頭めがけて、落ち着いて引き金を引く。
大型犬より一回り以上体が大きいオオカミだが頭を撃ち抜くことはできた。
俺めがけて飛びかかってきたオオカミは着地の前に絶命して、ぐしゃりと音を立てて地面に落ちた。
だが同時に樹上から攻めてきたのは一頭だけではなかった。
続けて三頭が違う大木から飛び込んでくる。左右外側からくるものはアルとウィリアムくんに任せ、俺は続いてもう一頭を着地の前に撃ち落とす。
「あ、アキト様、つよ……」
「ありがとう! でも気は抜くなよ!」
「エマ! 魔弾で前衛の支援よ!」
「っ! は、はいっ!」
一緒に戦うことになったので、みんながどんなことをできるのかは事前に聞いていた。魔法についてはまったくの無知なので、とくに後衛二人には説明してもらっていた。
マジックユーザーはそれぞれ属性ごとにウィザードやプリーストなどにカテゴライズされるが、基礎的な魔法はマジックユーザーならみんな使えるらしい。
その代表的な魔法が、魔力を塊にして射出してぶつける『魔弾』と呼ばれる魔法だ。初歩的な魔法と言っていたが、これが意外と使い勝手がいい。
一発の威力は致命傷には程遠いし魔弾の弾速は遅いが、強めにぶん殴られるくらいのダメージと衝撃があり、なにより便利なのが誘導性能で、撃ってしまえば必中という馬鹿げた性能をしている。ホーミングチートだ。
後ろ足で立って首を狙ってくるオオカミを盾で防いでいる前衛二人に、淡い赤と淡い青の魔力の光弾が向かう。横腹に入った魔弾に、オオカミは
「ウィル!」
「おお!」
その隙を突くように二人は盾を押してオオカミの体勢を崩し、アルは剣で、ウィリアムくんは片手用のメイスで追撃を加える。
このあたりの連携はよくやっているのか、オリアナさんが魔弾を使うコールを一言したくらいで、他に声かけはなかったのに合わせが完璧だった。いいチームワークだ。
オオカミの攻めを防ぎ、反撃で重い手傷を負わせた。あと一発で
「っ、増援だ! 追加で三!」
おそらく偶然だろうけど、前衛二人が手負いのオオカミの息の根を止めるために前に出たのを見計ったように、全速力で追加の三頭が駆け込んできた。
アルもウィリアムくんも俺のことも無視して、一直線にオオカミは後衛に向かう。一頭は撃ち抜いたが、他のオオカミは射線が重なっていて撃てなかった。
「くっそ……後衛狙いだ!」
「戻れ!」
「むぅっ……」
強靭な後ろ足で地面を蹴り、前衛を抜けた一頭のオオカミが大きな口を開き、エマちゃんの細い首を噛み砕こうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます