ハーゲンダッツを贈ろう
梦
ハーゲンダッツを送ろう
ハーゲンダッツは1961年、アメリカのニューヨーク州ブロンクス区で産声を上げた。今ではアメリカのアイスクリームの大手ブランド、あまり知られていないがこの名前は造語で創設者のルーベン・マタスによって名付けられたものだ。
その言葉自体に意味はない。
意味はないのだが、人間という生き物は必ずそこに意味を与えてしまうものだ。エスペラント語が人工言語でありながら言語として成り立っているように。
「奈津美さんは、アイスは何が好きですか」
「うーん……ハーゲンダッツのパイントのグリーンティー?」
「めっちゃ高いやつじゃないですか」
「ハーゲンダッツでもスーパーで買えばちょっとは安いよ」
コンビニで買うけど。
仕事終わりにちょっと高いもの食べるのって気持ちいいじゃん、と先輩は楽しげに目を細める。私はこの笑顔を絶やしてはいけないと強く誓う。明日も、明後日も。
しかし、終電を逃してしまってはそれも困難なわけで、腕時計を確認すると私は今しがた考えた夢が叶わないことと明日も永遠に訪れないことを悟る。「な、奈津美さぁぁん…」
「何、どうしたの」
顔色悪いよと彼女が私の顔を覗く、視線がぶつかる。駄目です、奈津美さん、駄目なこと全部やってる。
「あ、ど、どうしよ……」
背中を撫でてくれるのに冷や汗はあとからあとから流れ出てYシャツが肌に張り付く感触が気持ち悪かった。
「ハーゲンダッツさ、今度新作が出るんだって。ミニカップの……」
「もうハーゲンダッツの話やめましょうよ!」
私は奈津美先輩の瞳を睨みつけて大きな声で言い放った。
あ。
時計の針は23時57分を指していた。
午前0時の5分前に相手の目を見つめてハーゲンダッツという音を発していけない。4回声に出せば四肢を裂かれ、相手の目を見て言い放った者は創設者夫妻に導かれ地獄に落ちる。
ルーベンとローズが仲睦まじく映画『シャイニング』の双子よろしく手を絡ませあい立っている。世界は急速に歪み始めハーゲンダッツ濃苺のパッケージのような赤が視界いっぱいに広がった。
ハーゲンダッツを贈ろう 梦 @murasaki_umagoyashi
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