第一章 偶然の出会い
第1話 お見合い作戦会議
4月のある晴れた日曜日。
僕こと、
外の景色が良く見えるカウンター席に座り、購入したコーラを飲む。シュワシュワと炭酸が喉で軽やかに弾ける。
「珍しいな。奏から俺を誘うなんて。空から槍でも降ってくるんじゃないか?」
隣に座る
そんな彼の態度に、僕はため息を吐く。
「そんな冗談を言ってる場合じゃないよ。僕は真剣なんだ」
「ふ〜〜ん。それで、俺を呼び出した
「単刀直入に聞くよ。彼女を作るにはどうすればいいの?」
「急な話だな」
「お願い。俊にしか頼めないんだよ」
俊太郎は小学5年生の時に、同じクラスになり、それからの仲良くなった僕の数少ない友人だ。今も仲良く同じ大学に通っている。
180センチを越える身長にハッキリとした顔立ち。センターパートに分けた茶髪に、凛々しい眉毛。スポーツも勉強もできる完璧超人だ。
そんな彼は、常に女子に囲まれていて、彼女も今までに何人もいた。今現在も、高校卒業と同時にマッチングアプリで知り合ったという1歳年上の彼女がいる。
要するに、女子に困ることはない人間だ。
対して僕は、彼女いない歴イコール年齢という有り様。だからこそ、僕は彼にアドバイスを貰いたいのだ。
「アドバイスをするのは別にいいよ。ただ、珍しいな。奏が色恋沙汰に興味を持つなんて。どういう風の吹き回し?」
「実は……初恋の相手に再会した」
「おぉっ、いいな。そういうの! 面白そう!」
おもちゃを見つけた子どものように、俊太郎が目を輝かせた。
ただただ面白がっているようにしか見えない。それに、僕と彼女との奇跡的な再会を「そういうの」で片付けないで欲しい。
「真面目に聞いてるの?」
「悪かったって。それじゃあ、その人の名前は?」
「
「おぉ〜! 初恋の相手って感じの名前だな」
俊太郎の名前に対しての感性は意味不明だ。
そんな俊太郎がフライドポテトを頬張る。僕の話はさぞ美味しいになっていることだろう。
「どうゆう見た目?」
「見た目って……。一言で言うなら、清楚かな。小学生の頃に好きになったんだけど、いつも物静かに本を読んでて、言葉遣いも丁寧な感じで」
「なるほど。つまり、白石さんの影響で奏は清楚系が好きになったと」
「そういうの恥ずかしいからやめて」
「まぁまぁ、隠さなくってもいいって。清楚系の良さは俺も知ってるから」
良さを知ってるとしても、僕の恥ずかしさは変わらない。
しかし、俊太郎の言っていることも全てが間違いではない。
僕の女子の好みは、間違いなく白石さんの影響を受けていた。黒髪と白い肌の見た目。おしとやかで物静かな性格。それらを全て持っていたのが彼女だった。言うならば、清楚系のお手本とでも言うべき人だった。
「でもおかしいな。清楚系の可愛い子を俺が知らないなんて」
「小学生の頃に好きになったんだけど、4年生の時に転校しちゃって」
「道理で俺が知らないわけだ。それで、それで! どんな風に再会したんだ?」
「それが、情報経済の講義で見かけて」
「うん」
「……」
「見かけて、それから?」
「だから、見かけたんだよ」
俊太郎は頭に手を当てた。そして「嘘だろぉ」と小声で呟いている。
「……まさか、話しかけてすらいないのか?」
「そうだよ」
「……」
信じられないといった驚きの表情をしたまま、俊太郎の動きが止まった。
そこで、俊太郎のフライドポテトと1本貰って頬張る。程よい塩加減に食欲がそそられる。
「だから、俊に相談しているだよ。どうすればいいと思う?」
「どうすればってな……。そんなの、まずは話しかけてみるしかないだろ」
「どうやって?」
これといった関係もないのに、一体どうやって話しかけるのか。想像もつかない。仮に話しかけたとして、何を話せば良いのかも分からない。
「どうって……はぁ。まぁ、奏だもんな。そうだな。講義で横に座って話しかけて連絡先交換したり、一緒のサークルに入ってその飲み会とかで……」
「そんなの、僕にはできないって。もっとこう、ゆっくりと少しずつやる感じで」
すると、俊太郎が深くため息を吐いた。そして、フライドポテトで僕の鼻先を指さした。
「あのな。少しずつなんてやり方が通用するのは高校生までだ。大学生なんて、1、2週間ですぐにカップル成立だからな」
「そ、そうなの!?」
想定外の言葉に思わず大声を出してしまう。店内のお客さんから僅かに注目を浴びて、慌てて小声で言い直す。
「本当なの?」
「当然だ。ちょっと仲良くなって、食事に誘ってみて、そのままお酒の勢いでワンナイトラブなんて日常茶飯事だぞ」
「……」
俊太郎の言った事が信じられない。そんなにもあっさりと、男女は付き合ってしまうのだろうか。
ちょうど窓の外で大学生と思わしきカップルが手を繋いで歩いている。彼らもアッサリと付き合い出したのだろうか。
「でも、そんなの、僕にはできないよ。お酒は苦手だし、コミュ力もないし」
「そんなこと言ってのんびりしている内に、白石さん取られちゃうぞ」
「で、でも……」
「ほらほら。想像してみろよ。奏とは正反対の派手でチャラチャラした男が、白石さんの髪を撫でて、その腕の中で白石さんがあんあん喘いで……」
「生々しいこと言わないでよ」
思わず想像してしまった。薄暗いラブホテルのベッドの上で、知りもしない金髪の大男に白石さんが襲われる姿を。
とてつもなく気分が悪い。
口直しのために急いでコーラを飲む。Mサイズのものがあっという間になくなってしまった。
「それが嫌なら、今すぐに白石さんに話しかけろ。
男磨きとかで勝率は上がるにしても、それ以外に彼女を作るための必勝法なんてものはない。恋愛なんて、攻めあるのみだ!」
「……わかったよ」
そんな俊太郎との話し合いから数日後。
俊太郎からのアドバイスのもと、僕は男磨きなるものを始めた。
基本的には、毎日5キロのランニングや腕立てなどの筋トレとバランスの取れた食事の摂取による身体の向上を目指した。
また、化粧水などで肌を整え、美容室で髪型を整え、洋服屋でシンプルなシャツやスラックスなどを買うなど、とにかく清潔感ある見た目を目指した。
その間、俊太郎は白石さんについての情報を探ってくれていた。
そんな中のある日のことだった。
その時、僕は自室で自重トレーニングに汗を流していた。すると、俊太郎から電話がかかってきた。
『奏! ビッグニュースだ!』
俊太郎の声はやけに興奮気味だった。
僕は汗をタオルで拭き取って、電話に注意深く耳を傾けた。
その内容は、もちろん白石さんに関わるものだった。情報源は俊太郎の彼女の
『というわけだ。これはまたとないチャンスだぞ』
「チャンスって言われても……」
僕と俊太郎はまるで人間性が違う。そんな人からいきなりチャンスと言われても困る。
自室のベッドに寝転がってから話を続ける。
「僕は具体的に何をすればいいの?」
『簡単だよ。奏もそのサークルに入って、仲良くなればいいだけだ』
「でも僕、スキーとかスノボーできないよ」
『そんなん形だけでいいんだよ。最初の方だけ活動に参加して、幽霊部員になればいいだけだ』
「そっか! それなら大丈夫そう!」
『だろ? 入部とかの申請は希がやってくれるらしいから。なっ?』
俊太郎が確認を取っている。どうやら、同じ部屋に桜木さんがいるらしい。すると、何やら足音が電話越しに聞こえてきた。
『奏。ちょっと希と代わるぞ』
「分かった」
どうやら桜木さんと代わるらしい。寝転がりながら話を聞くのは流石に申し訳ない気がするので、ベッドの上で正座をしておく。
そうして少し待っていると、桜木さんの落ち着きのある声が聞こえた。
『蒼井くん。入部の時にグループラインへの参加と学籍番号が必要だから後で送っておいて』
「分かりました」
『それと、今週の土曜に新歓があるから、それも参加ってことでいいんだよね?』
「はい。なんか、色々とありがとうございます」
『ん。まぁ、気にしないで』
桜木さんの返事は何故か僅かに弾んでいた。
その後、再び俊太郎が電話に出た。
「ほんとに、色々とありがとう。桜木さんにも迷惑かけちゃって」
『まぁ、渚のことは気にするな。俺が後で埋め合わせするから』
「あぁ〜〜」
桜木さんの声が弾んでいた理由を何となく察する。彼女持ちというのも色々大変なのかもしれない。
『とにかく、新歓でお持ち帰りしてこい!』
「お持ち帰りなんて無理だって!」
『冗談だよ。俺も奏がいきなりお持ち帰りができるとは思ってないって。でも、最低限、連絡先ぐらいは交換してこい』
俊太郎の最後の言葉には、冗談を一切感じられなかった。
だから、嬉しかった。彼は真剣に僕の初恋を応援してくれている。そして、背中を押してくれていると気づけたから。
「……うん。分かった」
ハッキリと返事をしてから電話を切る。そうして再び自重トレーニングを再開する。
俊太郎と桜木さんにここまでしてもらったんだ。決意をしなければならない。
必ず、白石さんを彼女にすると。
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