第3話

「健次!」

「うぁ!」


 僕は夢乃に背後から声をかけられてビックリした。


「夢乃さんどうしたの?」

「むむ。あたいいつも思うんだけど、さん付けしたら恋人じゃないって思われるでしょ」


(そうか)


「じゃあ、夢乃でいい?」

「モチ!」

「わかった。それで何かあったの?」

「うん。お金貸して!」


(きたよ。コレ)


「友達に貸してもらえばいいじゃん」

「借りれないよ~。友達の関係崩れるじゃん」


(偽装彼氏はいいのか?)


「貸さないけど、何か欲しい物あるの?」

「もうそろそろ夏休みじゃん」


(ああ、水着とか浴衣とか買いたいのか)


「アイスを四十日分まとめ買いしたいから貸してよ~。おねが~い」


(そっちなの? 一日どのくらい食べるつもりなのよ?)


「お金があっても貸さない」

「ケチ」

「大学の入学金のために貯めているからダメ」

「ほえ?」

「ん?」

「何でずっと先のことの為にお金貯めてるの?」

「それは大学――」

「ゼッタイ今使った方がいいじゃん。年をとると体が動かなくなって、いろいろなことできなくなるし」

「ふーん」

「動けるうちにいろいろなこと体験して、人生を楽しむ方がいい!」


(いろいろなことを体験するか……Hな体験したいけど……)


『マジ超キモイんですけど。そんな目であたいを見てたなんて。健次、もう近づかなで。それに声もかけてこないで』


(って言われたら三日寝込む自信がある)


「それに人生で食事のできる回数は有限だよ!」


(夢乃、数学嫌いなのに有限って概念を知っているんだね)


「あっ」

「どうした」

「毎日健次に会って、奢ってもらえばいいじゃん! しまったあたいとしたことが」


(それもなんだかな。毎日夢乃と会えるのは嬉しいけれど)


「決まり! じゃあ、健次は毎日アイスを買って家に来て」


(強引だな)


「毎日会いに行くって彼氏みたいじゃん。いいの?」

「うん。夏休み限定彼氏」

「はぁ」


(惚れた弱みってこんな感じなのか)


「毎日奢るなんて無理だよ」

「えー」

「そう無理」

「じゃあ一週間に七回奢って!」


(夢乃さぁ。それ毎日奢れってことと同じだよ。っていうか日と週の区別ができるようになったんだね)


「ねぇ、けんじぃぃ」


 夢乃が僕の腕に絡みついてきた。


(マジで柔らかいんだけど。それにこの角度からだと黒い下着が見えているし)


「ほらほら。サービスしているんだから」

「卑怯だ」

「なにが? 彼氏にこういうことするの当たり前でしょ」


(当たり前ではない。周りを見て見ろ、注目されているぞ)


「まったくぅ」

「アイス♪アイス♪」

「わかったよ。でも条件がある」

「条件?」

「先生のところへ、夏休みの補習課題を取りに行くぞ。その課題が終わったらアイスを奢る」

「えーーーー」

「確かプリントが四十枚くらいあるはずだ」

「そんなにあるの!」

「一日一枚やれば、夏休みの間に終わる」

「けんじぃぃぃぃ。アイスはいいから、課題手伝ってよぉぉ」

「じゃあ。手伝う代わりに、ポテチを毎日な」


 夢乃は肩を下げ、うなだれている。その姿をみて、ポテチ毎日は意地悪しすぎたなと感じた。


(やっぱり。僕は夢乃のことが好きなんだな)

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