第2話
石橋さんの
「けんじぃぃ、たすけてぇぇ」
「今度は何? 考査のことなら受付ないぞ」
「あのね。英国数……何だっけ? テストがわからないのぉぉ」
「考査のことなら受付ないって言ったろ」
「考査? 何それ? あたいはテストを助けてほしいの!」
「あのね。石橋さん」
「夢乃!」
「夢乃さん、考査はテストって意味だよ」
「教えてくれなきゃ、脇こちょこちょの刑にするぞ」と脅され、子供だなと思いながら仕方なく教えることにした。
「わかった。じゃあ、先ずは何を教えてほしい?」
「英語!」
「そうか」
「全然読めないの!」
知っている単語を聞くと「〇〇〇〇」など言っちゃいけない言葉を言ってきた。
「わかった。その言葉は言うな。ちょっと待て」
僕は教科書を取り出し、彼女に読んでもらうことにした。
「じゃあ、この文を読んで」
「これ言えばいいの?」
「そう」
「最初の単語なんていうの?」
「これはね「
「知ってる! Gの次でしょ!」
(マジか)
「ちなみにあたいはGよりのFカップだよ♪」
(そんなことは聞いていない)
僕は英語を教えるのを諦め、数学を教えることにした。
「じゃあ、多項式の乗法からやろう」
「ジョウホウ?」
「乗法はかけ算のことね」
「かけ算知ってる! 九九ってやつでしょ」
「そう九九が基礎だね」
「へへぇ、自慢じゃないけど九九得意なんだぁ」
(九九が得意?)
「一の段なら任せてよ!」
(おわった)
なぜ彼女は高校に受かったのだろう。先生達は甘いような気がしてきた。
「つかれたぁ。そうだ! 頭に糖分補給しなきゃ」
「夢乃さん。数学苦手なんだね」
「そうなの。訳が分からないの」
「どのあたりからわからなくなったの?」
「わり算、分数。分数って必要なの? それにわり算はスマホでできるし」
(算数でつまづいているのか)
「わかった、わかった。わり算と分数ができたらドーナツ一週間奢ってやるから」
「ホント!」
僕は後悔した。翌日夢乃がわり算、分数を完璧に仕上げてきたからだ。
「健次。ドーナツ一週間分ね」
(あっ、そうか)
「わかった。この小数点の問題ができるようになったら、ドーナツ一週間分を三日分にしてやるぞ」
「ホント! あたい頑張る!」
(やっぱりな。日と週の区別がついていない)
「ねぇ、話違うけど一日って十二時間でいいんだよね?」
「どういうこと?」
「だって、教室の時計、『12』までしか書いてないじゃん」
(うーん。どうしたらいいんだろう)
「そうだ。健次、家に来て教えてよ」
(そうだよな。たくさんやらないといけないもんな)
「パンツ見放題だよ」
(恥じらえ)
「夢乃さぁ、いやらしい目で見てくる男、嫌いじゃなかったっけ?」
「ん? 減るもんじゃないしイイじゃん」
(理解ができん。いやらしい目で見てくるのがイヤってことは下着も見られたくないんじゃないのか?)
「あっ、今日は親が家に居ないからね」
(何をしたいんだ。お前は)
「出前はお寿司でいいから」
(なるほど。夕飯奢ってほしいのね)
三日間彼女とテスト勉強をする。その中でわかったことは彼女がポンコツなことと、そんなポンコツな彼女のことを好きになっている自分がいることに気づいたくらいだった。
(うーん。偽装彼氏かぁ)
考査が始まり、僕は問題を解いていた。彼女がどのくらいできるのか心配しても意味がないが、どうしても気になってしまった。
「けんじぃぃ」
「おっ、どうだった?」
「ふふふ。カンペキ!」
(殴ってやろうか)
テストの結果が返ってくる。僕はどのテストも九割以上とれていて、すごく嬉しかった。
「夢乃! どのテストも九割以上とれていたよ!」
「キュウワリイジョウ? きゅうりが異常ってこと?」
(僕が悪かった)
「それよりどうだった?」
「選択問題カンペキ!」
「おっ、すごいじゃん」
「近くにゴミ箱おいて、その中にプリント入れたかいがあった!」
(それはカンニングだ)
先生にカンニングしていたことを言うぞと伝えると「信じられない! 彼氏でしょ」と言われた。
「誠実に生きることも大事だ。人間は中身が大切って誰が言っていたの?」
「……ごめんなさい」
僕は彼女を連れて、先生のもとへ行く。彼女がカンニングしていたことを言い、彼女は謹慎処分になった。
「ごめんなさい」
世の中は正直に生きている方が馬鹿を見る。けれど誠実に生きることは大切だと考えているから彼女の今後を考えてカンニングしたことを先生に言ったのは後悔していない。ただ、これから僕は世の中を上手く渡っていく必要があることも感じていた。ウソをつくのはダメだが、言わないようにすることも必要だと、そう考えた。
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