第2話

「なんで南さんと転校生が一緒にいるの?」

「見て!しかも手も繋いでるよ!!」


この場にいる全員の鋭い視線が、わたしたちに向けられる。その瞬間全身にぶわっと汗が滲む。


 どうしてこうなった~!!


 こうなった原因は昨日の夜まで遡る。


 ――


 まさか、あの学校1の美少女と言われてる南さんと友達になって、連絡先まで交換できるなんて…


 もうこれって陽キャになれ!という神からのお告げに違いない!!


 LINEに家族以外が追加され、その事実にニヤニヤしていると、唐突にスマホがバイブ音を鳴らした。


「えっなに?なにごと!?」


 普段スマホが音を鳴らすことがないため、驚いていると南さんアイコンが画面に映っていた。


 わたしは驚きながらも、恐る恐る通話ボタンを押す。


「もしもし、もしかして南さんですか?」


「もしかしなくてもわたしよ。こんな時間だけど大丈夫?」


「全然大丈ですよ!!」


 なぜか電話越しなのに、全力で頭を振ってしまう。将来社畜が似合うかもしれない。


「何かあったんですか?なにか連絡事項などですか?」


 少しだけ、震える声を抑えながら聞く。


「違うよーちょっと話したかっただけ」


「そのためだけに、通話してるんですか?」


 わたしにとって、LINEは連絡用でしかないため、どういう意図での電話なのかが分からない。


「当たり前でしょ?わたしたち友達なんだから」


 南さんの優しい声が、スマホ越しに聞こえた。


 その言葉に、わたしは感動してしまった。こんなにも、慈悲深い《びひぶか》人ががいるなんて、わたしは幸せ者だと思った。


「ところで、明日一緒に学校行こうよ!駅で待ってるから」


「え、いいんですか?」


 わたしは驚いて尋ねた。友達になっていきなり一緒に登校。しかもあの南さんと…ハードルが高い。


「もちろんいいよ。あっもう遅いし、また明日ね」


 ツーツーと音を鳴らし通話が終わる。わたしは放心状態で画面を見つめる。

その日は明日のことを考えて緊張し、全く寝れなかった。



 次の日



 わたしは家族から心配されるくらい早起きし、登校準備をし家を飛び出した。


 8時集合だったが、早めに電車に乗り、15分も早く駅に着いた。


 そわそわしながら、いつ8時になるか待っていると、背後から聞き覚えのある声が聞こえたてきた。


「ごめーん待たせちゃった?」


 その声は、南さんのものだった。彼女はわたしの隣に並び、一呼吸ひとこきゅうする。


「大丈夫ですよ。わたしも今きたばかりですから」


 本当はだいぶ早くきたが、カッコつけて定番の言葉を言う。走ってきた南さんの息が整うまで待ち、その後一緒に学校へと向かった。駅から歩いている間、わたしたちは互いのことを話した。


 今まで友達が少なかったせいか、あまり話せなかったが、南さんが合わせて話しくれたから不安感はなかった。


 何気ない会話していると手が何度も触れ合った。

くっついて歩きすぎかな?手がぶつかってるけど不快に思っていないかな?そんなことを考えていると


「あのさあ…手、繋いでもいい?」


 と意外な言葉が飛んできた。


「え、ええっ!?」


 わたしは戸惑いながら南さんを見上げる。


「えっと、それって…」


 心臓がバクバクと高鳴り、言葉が詰まってしまう。


 手繋ぎ登校!?女の子どうしの距離感が分からないよ。


 パニックなわたしと正反対で、南さんは穏やかな笑顔で、わたしを見つめていた。


「だって、緊張しているみたいだし、手を繋いだ方が安心できるかなーって」


「そ、そうですね」


 南さんは、わたしの様子を見ながら、緊張感を与えないようにそっと、優しく握った。


 南さんの手、温かい…


 手を繋いで歩き始めると、不思議と緊張感が薄れ、心に安心感が広がっていく。


「ありがとう、唯」


 南さんの声が優しく耳に届く。


「南さんじゃなくて、わたしが感謝したいですよ!!」


 わたしも微笑みながら答えた。


 そして、学校に着き校門をくぐると、なぜか一気に空気感が変わった。


 全校生徒の視線が集まっている気がする…なんか、ヒソヒソ声も聞こえる。こ、こわい!!


よく耳を傾けて聞いてみると、


「なんで南さんと転校生が一緒にいるの?」

「しかも手を繋いでるよ!!」


 あれ?これわたしたちの話では?もしかして、南さんのファンガールたちを怒らせてしまった?でもなんで?


 …どうしてこうなった~!!


 そして冒頭に繋がる。


「今日はなんか騒がしいね。何かあるのかな?」


 南さんは、どこか嬉しそうに見えた。

 わたしは不安感から視線を落とす。


 無事に、一日を終えることが出来るのか…不安がよぎる。すると、南さんとわたしを繋ぐ手が見えた。


 騒ぎの中、唯は自分の過ちに気がついた。


 これだ!絶対これだ!!南さを独占してしまったから、こんなに状況になったんだ!!


やっと自分の過ちに気づく。そんなことも知らない南さんは、この場にいる全員に見られながら教室に向かった。


 もちろん手を繋いだまま。


 周囲の注目を感じ、緊張した様子で南さんの顔を見つめる。


「あの、そろそろ手を離してもいいですか?生きた心地がしないです…」


 このまま繋いだ状態で教室に入ったら、放課後呼び出されて、絞められそうな気がする。


「もしかして、わたしと手を繋ぐの嫌だった?」


 もの悲しそうな表情を浮かべ、彼女はわたしを見つめた。


 そんな風に言われたら無理だよ…わたしは慌てて否定した。


「全然そんなことないですよ!このまま一生手を洗わなくてもいいくらい、嬉しいです!!」


「それはちょっと嫌かな」


 南さんは苦笑いをし少し戸惑った表情で、返した。そんな会話をしていると、いつの間にか教室の扉の前に立っていた。


 とうとうきてしまった。教室に…深呼吸をし、覚悟を決め扉を開ける。


 すると、教室に入るやいなや、クラスのみんなが南さんに駆け寄ってきた。


「何のよう?」


「南さん、ちょっと話があるんだけど」


 南さんの声は優しく、しかし少し緊張しているようにも聞こえた。


「ちょっと話があるから。唯、またね」


 と言った瞬間、彼女は手を離した。


「じゃあね、南さん」


 同じクラスなのにまたねって変なの、と思っているとさっきの人たちの話し声が聞こえてきた。



「約束と違うよね」

「独り占めはよくないよ」


 南さんたちのほうから聞こえる。


「約束」、「独り占め」…これってわたしのことだよね!?


 もしかして、南さん独占禁止法でもあったの?転校生だし、そんなのわたし知らないよ!!


 他にもいろいろ話していたが、パニックになっており、全く話が入ってこなかった。


 すると、クラスメイトの一人がこっそり近づいてきて、ささやき声で言った。


「唯ちゃん、独り占めさせないから」


 その言葉を聞いて頭が真っ白になった。そのあとの記憶がない。


 ――


 気がつくと放課後になっていた。わたしは思わず


「…はっ!ここはどこ、わたしは誰?」

 とありきたりな言葉を、口に出してしまう。


 辺りを見渡すとわたししかいない。とりあえず帰る準備をしよ…と思った瞬間、背後から柔らかい声が聞こえてきた。


 もしかして南さん?と思い振り返ると


「おはよう、唯ちゃん」


「だ、だれですかー!!」


 ――


 すこし時間は戻り教室での南琴梨


「何かしら」


「南さんちょっと話があるんだけど」


 周りの子が、抗議の目をわたしに向ける。


「約束と違うよね。どうして、唯ちゃんと手を繋いでたの」


「言ったよね。唯ちゃんを独り占めするのはダメって」


 やっぱりその話だよね…


「だってみんなが可愛い可愛い言うから、どんな感じの人なのかなと思って実際に会話してみたら…小動物みたいで可愛くて仕方なかったの!!」


 しかし、クラスメイトたちは納得していない様子だった。


「唯ちゃんが、可愛いすぎるのがいけないけど、今後は自重してください」


「そんなぁ…」


 でも大丈夫。少しずつ仲良くなってる。絶対、唯と付き合ってみせる…


――


 そして放課後に戻る


「おはよう、唯ちゃん」


「だれですかー!!」


 動揺しながらも、その人の顔をよく見てみると


「どうしたんですか?怖がらなくても大丈夫ですよ」


 この優しさの塊のような顔は…


「あーっ!委員長の立花 陽葵たちばなひまりさん!!」


 ふわふわな雰囲気で、艶やかな唇。そして優しい目。


 こんなかわいい子を忘れるなんて、わたしのバカ!ポンコツな脳みそをポコポコと叩いて叱る。


「そんなにわたし影薄いかな?」


陽葵さんは、人差し指どうしをくっつけ少し落ち込む様子を見せる。


「そ、そんなことないですよ!ちょっと…なんだか変な夢を見てしまったみたいで…パニックになってただけです」


「どんな夢ですか~?」


 陽葵さんは首を傾げ指を口に当てる。


 なに?そのあざとかわいい仕草。


「まるでラノベような展開で、クラス1の美少女と仲良くなって、一緒に手を繋いで登校するって夢を見ました」



「琴梨ちゃんそんなことしちゃったんだ…」

「何かいいましたか?」


 ちょっとだけ怒ってるように見えたけど、気のせいだよね?


「ほかに何かされませんでしたか?」


 もしかして陽葵さんも、南さんのファンガールなのかな?てことは今は尋問中ってこと?


 下手に変なこと言ったら、委員長権限でこの世から抹消される…


「どうして、怯えてるの?」


「そんなことないですよ!そう見えますか?」


 本当は緊張と恐怖で、心臓がメタル系バンド並みに激しく動いてるよ。


「唯ちゃんは自分がどんな存在か分かってる」


 わたしはこの空気間に圧倒され、ただ首を横に振ることしかできなかった。


 陽葵さんは微笑んで、わたしの肩を軽く叩いた。


「大丈夫、そんなに緊張しなくてもいいよ。わたしたちは友達だからね」


 なぜだろう、友達と言われて恐怖感を覚えてしまうのは。


「唯ちゃんはね、クラスの一部の人たちに大人気なんだよ」


「へ?」


 意味不明なことを言われ、思わずまぬけな声が漏れ出てしまった。


「唯ちゃんって、小動物で見たいで可愛いでしょ。背後からギューっと抱き締めたくなる可愛さ。特におどおどしてるところとか、見た目の可愛いさと相まって、庇護欲ひごよくを掻き立てられるのよ。そういうところが、一部の人たちの心に刺さったの」


 なにそれ?うまく脳に情報が入っていかない。可愛いと言われてるハズなのに、あまり誉められてるようには聞こえなかった。


「唯ちゃんと琴梨ちゃんが、手を繋いでいる姿を見てみんなが騒ぎ立てるのも分かるよね」


 なるほど、そういうことか!なるほどじゃないよ!!


「みんな、唯ちゃんのこと心配してたんだよ。琴梨ちゃんに奪われるんじゃないかと」


 うーん、なるほど。


「なんかよく分からないですが、そういうことなんですね…」


 自分の存在がなぜここまで、クラスに影響を与えるのか…いまいち理解が追いつかない。



「まあ、唯ちゃんはその辺気にしなくてもいいよ。みんなは唯ちゃんが自分らしくいればそれでいいんだから」



 この情報を聞いて、明日から普通に暮らすなんて無理だよ。


「今日はいろいろあって疲れたでしょ。わたしが家まで送るよ」



 陽葵さんはそう言うと、わたしを連れて外に向かった。


「陽葵さん大丈夫ですよ、一人でも帰れます」


「いいよ、いいよ。こんな時間まで付き合わせちゃったし」


 腕を引っ張られ玄関まで連れてかれる。玄関につくと扉付近に人影が見えた。その人影は、こっちの存在に気づき飛び出してきた。


「唯!!待ってたy…あれなんで陽葵と唯が一緒にいるの?」


そこには、浮気現場を目撃したような表情の南さんがいた…


「陽葵?どういうこと」


わたしを見つけ笑顔で近づいてきたが、もう1人の存在に気づき一瞬で真顔に切り替わる。修羅場の雰囲気を感じさせる。


「なんで?ってそれは一緒に帰る約束したからですよーねっ唯ちゃん」


 話を合わせろって目で訴えかける。


 思わずわたしは


「あっ、はいそうです」


 と嘘をついてしまった。なんとか穏便に解決することを、ただただ願う。


「ふーん、そんな風に見えないけど。めっちゃ目が泳いでるよ。まさか嘘ついてないよね?唯」


「すみません…嘘です」


「唯ちゃん!?」


 威圧感に負けて即座に嘘を認める。だって嘘苦手だし、このままだと絶対ボロでるし。


 南さんは陽葵さんとわたしをじっと見つめたまま、静かに考え込んでいるようだった。


 その沈黙が不穏な空気を漂わせる。


 わたしは焦りを感じながらも、何とかこの状況を切り抜けようと小さな頭をフル回転させる。そうして思いついた言葉を捻り出す。


「そうだ!南さんも一緒に帰りませんか?わたしと南さんと陽葵さんの3人で」


「それイイね、琴梨ちゃんも一緒に帰ろう!ねっ!!」


 南さんはその提案に驚いたような表情を浮かべたが、少しずつその顔に柔らかさが広がっていき笑顔に変わる。


「そうだね。こんなことしてたら唯が不安になるし、楽しい雰囲気のほうがいいよね」



 彼女の言葉に、わたしと陽葵さんはほっとした表情を浮かべた。南さんもまた、穏やかな表情で微笑んだ。


 よかった、最終的に穏便に済んで。このまま平和が続けばいいな。


 そんなことを思いながら、駅に向かう。


 他愛のない会話(相づちするだけ)をしていると、南さんがさり気なくわたしに手を絡めてくる。


 なんか凄く緊張する。怯えたウサギのように目で無理だよって合図を送る。


 すると、「しー」と、指を唇に当ててウインクをする。


 うっ…可愛い。その可愛さに負けて、自らの意思で手を繋ぐ。


 その様子を陽葵は、蛇のように鋭い視線で見つめていた。


「あーっ!また2人とも手を繋いでる。ズルいよ」


「いやこれは唯から握ってきたんだよ」


 てかこの状況ヤバくない?美少女2人にサンドイッチされ、しかも手を繋いでる。


 この美少女サンドイッチに、わたしという異物が混入してもいいのか?ヤバいSAN値が削れて、意識飛びそう。


「あの、すみません。心臓が限界を迎えて止まりそうです」


 そう言うと陽葵さんが慌てた様子見せる。


「大丈夫?ほらこっちきて」


 分かりましたと、体を向けると彼女はわたしの鼓動を確認するように、胸に顔を埋める。


「柔らかい…じゃなくてたぶん鼓動は、正常値で大丈夫だと思うよ」


「いま絶対柔らかいって言ったよね!でも残念だけど、わたしも唯の胸の柔らかさは知っているからね」


「それどういうこと!?説明してほしいな」


 またしても修羅場の雰囲気を感じながらも、なんとか平穏を保ちながら駅にたどり着いた。


「そういえばそろそろ夏休みだね。夏休みはもっと楽しくて凄いことしようね」


 帰り際にそう言って、陽葵さんはわたしと別れた。そのあと「また明日ね」と言い南さんとも別れた。


 楽しくて凄いことってなんだろうと考えながら、家に向かった。どこか遊びに行くとか?なんだろう?


 唯はまだ知らなかった。彼女たちがクレイジーな存在ということを…


次回から夏休み編です。これから彼女たちの行動が積極的になります。

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