モテ体質だけど女子校なら問題ないよね?ハグにキスにあんなこと…とにかくわたしは美少女百合ハーレムに困ってます!!

ゆずしお

第1話

 セミの声が聞こえ日射しが心地よく、夏の訪れを感じる高校2年の夏。そんな時期外れにわたしは、この百合ヶ咲学園に転校することになった。


 わたしの名前は、小鳥遊唯たかなしゆい。内向的な性格で人付き合いが苦手で、いわゆる陰キャと呼ばれる人間だ。


 前の学校では人との関わりを避けて生きてきたが、どういう訳か恋愛ごとのトラブルに、毎回巻き込まれるてしまう。その状況に疲れ果て、親の勧めもあり異性間のトラブルと無縁な、女子高に転校することを決意した。


 そして、今日は登校初日。


 不安と緊張で胸が締めつけられる。


 学校に目を向けると、そこは女子校らしい明るい雰囲気に包まれていた。


 校内では生徒たちが自由にメイクやファッションを楽しんでおり、陽キャが溢れていた。


「大丈夫…これまで頑張ってきたんだ。今日からわたしは変わるんだ。鮮烈なデビューを飾り、青春ライフを謳歌するのだ!!」


 そう決意し、学園に足を踏み入れる。


 ・・・


 2週間後


 転校して2週間もたったけど、未だに友達がいない。わたしだけ友達作り周回遅れだし、かといって自分から積極的に話しかけれないし。


 放課後なのに、1人でいるのはわたしだけ。


 ―――息苦しい、つらい…


 なんでわたしがこんな所に…場違いも甚だしい。


 周りを見渡せば、キラキラの女子だらけ。陰キャのわたしとは全てが対極。


 単細胞生物のわたしなんかが、人間のみなさまと混ざろうなんて無理があったんだ。


 ミジンコはミジンコらしく慎ましく生きていこう…グッバイわたしの青春…



「ねぇこれからみんなでスタバいかない?」


「南さんもどう?南さんいたらみんな盛り上がるって」



 会話をしている集団に目を向けると、一際ひときわ目立つ存在がいた。


 うわっ眩し!!あれはクラスメイトの南 琴梨ことりさんだ。


 勉強も運動も完璧で、そして圧倒的なビジュアル。


 学校1の美少女と言われている。わたしもそう思う。


 わたしとは住む次元が違うな。


 ここにいると、陽のオーラでわたしが灰になってしまう。あそこに逃げよう…


「南さん大丈夫そ?」


「…ごめん今日はパスで」


 落ち込んだ気持ちを引きずりながら、わたし屋上に向かった。


 生き返るー!人が少なくとても落ち着く。


 今日は無理だったけど、明日から陽キャになろう。陽キャに囲まれて生活すれば、自然と脱陰キャできるはずだ。


 今はこの音もなく、無限に広がる空に身を任せよう。


 あーポカポカ陽気で眠たくなってきたな。これでわたしの陰のオーラを、浄化してくれないかな太陽さん。


 屋上で1人を満喫していると誰かがわたしの世界に入ってきた。


「あの、わたしも混ぜてもらってもいいかな」


 耳を優しく刺激する甘い声のほうを振り返ると、そこには南 琴梨さんがいた。


 な、なぜこんなところに…いまごろ陽キャ特有のスタバで、ティータイムを嗜んでいるはずでは!?


「どうしてこんなところに南さんが?」


「あなたが浮かない顔をしていたから心配で」


 こんなにも美しく、完璧な存在がわたしのことを心配してくれるなんて、夢のようなだ。


「だ、大丈夫です。ちょっと息苦しくなって、屋上で息抜きをしようと、思っただけですから。でも、もう落ち着いたので」


「そう…それは良かった。同じだねわたしたち」


 同じ?陰キャのわたしと、クラス1の美少女の南さんが?


「どういう意味ですか?」


「息抜きに、わたしもよくここに来るんだよね」


 意外だ…


「そうなんですね。なんか意外です。南さんって完璧だから」


「完璧…?そんなことないよ。人の期待を背負ってばかりで、毎日パンクしそうだよ」


 南さんが完璧じゃなかったら、わたしなんかミジンコ以下だよ…


「でも、南さんは頭良くてもスポーツもできて、見た目も…かわいいし」


「そう?みんなから向けられる、理想の自分を維持するので、もう体がくたくただよ」


 てか今わたし、学年1の美少女と一緒にいるんだよね。ヤバい急に緊張してきた。


 少しだけ空気が重いし、面白い冗談とか話したほうがいいのかな?


「そうだ!疲れてるならわたしがハグで癒してあげるよ。小鳥遊セラピーなんちゃって!」


 …失敗した!!完全にこれではないことだけは分かる。


 陰キャすぎて、まともな会話の仕方が分からないよ。恥ずかしい、穴があったら入りたい…


 この沈黙がとにかく気まずい。


 あー誰かわたしをこのまま突き落として下さい…ほんと切実に


「じゃあ…お願いしようかな」


 めっちゃ気を使ってるじゃん!ほんと申し訳ないです…


「じゃあするよ南さん、後から嫌な思いした、とか言わないで下さいね」


「そんなこと言わないよ」


 そう言って、迎え入れるように腕を広げる。


「えい!!」


 ポフっと可愛い音が響き、南さんに抱きつく。


 全校生徒のみなさんごめんなさい。わたしなんかが南さんとハグなんかを。


 この事実がバレたらクラスで晒し首にされるよね。


 てかわたし緊張でめっちゃ汗かいてるけど、臭くないよね?


 南さん、なかなか離してくれないな。そろそろ離れないと、けがれてしまう。


 わたしなんかが、南さんを汚したら…切腹ものだ。


 そう思い、急いで背中に回していた腕を離し、自ら南さんとの距離を取る


 一瞬残念がってるように見えたが、気のせいか?


「小鳥遊さんありがとう…凄く癒されたよ」


 なんて眩しい笑顔だ!たしかにこの顔は、みんな好きになるわけだ。


 …今チャンスじゃね?学校1の美女と仲良くなれたら、高校生活安泰でしょ。


 脱陰キャ…これを逃す訳にはいかない。


「あの!南さん…いきなりですけど、わたしと友達になってください!」


「小鳥遊さんありがとう。これからよろしくね」


 あっさりokをもらえた。今日で全ての運を使った気がする。


 神様ありがとう!!見ててね立派な陽キャになるから


「そういえば下の名前まだ聞いてなかった」


「わたし唯。小鳥遊 唯です」


「唯ね、改めてよろしく」


「そろそろ教室に戻るけど、唯も遅くならないうちに戻ってきてね」


 いきなり名前呼び。これが陽キャ…わたしにはハードルが高いな。


 それにしても南さんは天使のような優しさだなぁ。友達だって実感が全く湧かない。



 教室


 ――小鳥遊 唯…可愛すぎない!?


 急にハグとか言われてビックリしたけど…優しく包みこむようなあのいい匂い。


 全身柔らかくて凄く気持ちよかった。あと顔にずっと胸が当たって……


 女の子どうしのハグなんて、普通なのになんでこんなにドキドキするんだろう…なんだろうこの気持ち…


 唯のことを考えると心音が高鳴ってしまう。


 こうして小鳥遊唯の、百合ハーレム生活の幕が上がる。



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