第2話 そっちの世界

 僕は行き場のない感情に憤りと不快感を覚えながら、ガラステーブルに乗せられたスマホを手に取った。呼吸するかのように自然と指がSNSを開いていた。もう誰も投稿などしなくなってしまったというのに。それでも過去の投稿を振り返って憂さ晴らしをしていると、無性に誰かに合いたくなってきた。この数ヵ月、ドアの隙間から父さんの足は見ても、生身で直接誰かと会っていない。僕は最初に思いついた友だちに連絡することにした。


永畑海ながはたかいで会えないか連絡して」


 スマホは僕の声に反応して、画面上部に吹き出しマークが飛び出すように現れ、すぐに消えた。かいとは定期的に連絡も取り合っていたが、リアルでは会っていない。


 かいからはすぐに返信があった。


「いつも言ってるだろ、野空のあ。俺はもうそっちに戻るつもりはない。お前がこっちに来るならいつでも会ってやる」


 かいの声はうんざりしているようだった。


 なんだよ、うんざりしてるのは僕の方だ。僕はスマホを睨みつけた。時間にして一分くらいだったと思う。


「ちくしょう」


 そうつぶやいて立ち上がり、スマホを引っ掴んで、顔の前まで持ってきた。


「今行くから、で待ってろ」


 僕は結局、かいの言う通りにした。

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