第三話「里帰り」

「………………」

「………………(き、気まずい)」


ユキが言葉を発してから数分程度。

沈黙という雑音が、ユキの耳に嫌になるくらいまで響いていた。


「………(コクリ)」


そしてようやくクロはその言葉を肯定した。


「……そう、なんですね」


何も事情を知らないユキにも理解できた。


この話題については詳しく追求するべきではない、と。



だが、その反応でユキの頭では、ある仮説が立った。


「ーーでも、移動する条件は分かりました。

 恐らく……『自分の思い入れのある場所』周辺に限定されるんですよね」

「………(…コクリ)」


クロが顎に手を当て、少し悩んで頷いた。


ユキは『詳しくは分からないけど多分そう』と言いたかったのだろうと解釈した。


「……てことはつまり、ここと同じくらい思い入れが強い場所に

 行けば何か変わるんじゃないですか?」


「……(ポフン)」


そうと決まれば二人(?)の行動は早かった。


スマホで場所を検索し、時間制限に間に合うようにすぐに向かう。


「ーーあれ?なんか嫌な予感が……」

「……!!(…ハァ!)」


その瞬間、世界は約マッハ10の生命体カイブツを観測した。


「ーーいいいいいいいいいいいいい?!??!!?」


それと同時に、ユキははじめて『死』を身近に感じ取っていた。



ーー到着後ーー



「馬鹿なの!?死ぬかと思ったよ!?時間に余裕あったしもうちょっと

 ゆっくりでもよかったよね?!ねぇ!!ねえ!!」

「…………(ペコペコペコペコペコ)」


クロはユキに怒鳴られていた。当然である。


いくらユキに悪影響が出ないようにと(スピード以外で)配慮したとしても、

訓練などしたことが無い一般子女がほぼほぼ生身でマッハを体験したのだ。


普通なら跡形よなくミンチになるので、確実にトラウマものである。



閑話休題まぁ、それはさておき


「……移動してませんね。結構が時間経っているのに」

「……(コクリ)」


結果として犠牲(正気度)はあったものの、成果としてはだいぶ大きいものとなった。


「……それで、ここがクロさんの思い入れの場所なんですか?」

「……(コクン)」


目の前にあったのは、一軒の昔にはありふれていた平凡な古民家。

色濃くなった木材や昔ながらの瓦たちが、より一層その存在を際立たせていた。


「……この鈴鳴らしたら良いんでしょうか?」

「…(コクン)」


チリンチリンーー。


鳴らして少しすると、老人の男性が一人出てきた。


「あぁ、いらっしゃっ…………おまえ、セツなのか?」

「……(コクリ)」


「すうぅぅ……こりゃめでたい!婆さんや!セツが帰ってきたぞ!」


老男はそう言いながら、猛スピードで家の中に戻って行った。


「……実家なんですね、ここ」

「……(コクン)」


親しい人しか見えない(最初に見えたのは詳細不明)らしいので、

恐らくあの人たちはクロさん……いや、セツさんの父母なのだろう。


「ほら、立ち話もなんだし上がれ上がれ」


特に断る理由も無いため、ユキはその言葉に甘えることにした。



「……そうかい、その子が私らの孫なのかあ」

「かわええのぅ……ほら、菓子をやろうぞ」

「あ、ありがとうございます…」


設定上、ユキたちは『親子』だということにした。

義娘(セツさんの妻)は別にいるのか、「息災か?」と聞いてきただけで

その後特にユキたちに全く深掘りをしてこなかった。


「……俺らが死ぬ前に、また顔見せに来いよー」

「……(ノシ)」

「じゃあねー、おじいちゃんおばあちゃん!」

「「またなぁ、ユキ!」」



ーー帰路ーー


「いやぁ、、、それにしても良かったね。途中で『移動』が発生しなくて」

「……(コクコク)」


「ーーそれにしても、無口がデフォルトだなんて思わなかったなぁ……

 私はどう詳細を知れば良いの?」

「……(…スッ)」


セツが指差した方向に文房具屋さんがあった。


「……あ、なるほど。確かにそうすれば良いか」



『ありがとうね、わざわざ私の為にお小遣い使わせて……』

「良いよ良いよ、もうセツさんは親友みたいなものだし、気にしなくて良いよ」

「……(コクン)」


ユキは紙とペンを購入し、それをセツに渡した。

これにより、詳しい意思疎通が可能になったのは僥倖ぎょうこうだった。


「ーーそれじゃあ、帰ろっか?……今度はちょっとスピード抑えてね??」

『大丈夫、もうマッハは出さないから』


それでも普通に早かった。無念。



「……(ノシ)」

「いや、待ってセツさん。多分見えないだろうけどお母さんにも挨拶して行って。

 ……私、家のことが忙しくて今まで友達一人も出来なかったの。

 だから、「大丈夫、心配無いよ」っていう風に言いたくて」

「…………(ウーン…コクン)」


セツは、ユキの家に行くことになった。


「……ふふ♪こうしてると本当に家族みたいーーねぇ、お父さん?」

「………」


ユキが少しからかって、セツを『父』と呼ぶが、どうも反応が悪い。


そうこうしていると、家に着いた。


「ーーただいま、お母さん」

「あら、ユキ。おかえーーっっ!」


ユキの母は口に手を押さえたまま、一点を凝視して硬直していた……

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