第二話「交流」
その後もゴミ捨ての合間という短い時間ではあるものの、
大男との交流は続いていきあれから数ヶ月の年月が経っていた。
「あ、おはようございます。クロさん」
「……(ペコリ)」
ユキは大男を『クロ』と名付けた。
由来はもちろん、全身を真っ黒な服装で覆っているからである。
当初はユキの決めたその『あだ名』に大男本人も困惑していたが、
次第に慣れてきたのか普通に接している。
そして、この数ヶ月でユキがクロについて理解したのは以下の通りだ。
・言語を話せない、しかし意思疎通は可能。
→ 話したいらしいが、言葉が出ないらしい。
それ故にためぎこちないが、コミュニケーション自体は十分可能。
・いつもゴミ捨て場周辺に居る。
→ 一定時間離れることは出来ても、強制的に戻される。
なんでもここは『思い出』の場所なんだとか。
・驚異的な身体能力
→ 少なくとも数キロであれば一瞬で移動できる。
(スチール缶満パンの)ゴミ袋を秒で手乗りサイズまで圧縮が可能。
・他人からの認識阻害
→ ユキ以外には例え通せんぼうしても気付かれない。
当事者は進めないことに疑問すら感じていない。
ユキは結論として「『不思議な人間』だなぁ」と思うことにした。
そもそもユキがどれだけこの存在の現存を唱えても
『狂言』としかとらえようがないため、それは正解と言えた。
今のところは特に害を与えるような
「気にしていても仕方がないし、ちょっと不思議な近所付き合いと思おう」と解釈した。
クロでさえそれを聞いたとき思わず半目で呆れたくらいには図太い精神性であるが、
それを直接伝えないのでユキ本人はそのことを知る由も無かった。
「……じゃあ、またね。クロさん」
「……(ノシ)」
クロはその言葉に手を振って返した。
ーー別の日ーー
「それでね、そこのスイーツが美味しくてーー」
「…(シュン)」
それはユキが普段と変わらずクロと雑談をしていたときだった。
クロがほんの一瞬だが落ち込んだような『動き』をしたのだ。
「……あ、ごめんなさい。クロさん誰にも気付かれないし、
ここから動きにくいから外食行きづらいよね……」
「……(フルフルフルフル)」
クロは『そんなことは無い』と言わんばかりに猛烈に首を横に振りたくる。
「いやいや!これは私が悪いよ。デリカシーが無かった……」
「……(ポリポリ)」
ユキはその後、それについての話題を続けようとするもクロによって
巧みに躱されて結局それ仕舞いになってしまった。
遅くなり過ぎると母が心配するので、早めに帰らないといけないからだ。
……ユキは下校後に家で家事をしながら、「喋らないのにあそこまで話題を躱せるのか」と妙にズレた方向に感心していた。
(でも、多分クロさんだってそういう事したい筈だよね……)
ユキは思考を巡らせた。その結果ーー。
「ーーということで、インターネットで怪奇現象についての情報をまとめました!」
「………(???)」
何故か、『混沌』としか形容できない状況が発生した。
「クロさんは、多分『怪奇』の類いだと思うんですが……
そこでそれらについての記事を読み漁ってノートにまとめました」
「……(ポフン)」
クロが握り拳でもう片方の平手を叩き、『なるほど』のジェスチャーをする。
「というわけで、明日から2日休みなので早速検証して行きましょう!」
「……(オー)」
……この状況の異常性を指摘できる存在は、この場には居なかった。
ーー翌日ーー
「おはようございまーす」
「…………(ノ……?)」
ユキは普段着ないスポーツウェアを身に
「普段着が汚れると困るから」故の選択である……が、
あまりの気合いの入れようにクロはびっくりしていた。
「では、先ずはどれくらいの時間かを計りましょう!」
「……(オー)」
その掛け声で、恐らくこの世界の人類史上で前代未聞の検証が始まった。
まずユキがストップウォッチを構える。
そして、クロがゴミ捨て場を離れて戻るまでの時間を計測すると……
「……ジャスト3分かぁ」
「……(コクン)」
短いことは理解していたが、いくらなんでも短過ぎるとユキは感じる。
「これじゃあどん◯衛すら満足に食べれないし……」
「……(ズコ)」
だが、やはりユキは感性がズレていた。
クロもこの少女の感覚基準に若干引き気味となっている。
「……よし!次は距離ですね!」
「……」
そう巻き尺を伸ばして構えながら、ユキは声を上げた。
結果としては『ゴミ捨て場からある程度
理由としては表のときは移動しなかった距離以内でゴミ捨て場の
裏に回ったときに、クロの移動が起きたからである。
「ーーてことは……『距離』が問題じゃない。ってことよね」
「……(ウーン)」
しかし、「それだけ分かってもどうしようもない」とクロは考えたがーー
「ねぇ、クロさん。ここには何か『思い入れ』があるの?」
「…………」
…その一言により、周囲の時間がまるで止まったかのように静けさが濃くなった。
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