[短編]ゴミ捨て場の大男

夕焼けのかげ

本編

第一話「謎の大男」

あるところに、一人の女の子が住んでいた。


名を「ユキ」といった。姓は田村。


ユキはまだ年端がいかない女の子しては働き者で、

同年代の男子と大差ない体力を備え体は丈夫だった。


朝に早く起きて身だしなみを整え、ゴミを出しに歩いて行き、

帰ったら料理を作り、洗った食器を片付け、洗濯物を干して畳んで……


そのような生活を学校に入学してからも

かれこれ10年も続けているというのに、

一度も疲れを出したり病気になったりもしていないのだ。


父はユキが物心つく前に死んだ。

その埋め合わせか、そんなユキのことを母はたくさん褒めた。

ユキは、それが嬉しくてますます頑張ろうと思うのだった……



「……よし、今日はこのくらいかなぁ」


ある日、ユキはいつも通りの時間に起床して日課をこなしていた。


今日は燃えるゴミの日である。

だからユキは袋にそれらを詰めていく作業をしていた。


「……起きてるの?ユキ」


ゴミ袋を持って出掛けようとしたとき、声がした。母だ。


「あ、おはよう。お母さん」

「ええ、おはよう。ユキ」

「じゃあ、今からちょっとゴミ出しに行って来るね」


「待って、ユキ」

「?」


ーーちゅ。


ユキは、おでこに柔らかい感触を感じた。

それが母の唇であることは言うまでもない。


「いってらっしゃい、ユキ。ごめんね、私の仕事が忙しいばっかりにいつも……」

「ううん、そんなの気にしてないよ。

 それより、今は寒いんだからあんまり玄関に長居してると風邪引くよ」


「……ありがとう。道には気をつけてね」

「んもう、お母さんたら心配しすぎだよ。

 ゴミ捨て場なんて、歩いて数分のところなのに……」

「こら、ユキ。そんなこと言わないの。いつ何が起こるか分からないんだから」

「はーい」




「フンフンフン♪フンフンフンフフーン♪」


ユキは、家を出て少しした下り坂を歩いていた。


いくら体力自慢のユキとはいえ重いものを持つには苦労するため、

ゴミ捨て場が下り坂の先にあることはとても都合が良かった。


「フンフ……ん?」


ユキは人を見つけ、鼻歌をやめた。


それはかなりの大男であり、ユキはその男を超える人を知らなかった。

男は身を黒いコートで包み、同じく黒い山高帽を被ってゴミ捨て場の横に立っている。

しかしそれ以外は特に特徴的でもない、いわゆる『普遍的な顔』をしていた。


「………」

「……こんにちは」

「!」


急に話しかけられてびっくりしたようで、少し驚愕したような表情をとる。


「あ、ごめんなさい。びっくりさせちゃったみたいで……」

「………(フルフル...ペコリ)」


大男はその言葉を否定するように首を振る。

その後、挨拶をするようにお辞儀をした。



その後ユキは、その大男についてさほど気にせずゴミを置いて帰っていった。


……大男は、その後ろ姿をじっと見つめていた。



ーー翌日ーー



「うぅん……もう朝ぁ?」


ユキはいつもしっかりと起床する。

だが、何故か今日は目覚めが悪かった。


「うぅ……今何時かなぁ?」


ユキは時計を確認する。時刻はーーぴったり午前8時を指していた。


「……ほへぇ?」


やばい。今日は月一のビン回収の日なのに。


ーーこのままじゃ出遅れちゃう!


「あわわわわわ!!」


服を着替えてる暇は無い。たかが数分だパジャマでも構わないだろうとユキは判断する。

ユキはすぐに空瓶を詰めた袋の先を握りしめて家を飛び出して行った。



いつもの坂に差し掛かると、そこには出発したての回収車があった。


「待って下さーーーい!!」


ありったけの力を込めて叫ぶが車は止まらず加速する。

どうやら運転手にユキの声は聞こえて無いようだった。


追ってはみたもののやはり少女と車では比較にならず、すぐに見えなくなってしまった。


「……あーあ、行っちゃった。んー、どうしようか……」


誰に聞かれることも無いことは分かっているが、思わず呟くユキ。


ーーしかし、その声に応える存在がいた。


「……」

「ん?……あれ、昨日のおじさん?まだ居てたんですか?」


そう、そこには昨日ユキが見かけたあの大男がいたのだ。

さっきはあまりの集中力により見えて無かったが、ようやくユキはその存在を知覚した。


「あ、あのすみません。さっき大声出しちゃって……」

「…」


大男は喋らなかったが、片手を差し出した。


「…え?なんですか?」

「……」


ユキが理解していないことを悟ったのか、今度はゴミ袋を指差す。


「…もしかして、代わりに捨てに行ってくれるんですか?」

「……(コクン)」


大男は大きく頷いた。


「あ、ありがとうございます……お願いしますね」


ユキはそう言い、ゴミ袋を渡す。


大男が受け取った瞬間ーーその姿が横方向にブレた。


「え?」


ユキは一瞬、理解が出来なかった。

だが、しばらくして「大男が猛スピードで走った」という仮説に行き着く。


「いや、ないないないない……そんなのあり得なry」

「……」


気付くと大男が目の前に居た。


「……えっとー……あなた、何者?」

「……(ポリポリ)」


ユキが問うと、大男は困ったように頭をその手でかくのだった。

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