芸術家

第1話

　世界的有名な芸術家ササキ氏が活動を休止しているという噂を耳にした記者は、早速ササキ氏の元へ取材に向かった。

「ササキさんはここ数年活動されていないみたいですが、もう作品の制作はしないのでしょうか？」

「いや、今でも作品の制作は続けているよ。」

いったいどういうことだろうか、記者が質問するより先にササキ氏は答えた。

「私はね今まで様々な作品を作ってきた。ある日完成したばかりの作品を誤って壊してしまったことがあったんだ。」そんな残念出来事をササキ氏は淡々と語っている。

　「もったいないですね、その作品もさぞ素晴らしいものだったのでしょう。」記者は悔しそうな表情で話を聞いていた。

　「でもねその時思ったのだよ、作品という一つの世界の創造と破壊を私一人で行った。神にでもなったようで気分が高揚したんだよ。」

　「まさか、今も制作したものを壊しているから作品を公表していないのですか？」信じられない。

　「あなたはきっと長年活動を続けてきて疲れてるんですよ。しばらく休むべきです。」記者の強気な口調に驚きつつもササキ氏は納得し返事をした。

　「そうだね、そうしよう。じきに子供が産まれて忙しくなることだし。」

「そうなんですか、おめでとうございます。楽しみですね。」

「そうだね、とても楽しみだよ。」ササキ氏は怪しげな笑みを浮かべていた。

　数ヶ月後、ササキ氏は子供を殺害した罪で逮捕された。