03 猫と寂しさ
その日はルリがマンガを貸してくれるというので部屋で待っていた。肉じゃがの味付けもバッチリ。酒も用意しておいた。
「こんばんは。どっさり持ってきましたよ」
ルリは大きな紙袋をダイニングテーブルの上に置いた。
「おっ、こんなに?」
「兄弟モノ以外も持ってきました! オススメの作家さんいてるんですよねぇ」
それからルリとBL談義である。ルリが紹介してくれたマンガは絵柄も好みだしストーリーも切なくてよかった。
「そろそろ夕飯にするか」
「待ってました!」
しらすが来るまでは、瞬と毎晩一緒だったのになぁ……。俺はルリにも愚痴った。
「しらす、しらすってうるさいんだよ」
「まあ……瞬くんってハマりやすいとこありますからねぇ。わが子同然なんでしょう」
「俺のこと構ってくれなくなった……」
ルリはぐびっと勢いよく缶ビールを飲んだ。
「まあまあ、今日は飲みましょ!」
肉じゃがを褒められ、調子に乗って飲んでいたら、すっかり酔いが回ってしまった。ルリを送り出したところまでは覚えていたが、気付くとベッドの上だった。頭痛がした。
「瞬……」
心細い。俺は連絡もせずに瞬の部屋に行くことにした。
「兄さん……来るなら言ってよ……」
「いいだろ、兄弟なんだから」
「うわっ、お酒飲んでるね?」
玄関で瞬を抱き締め、キスをしようとしたら顔面を掴まれた。
「だから、しらすがいるからそういうのは無し」
「ケチ……」
しらすは寝ていたようなのだが、起き上がって俺の足元にまとわりついてきた。
「なんだ、また大きくなったな」
「仔猫の成長は早いからねぇ」
それから、瞬はしらすの話ばかりしてきた。
「昨日ワクチン受けてきたんだ。キャリーケースに入ってもらうだけで一苦労でさぁ。病院行くのわかってたみたい」
「ふぅん……」
ベッドに入り、瞬の首筋の匂いをかいだ。
「瞬……しよう……」
「やだ。一人で何とかして」
「じゃあ明日うち来いよ……」
「まあ、ちょっとだけなら」
瞬はあっという間に寝付いてしまった。一人で何とかしろと言われたのでそうした。
瞬に叩き起こされて、俺はふわぁとあくびをした。
「もう……お酒入るとなかなか起きないんだから」
しらすは朝ごはんを食べており、俺のことなど目に入っていないようだった。
「じゃあしらす、兄さんの相手終わったらすぐ帰ってくるからね」
「何だよそんな面倒くさそうに」
「そんなことないよ? 僕だって兄さんに甘えたかった」
じゃあ……いいか。途中でコンビニに寄ってパンを買い、コーヒーと一緒に頂いた。
「おいで、瞬」
「んっ」
腕の中に収まってニコニコこちらを見てくる瞬。猫みたいだ。猫が猫飼ってる。
「っていうか、兄さん僕の部屋で抜いたでしょ」
「一人で何とかしろって言うから」
「もう、悪びれないなぁ」
それから会えなかった分の想いをたっぷりぶつけてやった。瞬の白い肌は痕まみれになったがこのくらいは許してもらわないと。
「じゃあ、兄さん帰るね」
「もうちょっとゆっくりしていけよ」
「しらすが寂しがるといけないから」
「俺だって寂しいんだよ」
瞬の胴をガッツリ掴んで舌を這わせた。
「あんっ……もうっ……」
流されてくれて、もう一回した。瞬が帰った後、冷蔵庫の残りの食材を使ってパスタを作った。しめじとベーコン。味付けはオリーブオイルと醤油。我ながら旨い。
「はぁ……瞬……」
暇を潰そう、とルリに借りたマンガをどんどん読んでいった。彼女にオススメされたものもいいがやっぱり兄弟モノ、最高。弟が執着的だとなおいい。
今までは瞬は俺にだけのめりこんでくれていたのに。やっぱりしらすが憎い。でも、猫に罪はない。可愛くないこともない。
気付けば俺は猫の撫で方を調べていた。次行った時に実践してみようか。
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