1-5

「見間違いじゃないだろうねえ」


「見間違いじゃない」


 だらしない体勢でこちらをじろりと睨む山彦を前にして、目有は冷静に言った。


「偽物」と山彦が言いかけると、「偽物じゃない」と目有は遮った。


「ふーむ」


 山彦は食卓の真ん中に豪快に寝転ぶと、大きなあくびをした。


「寝ちゃだめだよ」


「分かっとる分かっとる。……他に考えられるとしたら」


「呪術はかかっているみたいだった」


「別の呪術が重ねてかかっているのかもしれん」


「絶対にないとは言い切れないけど、九頭龍国で普通の生活をしていたら、呪術に関わること自体が少ないでしょ、可能性はすごく低いと思う」


 しとしとと、静かな雨の音が聞こえてきた。二人は橙色のランプを中心に、額を寄せて話している。ランプはほのかに暖かく、山彦はまたあくびをした。


「そういえば、五馬自身は、あの人形の性質を知っていたの?」


「どうだったかなあ」

 山彦はこちらに尻を向けて言う。


「忘れちゃったの?」


「説明したとは思うが、あのボウズがちゃんと理解していたかどうか……。ただ、文字は間違いなくボウズ自身が書いたものだ」


 山彦は気持ちよさそうにひっくり返ると、腹を見せた。白い体には、茶色の斑がところどころにある。耳と鼻は華やかな赤色で、可愛らしい。目有は山彦が自分の脇腹をぺろぺろ舐めるのを、奇妙な心地で眺めた。


「お母さんに見てもらえば、何の呪術がかかっているかも分かるよね」


「そうだな」


 それぞれがしばらく考え込んだ後、山彦が口を開いた。


「考えるべき点は二つある。一つ目は、二人にどこまで話すか。人形のことを信じてもらうために、わしらのこと全部話せば信じてくれるだろうが、わしらにも危険が及ぶだろう。二つ目は、あの人形が本物だとしたら、二人がどうするか。探しに行くと言い出したら、止めるべきか、協力すべきか……」


「六鹿は……」


「絶対に探すって言う」


「そうだろうな」


 二人は、夜が更けるまで話し合った。時間が限られていたため、眠気を噛み殺しながら、必死に頭を働かせた。話がまとまる頃には、雨は止んだ。


「最後の確認だ。あの二人のことを、本当に信じられるか?」


 目有は、真面目な顔でこっくり頷いた。


 それを見た山彦は、細い目をもっと細めると、天井をあおいで「もう限界じゃ」と呟いた。


 ころんと体を倒すと、すやすや眠り始める。「寝ちゃった」と独り言をこぼし、目有は山彦のお腹をこっそりと撫でた。

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