第3話
男は毒づくと、シートの上に躍り上がった。背もたれを長い足で蹴って跳躍、ローリングソバット――回転後ろ蹴り――をエイリアンに叩き込んだ。束ねた髪が軌跡を描く。男のブーツの踵から伸びた刃物がエイリアンの頭部を引き裂いた。
返り血を器用に避けて、彼は乱れた服装を整えた。
「わー、お兄さんすごい」
姫ちゃんの拍手がぱちぱちと鳴った。ショートパンツから伸びた足をバタバタさせて、子供みたいに興奮している。
「お兄さんじゃない、
植木と名乗った男は前髪を掻き上げながらタバコの箱を取り出した。
「クッソ、禁煙だったな」
すぐに思い出したように吐き捨てると、潰れかけた紙箱をポケットに捩じ込んだ。
「カッコいい靴ー、どうやって刃を出すの?」
姫ちゃんが戻ってきた植木の足元を興味津々で覗き込む。植木はズボンの裾を捲って見せた。ブーツに見えたのは正しくはサイバネ義肢で、メタリックな鈍い輝きはアンドロイドに似た無機質さだった。
「高いオプション代かかったけど、こんなとこで役に立つとは思わんかったね。俺こういうギミック好きでさ」
「あー、わかるー。私も」
続く姫ちゃんの言葉は、キシャアという鳴き声に遮られた。
私達の前方、つまりコックピットの方から姿を現したのは、植木がのした個体よりも一回り大きいエイリアンだった。音も無く天井に貼り付くと、昆虫みたいな動きでこちらに向かってくる。
「姫ちゃん危ない!」
覆い被さろうとする私を、姫ちゃんはひらりと躱して通路に出た。
「足技なら負けないんだから」
エイリアンが頭上に来た瞬間、姫ちゃんはバク転しながらの蹴り――いわゆるサマーソルトキック――を放った。黒いニーハイソックスを履いた脚がしなる。
床に落ちたエイリアンの首元に、姫ちゃんは鋭く踵を落とす。艶のあるボブヘアが、動きに合わせてフワリと膨らむ。カチューシャは微塵もズレることなく頭上に収まっていた。
ゲッという汚い断末魔を残してエイリアンは動かなくなった。
「やったあ! さすが姫ちゃん!」
私の歓声が、静かな船内中に響き渡った。
そう、静かな。高揚感は違和感に掻き消された。
おかしい。こんなに騒ぎが起きているのに、乗務員が誰一人姿を見せない。
そもそもこいつ、コックピットの方からやってきたよね。
私が嫌な結論に辿り着く前に、姫ちゃんと植木は走り出していた。
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