第2話 取るべき手を選ぶ。


軽く頷いたのを返事とされたのだろう、訳の分からないままあれよあれよと馬車に押し込まれて屋敷に着いていた。珍しく酔っていたとか何とか護衛のトルードに言われたが十中八九魔術によるものだろう。意識混濁と干渉辺りだろうか、滅ぼされたのに納得が行くような脅威といって差し支えない。ふる、と肩が震えたのを感じる。怯えているのかもしれない、自分の知らなかった、知らされずにいた何かを教えられることに。


「お嬢様?どうかなさいましたか。」

「いや、何でもない。少し考え事をしていただけだよ。もう下がっていい、おやすみトルード。」

「……そうですか。おやすみなさいませ。」


部屋の寝支度を整えながらも問いかけてきた彼の言葉を封じるように就寝の挨拶をする。そう、表では口にしないが彼は私が女だと知っている。クーゲルヴェルド家の義父、義兄、それから付けてくれた側仕えであり騎士のトルード。国王に定期的に私に魔術をかけていた顔を見せない男。……まぁ、それの正体が一応顔見知りのジャック・クライストだった訳だが。ともかく、身近な存在で魔術に掛かっていないのはトルードだけと言えた。故に重用しているし信頼もしている。だがそれでもクーデター紛いのことをしようとしていることなど言えるはずもない。そもそも今まで魔術で完璧に秘匿されていた私が女人で王家の血を引くという真実とて、明かしても証拠も無ければ訴求力もない。寝台に腰掛けてため息を吐く。


「────今更、何をなせると言うのだ。ただ生きただけの存在に。」


そう、心惹かれたのは事実だ。ただ息を潜めて貴族の一人、歯車の一人として生き続けることに退屈さを覚えていたから。……正妻の子をメイドの子と交換した悪徳を糾弾したいと思っていたから。

だがその機会はついぞ訪れなかったし、訪れる必要も無いと思っていた。私の存在を公表する、復讐するというのはきっと奴の魔術を使うのなら国を揺るがすような結果になるのだろう。ただ利用されるだけならきっと民草の血が流れ、周りの国と戦にすらなりかねない。数度深呼吸をして、拳を握った。

私は復讐する理由を見つける為にクライストと行動するのだ、と決めた。どんな手法かすらまだ明かさない彼奴はニヤニヤ笑って此方を馬鹿にするかのように振る舞うだけの存在だ。だがその言葉にはいくつかの価値があった。現王の治世を成り立たせたい、とは思わない。その影響から守りたいのは民草だ。ならば腹をくくれ、クラリス・セラ・ウェルディ。名を棄ててでも民草を守る決意を固める時は今、ここに来たのだから。


一人決意を固め、今夜は眠ろうとした時だった。コンコン、と窓が叩かれる。そうしてバルコニーから声がした。思わず想定外の声に肩を跳ねさせる。


「ヴィル、少しいいかい?煩い奴から逃げてきたんだ。匿ってくれ。」


その声は義兄であるクーゲルヴェルド家の長男、カルディアのものだった。


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魔法

神々の加護により使えるとされるもの。9歳の時に神殿で洗礼式があり魔法の適性を確認される。大枠として火、水、土、風の何れかの属性に分類される。副属性に光、闇、強化、知恵、錬金、などなど様々なものがあり常に新たな副属性が発見されているとすら言われる。属性は複数持つことが確認されており、魔力の多い、古い家柄の強力な貴族であればあるほど数多く所有するとされる。平民は持っていても明確に使えるレベルまで魔力が達していない事が殆どで高い魔力を持って生まれた場合は大抵養子として引き取られるか通い神官となる。

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すり変えられ王女は男装騎士として生きてきた〜美形愉快犯と手を組んだ私は復讐する〜 多羅千根らに @tarachine831

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