第49話 魔王城

 王都アウグストゥから東に1㎞ほどいった平原で、エリカ、クバラ、茉莉そして私は集合していた。

 私が死んだり【夢浮橋】が使えなくなったりすれば、帰ることはできない。


「じゃあ行くよ!」


 しかし、今さら聞くまでもない。今ここで、魔王は討たねばならない。戦争の落とし前はつけてもらわねば困る。覚悟はとうにできていた。

 狙った座標へと移動する。練習したとおりだ。


「敵の防御も馬鹿にできないかも。空間魔法が使える奴は魔王ぐらいしかいないはずなのに、対空間魔法の防護を敷いている相手だ。どんな罠があるか分からない。みんな、気を付けていくよ」


 なぜ私に魔王城の場所が分かったか。それは魔王城の堅固さにある。空間魔法の使用時まで気づかなかったが、ある空間だけ空間魔法に干渉する卵型の結界に防護されているのだ。たぶん玉座の間か、普段の居室のどちらかだと思うが、直接乗り込めないようになっているのだろう。 


 今回はその盾の派手さと異質さと独自さゆえに、座標を教えることになったというわけだ。見えないことが重要なこともある。





「ここが魔王城ね。その割には、がらんどうだわ」


 城そのものは立派だった。しかし、門はあれど門扉がない。詰所はあれど番兵は居なかった。


「みんななんで無自覚ネ? 凄まじい瘴気よ。並みの魔物は寄り付けないネ」


「なるほどなあ、居たとしても魔王軍将と魔王だけってことか」


「茉莉は大丈夫?」


「大丈夫ネ。ただし、瘴気のせいでアナスタシアの気配が分からないネ。不意打ちに注意するヨ」


「分かった。進んでいこう」


 冷静に考えれば、正門から堂々と侵入するのは、バカみたいと思うかもしれない。でも、裏口も知らないのだ。

 魔王城は美しかった。一言でいえば西洋風の庭園だ。庭には色とりどりのバラが咲き乱れていた。噴水もあったし、花のアーチさえもあった。見る者は私達という敵以外に居ないのに。


「不気味だな」


「まるで人間が作ったような感じね」


「それ以上になんかこの花々生きてる気がしないんだよね」


「確かにそうネ。虫一匹いないのも不気味ネ」


 警戒はしつつも口は噤み得ない、そんな雰囲気があった。





 本丸に向かって歩いていく。なぜ本丸が分かるか? 空間魔法防御の存在も大きいが、この城が城塞と言うよりは宮殿だからだ。道なりにそってこっちが奥に違いないという感覚に従って歩いていくだけで、どんどん奥に進んでいく。


 本丸の手前最後の建物かというところに、番人が居た。番人と出くわして安心するのもどうかと思うが、今までいない方が不自然だった。


 しかし酷いな。様々な魔物の肉体が継ぎ接ぎにされた球状の肉塊だった。おそらくかつてここに配置されていた魔物なのだろう。オーガ、悪魔っぽい魔物、などなど強そうなやつが一塊にされている。

 生きていようはずがない。ということは奴の仕業だろう。


「……」


「ひでえな」


「これが瘴気の源ネ。うぷ」


「無理しないで茉莉。私が終わらせてくるよ」


「いや、ここはアタイとクバラがやろう」


「ええ。今まであなたにおんぶにだっこだったから、少しは花を持たせてほしいわね」


 そういうと二人は敵に向かって駆けていく。私は茉莉の代わりに警戒しておこう。

 戦闘は、なかなか激しかった。

 魔法攻撃の可能な魔物が中心にいるらしい。炎の塊やら氷の槍やら雷やらが飛び出している。しかし、さすがコンビを組んでいた一流2人である。


 敵からの遠距離攻撃を難なくいなしながら肉薄する。

 そして【戦域構築:熱砂灼陽宮サニーデザート=アフタヌーン】。

 確殺範囲が眼前に広がる。こうしてみると戦域の初見殺し性能の高さに驚く。いつも閉じ込めるか閉じ込められるかだったから意識しなかったが、かなり広い。


「うぷ。ごめん、葵。落ち着いたね」


「うん。大丈夫。でも、クバラが戦域構築中だから、何もすることがない。ゆっくり待とう」


 さすがにあの戦域を突っ切って加勢するのは本末転倒だ。


「しかし、いいコンビネ」


 たしかに、二人はかみ合った歯車のようだ。正面からはエリカが物理と物量で、後方からクバラが炎の魔術で支援し、敵の背後は戦域がく。

 結局、ネクロマンサーの番犬は、10分ほどの戦闘で動かなくなった。


 さて、次に進もう。

 あとはひたすら無人の宮殿である。美術品も骨董品もきれいな姿をしているのに、命の気配が全くしない。

 空虚な城を進んだところで、本命の番人が待ち構えていた。

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