第43話 宇治十帖

「どう?私にかまけている間に、魔王軍は半壊中なわけ。魔術攻撃の雨がここに届くのも時間の問題ね。」


 魔王軍将は現在3体。さきほど影狼の長であろうゲオルグは無力化した。


「これほどとはな。」


「それだけじゃないよ。相変わらず喋りすぎだねえ、ナオミちゃん。」

 【戦域構築:匂宮】!!

 

 辺り一面のけし畑。


「うわ、けしの臭い?これ大丈夫な奴だよね?うん、大丈夫っぽい。」幻覚効果とかは無さそう。


「「「!?」」」


 3軍将とも驚いたようだ。フェルディナントとドン=ギュウはナオミの技を私が使ったことに。

 そしてナオミは、


「・・・これは真祖の戦域!?お前が我らの祖たる技をなぜ?」


「最初にドン=ギュウと戦った時に気付くべきだったんだけどさあ。私、もしかして吸血鬼じゃない?肌から魔力を吸うタイプのさあ。」


「・・・・」


 ナオミは絶句している。


「ナオミ?これはいったいどういうことだ?おい、ナオミ!?」


「良くはわからぬが、この雰囲気並々ならぬ威容。馬鹿でも分かる。フェルディナントよ、戦域融合だ!」


「「【戦域融合:極橙日黄金梁】!!!!」」


 しかし何も起こらなかった。いや、私が起こさなかった。


「私と戦域合戦しようなんていい度胸じゃん。」


「ぐぬう。これほどとは。しかも小娘、おぬし何やら回復しておらぬか?」


 すこぶる調子がいい。だがタネも割れた。

戦域構築:匂宮スカーレットローズガーデン】は戦域の境界に撒かれた血を吸うことで何らかの能力増強を図る戦域だ。私の【匂宮】は、戦域中のすべてから魔力をかき集める。接地の必要は無い。私のタンク機能が弱いせいで、根こそぎ奪い去るという芸当は出来ていないが、これは素晴らしい。鳥の肺は息を吸いながら吐くことができるようだが、魔力を消費する側から補充されていく。魔物と言う酸素がいてくれる限り、私は酸欠にはならない。魔力切れの心配はない。


「ぐぬぬ、認めたくはないがやはり真祖か。初めて邂逅したときの面妖な服装もこれで合点がいく。これで異世界からの来訪者ということも確定だな。」


 おっと、ここで重大情報。私の先祖、やっぱりこっちに来ていたかもしれない。こっちに来ると魔物になっちまうのかな?


「聞きたいことができてしまったから、殺すのは最後にしてあげるよナオミちゃん。あ、さては仲間を売ったんだ?最後まで生かしておいてくださいって意味かな?」


 煽りは生死を懸けた武人の必須教養、戦闘儀礼。欠かす方が無礼だ。決して忘れてはならない。


「ぬお!?ナオミ?そんな魂胆があるのか?」


「「あるわけなかろう乗せられるなドン=ギュウ。」」


 フェルディナントとナオミの声が重なる。


「技に関しては反応を確かめようかな。もっとも人間と吸血鬼じゃ勝手が違うから、伝承のされ方が変わってるかもしれないけどね。【手習】が何かは分からないから、とりあえず【総角あげまき】。」


 手刀に魔力を纏わせて刃を作る。長さは最大1mくらいかな。可変式。ただし、二刀同時じゃないと出現させられないな。むずかし。


「このままではじり貧だ。一気に潰す「【宿木やどりぎ】。」ぞ・・・。」


 回復役をになうフェルディナントの胸を、手刀で一突き。


「うん、【宿木】は体力の回復になるのか。助かる。」


「なぜ・・・、教わってもいないものを習得していくんだ。」


 ナオミが戦慄している。どうやら彼らにとっても【宿木】は体力回復の術らしい。


「戦いなんて行きつくところはみんな一緒だよ。やりたいことに向かってできることをやるだけじゃない?」


「おのれ!【雷斧】!」


 しかし無意味だ。今の私に魔術は栄養補給にしかならない。


「もう効かないよ。【胡蝶】!」


 心臓に掌撃。鼓動のタイミングに合わせれば、心臓は止まる。


「まだだ、【雷斧】!」心臓に魔術を撃ってマッサージか?させんよ。


「私の戦域内で魔術が使えるとでも?」


今度は魔術自体を発動させてやらない。安らかに眠れ。楽しかったぞ。



「さて、やっと、二人っきりになれたね。ナオミちゃん。」


「いや、そうでもないらしい。」


 ナオミはなお、不敵に笑んだ。




「あらあら魔王軍将が4人がかりで苦戦中?ってもうナオミ以外死んでんじゃん。」


 現れたのはネクロマンサーのアナスタシア。虹の宝珠プリンキパールを持っている。軍将の中でも最も魔力が多くなっている。


「遅かったね。ここで仲良く葬ってあげようか。」


「アナスタシア、戦域構築だ!」


「言われなくても!!【戦域構築:惨骸奧院伽藍堂】!」


 戦域は構築されない。私の戦域が押しつぶしている。

 しかし、戦域は点としては存在している。戦域同士はごく微小な点で接している。当然、奴の戦域から私の戦域を介して魔力が入ってくる。そしてそれは毒だった。これは濃密な死の魔力。呪詛のこもった魔力だ。


「ぶべ、」


 いけない。生物が吸ってはいけないタイプの魔力だったか。私の意識はそこで途絶えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る