第42話 盤面整理
「ああ、やっと鳴ったな。静の剣破れたりだ」
「やってくれるじゃない。ナオミちゃん。でも、刀が折れたくらいで、勝ち誇りすぎじゃない?」
奴の【夕霧】は武器破壊の剣だったか。切ったくらいでは死なない吸血鬼同士ならその派生の仕方はあり得たか。想定しておくべきだった。
「魔王軍将のみんな油断しすぎじゃない? 刀が折れたくらいで勝利を確信するから、こうやって骨を折られるんだよ」
「ぐああああああああああああ!」
ナオミちゃんの悲鳴が響く。油断すんなよ。馬鹿がよ。
「あとさあ、君たちなんか気づかない?」
魔王軍将各位に注意を促す。
「時間稼ぎか、その手には乗らんぞ」
象頭のフェルディナントは私から警戒を離さないようだ。
「なに、わが軍は、どこに行ったのだ⁉」
ドン=ギュウは気づいた。
「ばかが。私に気を取られすぎなんだよ」
魔王軍は総崩れであった。ただ魔王軍将を除いて。
「なにがあったのだ」
時は少しだけ遡る。
葵たちの献策は功を奏していた。若干の分散をしていた王国軍はギルディアに集結できた。
機動力は兵数を疑似的に倍増させる。銃後の遊兵が減るからだ。
「あああああああ、輸送が間に合わないわよ」
王都ではルナの悲鳴がこだましていた。
「もう屋根に乗ってってもらおうぜ。魔術師なら多少転落しても大丈夫だろ」
「いや、設計的に耐えられないはずよ」
後方支援部隊の常である。現場の臨機応変の辻褄は、彼女たちが合わせることになる。
五月雨式に積み込んだせいで、物資人員の過剰と不足の埋め合わせを余儀なくされる。
「ルナさん!準備できました。多少魔力消費は増えますが、兵員と車が必要なはずですので、もう行きますね」
「あああああ、待って、積んだ物資の明細は」
「あ、ごめんなさい! これ予定表ですが、どうにか間に合わせます。では、ご武運を!」
「待てやああああああああああああ‼何を送ったんだよおお!!」
地獄は終わらない。
「ああ、ルナさん、伝令です。不足物資ですが、こちらになります。大至急、カタパルトにて送ってください」
「はいはい、ん? ええ⁉ あれ? だ、だ、大司教猊下、どうしてこちらに?」
「はい。なにやら損害が拡大中とのこと。拙僧も戦場に参りますが、貨物扱いで輸送してもらうのが一番早そうだったものですから。ああ、カタパルトで飛ばしてください」
「え? え? 物資輸送用カタパルトで移動? 死にますよ?」
「なに、大丈夫です。回復魔法を先掛けしておきますので」
「……はあ、分かりました。うっかり死んでも私のせいにしないでくださいね。宗教裁判なんて御免ですよ」
「はっはっは。大丈夫ですよ。遺言状は用意してきましたから」
そういうと大司教は連れ合いの僧侶と3人でカタパルトに搭乗したのだった。
「ああ、またしても不足物資が……」
「おい、ルナ、人員と被害増を考慮した兵糧、医薬品、魔力回復薬のリストだ。後任に引き継いで、我々も戦場に行くぞ」
リリーが走って来て告げた。
「え? 私も?」
「当たり前だろ、トレントが出てるらしい。鉄塊で殴り倒し、切断するお前の本懐じゃないか」
「……はあ、引継ぎですわね」
そうこぼすと彼女は続けた。
「ところでリリー、私達2人分の物資はそのリストに含まれてるの?」
「あ! あああああああぁぁぁぁぁ……」
一方ギルディア、葵が魔王軍将を引き付けている間の一幕である。
「敵主力はトレントとオークだ。斧使いはいないのか?」
「そんなにいないですよ。ハルバードが代用できるか否かってところですよ」
「お? チャンスか? お前ら斧さえあれば使えるのか?」
そこにいたのはギルディア戦力の薄いところに移動していたエリカであった。
「はい、大剣を振り回していましたので、多少重い得物でも何とかなります」
「分かった。主義には反するがやむを得ねえな。【
戦域内の得物はすべて斧へと作り変えられる。
槍、剣、棍棒様々な武器が混在していた中での変化。
その重心の移動についていけずに、扱いを間違えるものも数々である。
「グギャアアグヤ⁉」
オークは武器に振り回され、同士討ちをする始末。
そしてトレントは攻撃手段を奪われていた。いや、戦域の仕様上、枝で刺す攻撃ではなく、叩きつける攻撃であればダメージは通るのだが、そのことにまだ気づかないのである。
「皆の者お! 行けえええええ!」
「オラオラオラ! このまま突っ込むぞおおおおお!!」
エリカの移動に伴って戦域が移動していく。
前方では次々に武器の変更を強いられて混乱し、後方にはオークとトレントの亡骸が尾を引いていく。
「トレントが燃えながら戦っているのね。かわいそうに。お休みなさい。【
真昼間だというのに、その空間だけ夜が支配した。迷宮内で構築したときの直径の半分ほどしかないが、植物にとって砂漠の夜は必殺の空間、永い眠りにつくことになる。
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