剣技：紫 ～源氏物語厄介オタク御家人の末裔はその武術で異世界を切り拓く～

第41話 クイーンズギャンビット

「なるほどね。ジョン君達本気で戦ったんだね。【帚木（ははきぎ）】とおもわず口から出るほどに。」

　顔をジョン君から自分のものに戻してきた。時間制限とかあるのかな？

「ああ、実に忌々しかったぞ。一人が逃げるかと思いきや、残りの三人が魔法攻撃だ。蚊が鳴くほどの火力だが、さすがに鬱陶しい。最後までお前が来ることを信じていたっけなあ。まあ、一人死んでからはバタバタとあっけなかったがな。」

「・・・そっか。よく頑張ったね。みんな。」

「奴らも不憫なことだな。中途半端にお前に技を教えられたばかりに、私と邂逅することになったのだからな。」

「彼らは戦士だからね。戦場で散るのもまた運命でしょ？」

「・・・お前こそ本当に人間か？仲間を道具としか思っていないのか？」

「馬鹿言わないでくれる。人は死ぬんだよ。それに彼らは私がここで悲しむよりも君の首を獲ることを望むからね。涙はそれまでお預けだよ。」

　一目見ればわかる。ナオミは強くなった。たしかに虹の宝珠（プリンキパール）は魔物を強化するのだろう。膂力は前回の比ではない。

　ジョン君たちも前回の邂逅があったせいで逆に勘がくるったのかな？彼らも学習能力が高い。それが災いして、前回のスペックに適応しすぎたのかもしれない。

「で、あなたたちはここでだべりに来たの？」

「馬鹿を言うな。お前を殺しに来たのだ。フェルディナント、ドン＝ギュウ、いいことを教えてやる。」

「葵を攻撃するなら、仲間に攻撃を加えればいいのだ。こんなふうにな！」ガギンッ！

「うわ！？危ないネ！」

「受け方がなってないぞ、葵。さてはお前、誰かを守りながら叩くのは苦手だろう。」

「あい、分かった。」

「むう、そうだったのか！俺は馬鹿だった！」

「いヤー！これはまずいネ！道（タオ）！」

「茉莉！今は逃げることを優先して！」ガギン！

　とっさに二刀流。予備の刀にしてた「縁」が折れた！

　すんでのところで剣戟を避ける。

「おいおい葵、刃愛がなってないな？妾の剣はそうそう受けていいものではあるまい！」

「うるせえよ、吸血鬼。仁愛だあ？てめえらに言われることじゃねえよ。ゾンビアタックを躊躇なく実行する下郎に、愛を語る資格はないよ！」

　といってもだ。３対１はきついな。しかも一向二裏。正面に一人、左右に150度ずつ離れて二人は包囲する。

　品位も名誉もないごろつきの剣でもあるし、実用特化の戦法だ。ちなみに、吉良上野介の用心棒もこれで殺されたんだよなあ。

　まあ、こいつらは妖怪の類。武士道なんてないよなあ。まあ、私にもないんだけどね？

「茉莉、もう守り切れないから、自分でどうにかできそう？」

「うわあ、とんでもないリアリストネ。私を切り捨てる算段し始めてるネ。でも、どうにかするヨ。【戦域構築：太極圏；陰】！」

「うおらああああ！！！！！？」

「どりゃあああああああああああ！！！？？」

　いきなり敵の攻撃が当たらなくなる。白と黒の世界。

「葵、私たちが黒ネ。太極図がグレーにならないように、黒と白は交わらないね！」

「分かった！」

　なんとなくだけど、敵味方を白と黒で分別して互いに交わらなくするってことか？

　私は敵の動線を支配して、茉莉を外側に動かしていけばいいのね。

　でも囲碁みたいに四方から包囲されたら終わりそう。

「ぬおおおおおおおお！」

「ぐおおおおおおおお！」

「馬鹿どもが戦域を使え！【戦域構築：匂宮（スカーレットローズガーデン）】！」

　相変わらず薔薇の匂いがきついが、前は白亜の宮殿だったのに、今度は少し床も壁も赤い。既に鮮血を吸っているということか？

「【夕霧】！なぜじゃ？なぜ当たらない！戦域は塗りつぶしたはず。」

「うわ、ぶっ飛ばされるね。」

「ナオミ、戦域効果が衝突していないぞ！そもそも競合していない！」

「敵の戦域はもしや、空間それ自体が付与対象なのか？くそ、逃げられたか。」

　戦域合戦が起こっていない？がラッキーだ。茉莉は逃げおおせて安全圏に入った。私との戦闘の余波では死なないだろう。

「さて、モノトーンの時間は終わりだね。おめでたく紅白の世界にしようか。」

「戦域は張らないのか？」

「そこのゾウさんが炎タイプだからね。江戸の街に火は放てないだろ？」

「【濃美畏怖、濃雷斧（ノービーフ、ノーライフ）】！」

「【梅枝】！？うわ、その技、戦域外でも使えんのかよ！？反則だろ。」

「【炎獅子舞（レーヴェ）】！」

　今度はゾウさん。橙熱した剣が、ひと際光を放ち大剣が迫る。

「【篝火】！」

　光量変化を利用して意識の外側を移動する。その首貰った！

「【夕霧】じゃん。やるね。」

【朧月夜】で回避する。紫苑一刀流の【夕霧】対策だ。

　ん？やけに夕霧の精度が高いと思ったが、狙いは剣か！？

　そもそも私を狙っていないのか。

　あっ、と声が漏れた。パキンっという音ともに桔梗が折れた。